――隼人と喧嘩した。
はっきり言う彼の言葉は心に刺さる。
そして、それが自分に否があれば尚更だろう。
でも……。
「何もあんな言い方しなくても……」
隼人と口論した後、ツグミは自分の部屋へと逃げ込む。
今はもう隼人の顔も誰の顔も見たくなくて、部屋へと篭り気持ちを落ち着かせたかった。
彼への不満を口にしながらも……昂った気持ちは落ち着いてくる。
「……やっぱり……私が悪いわよね……」
時間が経てば経つほど悪いのは自分で……心にあるのは罪悪感。
それでも、素直になれない自分がいるのも確かだった。
ほんとは謝りに行かなければならない。
明日も仕事だし……このままでは支障が出てしまう。
けれど、部屋を出る勇気が持てない。
また怒った隼人の顔を見るのも、厳しい言葉を突き付けられるのが嫌だった。
それに……嫌われたかもしれない。
「……」
そして、悩んでいる間にも時間だけが過ぎていき、気軽には出歩きにくい時間になりつつある。
でも……このままで良いはずない。
会いに行きたい……けど、怖い。
どうしようか――と、自分の部屋のドアの前でうろうろしていると……。
――コンコンッ。
悩んでいた刹那――、部屋のドアをノックする音が聴こえた。
「……っ!」
驚いたツグミは何とか返事はするものの、どこか声が掠れてしまう。
これでは相手に聴こえたかどうかも怪しい。
今はもう時間も遅いから、ノックする相手は限られている。
緊急での事態に呼び出しをする朱鷺宮か――それとも――。
『ツグミ……いる……よな?』
「……」
ドアの向こうにいるのは隼人だった。
開けようとして……ツグミは手を止めてしまう。
謝らないといけないのに……最後の意地と罪悪感がそれを阻む。
返事をしないツグミに尚も隼人がドアをノックしていた。
『なぁ、このドア開けて?頼むよ、お願い。
さっきは俺が悪かった、心の底から反省してる。
お前のことが心配でつい言葉がきつくなった、
本当に……ごめん。
ちゃんと謝りたいから中に入れてくれよ、な?』
「……っ」
隼人の声が喧嘩した時よりも、静かでどこか落ち込んでいるようにも聴こえる。
そう思ってしまうのは、気のせいじゃないと思いたい。
ツグミは最後の迷いを捨てて、そのドアを開けていた。
「……あ」
「隼……人」
隼人の顔を見て、ツグミは言葉が出てこない。
……会いたかった人が目の前にいて……目の前が滲んだ。
「……っ」
何か言うよりも早く、隼人が部屋へと入ってくる。
そして、ドアが閉まると同時にツグミを抱きしめていた。
「傷つけてごめん……。泣かせるつもりはなかったんだ」
「わ……私も……ごめん……なさいっ」
悪かったのは自分。
今日は仕事の帰りに寄り道をしてしまい、アパートに帰って来たのが大分遅くなってしまった。
それを見つけた隼人に怒られ、喧嘩に発展していた。
隼人は心配してくれてたのに……。
この温もりを失うことのほうが……ツグミにとってはよっぽど怖い。
隼人の腕の中で、ツグミもようやく安心出来た。
「お前も結構頑固だな」
「は、隼人だって無茶ばかりするし……」
「お互い様……か」
目が合えば、お互いに笑みが零れる。
やっぱり……彼は失えない。
そうツグミは改めて時間していた。
「――と。もう遅い時間だな。そろそろ休まないとな」
そう言って抱きしめてくれていた隼人は身体を離す。
ツグミはそんな隼人の腕を咄嗟に掴んでいた。
「あ……」
「え?」
思わず掴んでしまったものの、じわじわとその行為に恥ずかしくなっていく。
「どうした?」
「……っ」
驚く隼人の視線を感じながらも、ツグミは俯く。
視線が痛かったけど、もうここまで来たら……言ってしまうしかない。
「ちゃ……ちゃんと仲直り……しよ?」
「……」
最後のほうは声が小さくなってしまって、隼人の顔が見れない。
けれど、俯いていたツグミの顔を隼人がその手で上げさせていた。
「そんなこと言われたら……止まらないけど?」
「……っ」
すぐに唇が重なって、息を詰められていく。
ツグミは隼人の背中へとしがみつくことで応えていた。