過去に発行したコピー本 「天然恋愛戦術」より
私が怪我をしてから、数週間が経った。
私の事が心配だから、私を孟徳さんの部屋へと移していた。
ずっと孟徳さんの部屋にいるのは、申し訳ないし、恥ずかしい。
何より、孟徳さんは自分の仕事で忙しい筈なのに……。
「あの……そろそろ部屋に戻っても構いませんか?」
「どうして?」
「私の怪我も大分治ってきましたし、もう大丈夫ですよ?」
「ダメ」
「でも、私のせいでお仕事が滞っちゃいますよ」
きっと、今頃文若さんや他の人たちが孟徳さんの代わりに必死で働いているに違いない。
只でさえ、孟徳さんが爵位を受けるかで揉めているというのに……。
「俺が心配だからダメ。それとも俺から離れたい?」
「そ……そんなことないです」
「本当に?」
「はい……。でも、私のせいで孟徳さんに迷惑をかけてしまうのが嫌なんです……」
「俺は迷惑とは思ってないよ」
「でも、私の面倒ばかり見て、孟徳さんが周りの人から非難されたら……」
「そんなのは気にしなくていい。ちゃんと仕事はしてるんだ。やるべき事をやっていれば、何も文句は言わせないさ」
「はい……」
孟徳さんにはそれだけの力がある。
私はそれがわかって、頷いていた。
「ただ……あの」
「ん?」
「私が孟徳さんの部屋にいるのが……恥ずかしいというか……」
「恥ずかしい……か。でも、慣れてほしいな。俺としてはずっと君にココにいてほしいし」
「えっ!」
そ、それって!!
「そこまで驚くような事?」
「だ……だって」
「君には何度も好きだって言ったし、君も俺を好きだって言ってくれた。やっぱり俺は、君を妻に迎えたいんだ」
「…………」
これはやっぱり、プロポーズだよね……。
驚く私に対して、孟徳さんは話を続けた。
「火事が起きた時にも言ったけど、あの時、君はそんな余裕はなかった。俺はあの時から……、いやそれ以上に君を妻にしたいと思ってる」
孟徳さんが私の手を握って、ジッと見つめてくる。
私はその視線から逸らせずに、孟徳さんの顔を見ていた。
話が急で、頭がついていかない。
「だから、花ちゃん。俺と結婚してくれ」
「でも……私でいいのか……」
「君じゃなきゃダメだ。君がいいんだ」
「何も……孟徳さんにしてあげられないのに……」
私の手元には、すでに本は無くなっている。
読み書きだって、まともに出来ない。
「君は気づいてないのかもしれないけど、君がいるだけで、俺は救いになっているんだ」
孟徳さんの言葉は嬉しい。
私は涙が、自然に溢れてきていた。
嬉しいのか悲しいのか、よくわからない。
そんな私に孟徳さんも困っている。
「そんなに嫌?」
「だって……孟徳さんはちゃんとした人を……お嫁さんにしないといけないのに…………」
孟徳さんは身分の高い人を選ばないといけないのに、何もない私ではダメだ。
そう、わかっているのに……。
「そんなものは関係ない。俺は君しか欲しくないんだ」
孟徳さんは私を引き寄せて、力強く抱きしめる。
「君がいないと俺はきっと……」
「………………」
私は、孟徳さんの途切れた言葉の続きがわかった。
『壊れてしまう』
そう思った。
信じてた人に裏切られて、嘘を見抜けるようになって、孟徳さんは人を信じる事を止めていた。
だけど、私と出会って、私を信じようと思っていてくれる。
私を好きだと想ってくれている。
今度、裏切られたら――、孟徳さんの心は壊れてしまうだろう。
そんな心の弱さを持っている人だ。
そんな人に私は……。
私が出来るのは、ただ一つだけ……。
私の言葉を待つ孟徳さんは、まるで心細くなった子供のようだ。
「孟徳さん……」
「うん……」
「私……孟徳さんの事……好きです」
「うん……」
「何も出来ないし……孟徳さんに迷惑をかけてしまうと思います」
「…………」
「でも……私……孟徳さんの奥さんになりたい……です」
「花ちゃん……」
言いながら泣き出してしまう私を、孟徳さんはまた強く抱きしめてくれた。
「ありがとう。すごい嬉しいよ」
「……っ。……」
伝えたい言葉があるのに、私の口からは嗚咽しか出なくて、上手く伝えられない。
お礼を言いたいのは、私の方。
私を選んでくれて嬉しかった、ありがとうって。
言いたいのに、言葉に出来ない。
代わりに、孟徳さんに強くしがみついた。
離れないように。
離されないように。
いつもこの人には、笑ってほしい。
そしてその隣には、私がいられますように……。
そう願わずにはいられなかった。
~fin~
同人活動も行っています。