彼の野望。

隼ツグ

彼はいつも唐突だ。

「あの……隼人」

「んー？」

「これがしたかったことの一つ……なの？」

「そう。やっぱり夢だろーこれは」

「……」

そう問われてもツグミは首を傾げるばかりだ。

隼人から改めてお願いされたこと……。

それは――。

「眠いならベッドあるのに……疲れ取れないよ？」

「わかってないな。お前の膝だからいいんだよ」

「……」

ツグミの膝の上で隼人は嬉しそうにしている。

最初頼まれた時は戸惑ったものの、こんなに嬉しそうにしてるとやって良かったなと思う。

（いきなり膝枕してって言われた時は驚いたけど……）

どうやらこれも彼の野望の一つらしい。

いったい何個あるのだろう？と疑問に思うが、こんなにも嬉しそうにしている隼人の願いは叶えたくなる。

少しだけ恥ずかしいけど……今は二人なのだから――とツグミも納得した。

それに隼人はこの後朱鷺宮と共に出かける予定で、今は合間の休憩中だった。

この後は帰りが遅くなることになっていて、大変そうな隼人をねぎらうために……いつの間にかこうなっていた。

「んー……」

「隼人？」

話をしていると、隼人の言葉も途切れ途切れになってくる。

段々と睡魔が襲っているのが見ていてわかった。

「眠いなら寝てていいよ？ちゃんと時間になったら起こすから」

「ん……悪い、頼む」

そう言って間もなく、隼人から寝息が聞こえてきた。

（あっという間に寝ちゃった……）

隼人はいつも隙がなくて、余裕があって……皆をまとめている大人だ。

こんな風に気を抜いて……眠っている姿など見たことがなかった。

（こうして見ると……やっぱり疲れた顔してるかも……）

普段は疲れた顔など決して見せない。

いつも明るく振る舞っていて皆を気遣ってくれる。

そんな隼人が今……こうして自分の膝の上で力を抜いて休んでいた。

（ふふ……何か嬉しいな）

少しでも安息の場所になれたことが嬉しいと思ってしまう。

こうして膝枕をするのは恥ずかしかったけど、隼人の休める場になっているなら嬉しいことはない。

（あ…やっぱり整った顔してる。それに……まつ毛が長いし……）

申し訳ないと思いつつ、つい見つめてしまっていた。

（これは私だけの特権……かな）

そう思うと嬉しく、今のこの時間はとても幸福な時間だった。

予定の時間になって隼人を起こすと、先ほどよりも顔色が良さそうに見えた。

「ふぁーーー。ありがとな。膝辛かっただろ」

「ううん、大丈夫だよ」

「だったら、また今度させて。今度は交代でもいいから」

「うん。いつでもしてあげる」

「え……！？」

にこにこと笑って言うツグミに、隼人は驚きを隠せずにいた。

隼人の野望の一つはツグミの中で、楽しみの一つになったのを……本人だけが知らなかった。