乙女ゲーム・八犬伝などの二次創作のごった煮ブログです。
「バカップルな二人のお題」より
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夜も更けてきた頃。
昼間ほど騒がしくなく、外からは虫の声が聞こえる。
だが、千尋にはそんな余裕がない。
「んっ……ふぅ」
寝室から聞こえるのは、千尋の声。
それも少し艶っぽい。
「……はぁ。も……アシュヴィン」
「どうした?」
「ちょっと苦しい……」
「そうか?俺はもう少し口づけていたいんだが?」
「っ!!」
アシュヴィンは千尋の唇をなぞって、笑っている。
その余裕が悔しくて、千尋はアシュヴィンの身体を押しやる。
「私は……そんなに長くは無理」
「そうか?お前の反応が面白くてな」
「面白いって」
アシュヴィンの言葉に千尋は少しムッとした。
アシュヴィンの口づけに、こっちは必死だったのに。
「そう怒るな。お前の反応があまりにも可愛らしくて、もっと見たくなる」
「そ、そんなこと言われても……」
アシュヴィンはさらりと、千尋が照れるような事を言う。
その度に、千尋はどう反応していいかわからなくなってしまう。
「千尋」
「え……んっ」
千尋の一瞬の隙をついて、再び口づける。
「ちょ……アシュヴィン」
「俺は片時もお前と離れたくないんでな。例え少しの隙間でも埋めたい」
「そんな……ん」
(く……悔しいっ!!)
アシュヴィンの言葉に反応するものの、反論できずに塞がれる。
千尋は徐々に抵抗する力を失われ、その身を預けていた。
~fin~
「バカップルな二人のお題」より
日も暮れた頃。
アシュヴィンが帰ってくると、千尋が小走りで駆け寄ってくる。
そんな千尋が可愛くて、アシュヴィンは自然と顔が緩む。
「アシュヴィンッ、お帰りなさいーー」
「ああ。ただいま」
笑顔で迎える千尋につられて、アシュヴィンも笑ってしまう。
「今日も変わりなかったか?」
「うん、今日は……」
話している途中で、アシュヴィンは何かに気づいた様子だ。
「アシュヴィン?どうしたの?」
「千尋…。怪我してるな」
「あ……」
アシュヴィンは目ざとく、千尋の手を取って見つめた。
その指には、わずかだが小さな傷がある。
「どうした?」
「ちょっと、引っ掛けちゃっただけだよ…。こんなの舐めとけば、全然平気だよ!!」
「………」
アシュヴィンは千尋の手を取ったまま、その指に口付けた。
「ちょ……っ!っ…」
アシュヴィンがその指の傷を舐めて、わずかな痛みと…。
一気に千尋の体温が上昇していく。
(……何か変な感じ…)
そんな千尋にアシュヴィンは平気な顔をして、口から離した。
千尋は対照的に、顔が紅くなり動けない。
「少し……赤くなってるな。…ん?どうした」
「あ……」
「あ?」
「アシュヴィンの馬鹿ーーーーーーーー」
気がつけば、千尋は大きく叫んでいた。
だが、アシュヴィンにはさっぱり意味がわからない。
「お前が、舐めとけばって言ったんだろうが…。だから、その通りにしただけだ」
「そういう意味じゃないーーっ」
その後…。
千尋はしばらくご立腹な様子で、部屋に立てこもったとか…。
アシュヴィンは理由がわからず、部屋の前で立ち尽くしていたらしいとか…。
そんな常世の一日。
~fin~
「バカップルな二人のお題」より
ある朝の出来事。
アシュヴィンが遠方へと仕事のために、出かけることになった。
そのため、千尋は見送りをしていた。
「アシュヴィン、もう出かけるの?」
「ああ。2~3日は留守になる」
「そっか……」
「何だ。そんなに俺がいなくなると寂しいのか」
「!!」
ストレートなアシュヴィンの言葉に、千尋は顔を紅くして俯く。
「……馬鹿」
「お前な。こういう時くらい、素直に言ったらどうだ」
それが千尋なのだから仕方ないと、アシュヴィンは分かっているが。
そんな所もアシュヴィンにとっては、可愛らしくて仕方がなかった。
「俺はお前に会えなくなるのは、寂しいんだが?」
「―――っ」
明らかにアシュヴィンは楽しそうだ。
それが悔しい反面、アシュヴィンの言葉は嬉しい。
そして、それもまた悔しい…。
千尋はアシュヴィンの服の裾を掴み、アシュヴィンを見上げた。
「私……も」
「ん?」
「私も寂しいから、早く帰ってきてね」
「!!」
素直な千尋の言葉に、アシュヴィンは不意をつかれた。
「でもっ、無理しちゃダメだから。それとっ」
千尋の次の言葉を塞ぐように、アシュヴィンの腕が千尋を抱きしめる。
「―――っ」
間もなくその唇は塞がれていた。
「んぅ……。っ……ぁ」
途中に千尋の甘い声が漏れるが、すぐには解放されない。
アシュヴィンの口付けは深く、息継ぎすら許されない。
「……ぁ。ふぅ…」
「おっと」
力が抜けた千尋をアシュヴィンが支える。
「いきなり……こんな」
「お前が素直に可愛い事を言うからな……。それと栄養補給」
「え?」
「暫く会えないんだから、これくらいいいだろう。俺としてはまだ足りないくらいだが?」
「!!!」
「だが、俺の奥方は恥ずかしいみたいだしな」
「あ、当たり前でしょ!!」
顔を紅くして怒る千尋に対して、アシュヴィンは余裕のまま笑っている。
「でも……もっと」
「もっと何だ?」
「もっと、抱きしめてほしい……かも」
恥じらいながら言う千尋にアシュヴィンは……。
「…………わかった」
先程以上に強い力で、千尋を抱きしめる。
「俺はやっぱり、お前には勝てないみたいだな」
「?……何が?」
「いや、お前は知らなくていい」
千尋の行動一つに、振り回されている自分がいる。
その行動に気持ちが大きく揺さぶられる。
それを千尋は無意識にやってのける。
「それじゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
そこには離れ難そうにしている、夫婦の姿があった。
~fin~
「バカップルな二人のお題」より
それはある日のこと。
「何か、アシュヴィン。最近疲れてるんじゃない?」
「そうか?」
落ち着いた日の夜の事、千尋はふと気がついた。
「ええ。何だか、少し顔色が悪いみたいだけど……」
「まあ、最近忙しいからな。それも仕方がないことだ」
「でも……」
千尋の表情が曇り始めている。
だが、アシュヴィンもまた気になっていた。
「お前こそ、すぐに無理するだろうが」
「え?そうかな」
千尋は自分の話になると思っていなかったので、慌てた。
「そうだろう……。この間だって、体調悪くしたし。それに…」
「大丈夫!!だって、この国を平和で保つ事は苦じゃないから…。むしろ楽しいし」
「楽しい?」
「うん。アシュヴィンとこの国を作ってるんだなぁって……だから大丈夫なの」
「……」
「?アシュヴィン?」
急に黙ってしまったアシュヴィンに、千尋は変な事を言ったのでは?と不安になる。
「お前は……どうしてそう……」
「?」
「可愛いんだろうな」
「!!!」
アシュヴィンの思いもがけない言葉に、千尋は目を丸くする。
「何言って……んっ」
その言葉はアシュヴィンによって、塞がれていた。
「んっ……っ。ぅ……」
その口付けは激しいもので、千尋は翻弄された。
しばらくしてようやく解放される。
解放された時には、千尋は体勢を維持出来なかった。
その身体をアシュヴィンが支える。
「おっと……。大丈夫か?」
「何……で。いきなりこんな…」
千尋は少し涙目になりながらも、アシュヴィンを見つめる。
「何って。お前が可愛い事を言うから、止まらなくなった」
「!!!!」
飄々と言うアシュヴィンに、千尋は顔を紅くして固まってしまう。
「……馬鹿」
「そんなに嫌なのか?」
「嫌じゃないけど……。恥ずかしいの!!」
千尋はアシュヴィンを睨むが、大して効果はない。
寧ろアシュヴィンにとっては、逆効果だった。
「なら、もう少し優しいのがいいか」
「……」
アシュヴィンの言葉に千尋は、頷く事しか出来なかった。
その言葉通りに、次の口付けは先ほどよりも優しい気がした……。
~fin~
ED後。千尋の用意が出来るのを待っているアシュヴィンは…。
「おい……まだか?」
「もうちょっと……」
千尋は先ほどから真剣な面持ちで、ソレに挑んでいた。
「もう適当でかまわないぞ」
「ダメッ。ちゃんときちっとやらないと!!」
「そうは言っても、かなり時間が経ってるのだが」
「むぅーーー」
千尋は今までずっと、アシュヴィンのみつ編みを結っていた。
だが、千尋の選定は厳しく、少しでも気に入らないことがあればやり直している。
それを先ほどから散々繰り返していた。
アシュヴィンとしても複雑で、止めさせようとすると千尋は怒ってしまう。
それは避けたいので、アシュヴィンは耐えていた。
「アシュヴィンの髪って結構難しい……かも」
「だから、采女にやらせてもかまない……と」
アシュヴィンがうっかり口を滑らせると、千尋はますます険しい表情をさせていた。
「それって、私だと嫌なの?」
「いや……、そういうわけでは……」
雲行きが怪しくなり、アシュヴィンは内心冷や汗だ。
「一緒にいることが少ないから、せめてって思ったんだけどな……」
「悪かった……」
アシュヴィンの口からは謝罪の言葉しか出てこない。
だが次の千尋の言葉で、アシュヴィンは固まった。
「風早とか那岐とかは器用なのに……」
「待て、何でその2人が出てくる」
「昔、髪が長かった頃、やってもらってたことがあって……」
「2人か?」
「うん。那岐は稀だけど、風早は小さい頃は頻繁にだったな」
「………………」
アシュヴィンとしては、もう困惑するしかない。
あの2人、特に風早が千尋の髪を触れていたことにも腹ただしい。
だが、自分が風早と同じ事を出来るかは疑問だった。
「風早は上手かったのか?」
「うんっ。それはもう笑顔でね。逆に断るとしょんぼりしちゃって……」
「ああ、それは想像できるな」
「でしょう?今日はいいよって言うと『千尋はもう、俺のことが必要じゃないんですね』って」
アシュヴィンはその光景を思い浮かべると、自然と笑みが零れた。
風早の過保護ぶりはその頃から健在で、色々と世話を焼いていたに違いない。
「それが結構あとに引くから、結局はやってもらったりね」
「でもお前も風早と似たような事を言ってるが?」
「あ……」
無意識にだが、それが出ている。
千尋の一歩も譲らないところは、風早の影響かもしれない。
そんな話をしていると、千尋の表情が暗くなっていた。
「ごめん……。アシュヴィン。これからは采女にやってもらったほうがいいのかな?」
「何だ?別に俺は迷惑じゃないぞ」
いきなりの提案に、さすがのアシュヴィンも驚きが隠せない。
「でも、結構強引にやってたよね。付き合わせてごめんなさい……」
「いいさ、たまにはこういう時間も必要なんだろう?それに……」
「それに?」
「こういう話は中々する機会がないからな。もっと聞きたい、お前の話を」
「私の?」
「ああ。せっかくの時間は有意義に使わないとな」
「うん」
千尋は再び、みつ編みに集中し始めていた。
アシュヴィンは穏やかな気持ちで、出来上がるのを待つことにした。
~fin~
千尋は水浴びをするために出かけたが…。
「うーーーん。暑いかも」
今日は少し、気温が高いような気がした。
元々熊野は、普段から気温が高い。
そして千尋は、弓の鍛錬中でもあった。
「流石に、今日は終わりにしようかな」
だが暑さのせいか、服がべったりと身体に張り付いている。
「そうだ。確か森の奥に泉があったよね」
以前も身体をすっきりさせるため、水浴びを泉でしたことがあった。
その事を思い出すと、水浴びが魅力的になってくる。
「よし、決まり」
千尋はそう決意し、泉へと向かった。
「こっちはやっぱり涼しいかもっ」
森に入ると日差しが隠れて、少し温度が下がった気がする。
「確かもうすぐだよ…ね」
千尋は記憶を頼りに、その場所へと向かう。
目指す方向から水の音がしたので、確信に変わる。
「よしっ!!着いた」
千尋は、光が差す方へと到達した。
その場所には以前とは変わらず、確かに泉があった。
「………え……」
けれど、千尋はその場所から動けなくなってしまった。
泉の真ん中には、既に先客がいた。
その姿は、何故か異様なまでの美しさを放っている。
千尋が固まっていると、相手が気づいた。
「ん……?…お前か」
「あ……アシュヴィンッ!」
それは先日までは敵であり、今は味方であるアシュヴィンだった。
「何だ。お前も水浴びしに来たのか?」
「!!っ」
千尋はようやく今の状況を思い出し、アシュヴィンに対して背中を向ける。
「なっ、何やってるのよ!!」
「水浴びに決まってるだろう」
「何で裸なのよっ!」
「服を着たままで、泉に入る奴はいないだろう」
アシュヴィンの言葉は正論なのだが、千尋は動揺して上手く頭が回らない。
(何で、こんなに恥ずかしいの)
最初にアシュヴィンを見た時は、驚いて動けなかった。
だが、意識してしまうと一気に千尋の体温が上がる。
おかげで、今はアシュヴィンの事が直視出来ない。
そんな千尋に対し、アシュヴィンは…。
「……お前。敵であった俺に、簡単に背を向けていいのか?」
「!!…今は敵じゃないでしょ。それにアシュヴィンだって……」
「俺が?」
「アシュヴィンだって、武器も持たずに水浴びしてるじゃない。危機管理がないわ」
これは以前の自分が、忍人に言われたことだった。
「ふっ……。だったら試してみるか?」
「え…?」
「武器も持っていない今の俺なら、お前でも簡単に倒せるんじゃないのか?」
「なっ…何でそんな事っ」
「お前がそういうのなら、俺に傷の1つでも作ってみろ。俺を敵としてな」
「!!!」
明らかに自信満々で言うアシュヴィンに、千尋は少し腹が立つ。
「いいわ。わかった」
「やってみろ」
千尋は弓をアシュヴィンに構える。
(今のアシュヴィンなら…)
そう弓をアシュヴィンに引いた瞬間―――。
――ザバッ
「!!」
アシュヴィンの姿が一瞬で消えた。
「え!?」
向けた弓は、泉へと消えていく。
(嘘ッ。泉に潜ったのっ)
これでは、アシュヴィンがどこにいるか見当がつかない。
そんな事を逡巡していると、一気に千尋の身体が傾いた。
「隙ありだな」
「!!!」
気がつけば、アシュヴィンが千尋の身体を押し倒している。
そしてアシュヴィンは、千尋の両手を片手で押さえ、身体は覆いかぶさっている。
これでは完全に身動きが出来ない。
「な……何で」
「これくらいの事は、出来て当然だ」
「!!」
アシュヴィンに指摘され、千尋は圧倒的な力の差を思い知った。
「こんな状況で、お前は不利だな」
「どういうこと…?」
「今のお前は俺に何をされても、文句が言えない」
「……っ!!」
アシュヴィンに指摘され、途端に千尋は怖くなった。
今のアシュヴィンの姿は裸で、千尋は身動きが出来ない。
それは、アシュヴィンがいつ、自分を襲ってもおかしくはないのだ。
「それも楽しいかもな」
「…!!」
アシュヴィンが千尋を解放するなど、甘い考えだった。
その視線は、明らかにいつもとは違う。
本当なら泣き出したい気持ちで、いっぱいだ。
けれど…。
(今、私の目の前にいるのは……。敵!!)
千尋はアシュヴィンの目線から逸らさず、じっと見つめる。
「どうした?助けを請わないのか」
「私は……、あなたに屈服しないっ。例え身体が支配されようとも、心までは……」
「…………」
アシュヴィンは、何も言わずにただ千尋を見つめる。
千尋は一向に視線を逸らさずに、アシュヴィンを見つめた。
(まいったな……)
てっきり、千尋は泣き喚くのだと思っていた。
そして自分を嫌うのではと……。
それなら、自分のものにしてしまおうとも…。
けれど、千尋は最後まで足掻く。
力の差があろうとも、決して諦めない。
本当は怖いはずなのに。
「くっ……」
「なっ。何がおかしいのよ」
「流石は、二ノ姫…といったところか?」
アシュヴィンはその手を解放し、身体を起こした。
「アシュヴィン…?」
「俺は、無理強いは好きじゃないからな」
「……」
アシュヴィンの雰囲気が変わった事に、千尋は安堵する。
そして、自分の甘さを思い知った。
「これが敵なら、途中で止めてくれないぞ」
「ええ……。わかったわ」
千尋はその身に受けて、ようやく事の重大さに気づいた。
油断が時には致命傷になる。
それをアシュヴィンによって、気づかされた。
「これに懲りたら、少しは自覚しろ」
「うん……」
アシュヴィンの言葉は厳しいが、正しい。
千尋はアシュヴィンを見つめる…が。
「!!…さっさと服を着てっ」
「何だ今頃…?」
「いいから!!」
千尋はようやく、アシュヴィンが裸である事を思い出した。
だが先程の事もあり、背中を向けるのは躊躇った。
紅くなる千尋に、アシュヴィンは呆れる。
先程の勇ましさは、どこに消えたのか、と。
「仕方ないな…。あっちを向いてろ」
「う…うん」
千尋は再び、アシュヴィンに背中を向けた。
アシュヴィンの衣擦れの音に、千尋は動揺しながらも、会話を続ける。
「全く、よくわからない女だな」
「だって…。普通は無理だよ」
「男の身体を、見た事がないんだろう?」
「!!」
人を馬鹿にしたようなアシュヴィンに、千尋はムッとした。
思わず、反論してしまう。
「別に、無い訳じゃないわ」
「………………」
その言葉は嘘じゃない。
実際、風早と那岐とは幼い時から一緒に暮らしていたし、現代でも体育とかプールとかで、そういう場面はあった。
だが、アシュヴィンがそれをわかるはずもなく…。
「そうか。それは面白くないな」
「え……?」
アシュヴィンは、千尋の身体を自分に向けさせる。
「な…何っ?…んんっ……」
そして一瞬の隙をついて、その唇を塞いだ。
「ふっ……。んっ…。」
千尋はその口付けから逃れようとするが、アシュヴィンの腕がそれを許さない。
千尋もまた、強く抵抗は出来なかった。
そしてようやく解放される。
「い……いきなり…何…?」
「口付けは初めてだったか?ん?」
「!!!」
千尋は何も言えずに黙り込み、アシュヴィンはその様子を見て満たされた。
「ば……馬鹿っ」
「くっ……。お前は本当に面白い奴だな」
顔を紅くする千尋に、アシュヴィンはただひたすら笑っていた。
そんなある1日の出来事。
~fin~
ED後。千尋が取ったある行動とは。
「あ……」
アシュヴィンの後ろを歩いていると、何かに気づいたように千尋が声を上げた。
――ギュッ。
そしてアシュヴィンの髪を掴んでいた。
「……っ!!?」
いきなり髪を引っ張られ、アシュヴィンは痛みで顔を歪めた。
「ごめんなさい。アシュヴィンの髪にゴミがついてたから取ろうと思って……」
「それでいきなり髪を掴むのか?酷くないか」
「だ……だって取ろうとしたら、アシュヴィンの足が速くて追いつかなくて……」
「で?」
「それで一生懸命早足して取ろうと髪を掴んだら……思わず力が……」
「加減を間違えたのか……」
理由を聞くと大したことのない理由だった。
自分に非があると思っている千尋は、明らかに落ち込んでいる。
「確かにな。いきなり引っ張られたら、驚く」
「…………」
「でも、自分の非を認めた奴をそこまで責めたりはしない。それに……」
「それに?」
「お前は好意でやってくれたんだからな」
「ごめんなさい……」
「もういい。それよりまだ髪にゴミはついてるか?」
「え……。あ、大丈夫よ。取ったから」
「そうか、ありがとう」
アシュヴィンは千尋を安心させるために微笑み、千尋もそれにつられて微笑んでいた。
「さて行くか」
そう言うと、アシュヴィンは千尋に対して手を差し伸べる。
「……?」
「俺の歩き方が早いのだろう?ならばこうすれば問題ない」
「うんっ!!」
千尋はアシュヴィンの手を取り、再び歩き出す。
今度はゆっくりと2人並んで……。
~fin~
ED後。アシュヴィンの帰りを待っていた千尋は…。
「アシュヴィン……、まだかな」
千尋はぼんやりと外を眺めていた。
外は薄暗く、今にでも雨が降りそうだった。
ここ数日アシュヴィンは、遠方に出かけていて帰ってこない。
時間が過ぎるたびに、不安は募っていく。
「前は……、こんなんじゃなかったのに」
アシュヴィンと少しでも離れているだけで、寂しくなってしまう。
夫婦となって、アシュヴィンのことを深く知って。
知れば知るほど、好きになって…。
好きになればなるほど、離れると不安になる。
気がつくと千尋は、窓から外へ出ていた。
それは、いち早くアシュヴィンの姿を見つけようとする、切なる行動だった。
「今日は……確か西のほうだったっけ」
今日アシュヴィンが行った国は、戦の時に協力してもらった国だ。
そのときのお礼と、これからの友好関係のために赴く。
「うーーーーーーーーん」
大切な役目とはわかっていても、感情は別物。
「私……。弱くなっちゃったな」
アシュヴィンの事だけで、心が揺れる。
それだけの想いを今まで知らなかった。
「アシュヴィン……会いたいよ」
その呟きは、殆ど掻き消された。
大量の雨が、降ってきたからだった。
その雨は激しく、周りの音を遮断する。
千尋がいる場所は屋根がないため、激しい雨は千尋に降り注ぐ。
だが、千尋はその場所から一歩も動けずにいた。
雨が少し、和らいだ頃。
そのまま、どれくらいの時間が経ったのかはわからない。
そんな中、千尋の耳に届いたのは……。
「ーーー千尋!!何やってるだ、お前は」
「あ……アシュヴィン」
千尋が気がつかないうちに、アシュヴィンは帰って来ていた。
そしてずぶ濡れの千尋の様子に、声を荒げる。
アシュヴィンを見ると、些か濡れている。
雨の中、帰ってきたのだろうか?
そんなことを千尋は、ぼんやりと考えている。
「……千尋?どうした…」
「帰ってたんだ……」
「ああ。それなのに、お前がこんな雨の中外に出ているから、驚いた」
アシュヴィンは、自分の外套を千尋に被せる。
気休めだったが、これ以上妻の身体を冷やさないためだ。
「千尋…?」
千尋は何も応えず、そのままアシュヴィンにしがみついていた。
「お帰りなさい」
そう、小さく呟いて。
「…ただいま」
アシュヴィンは、それ以上何も言わず千尋を抱きしめていた…。
「身体が大分冷えてるな…」
「あっ!!ごめん…。濡れちゃうね」
そう言って、千尋が身体を離そうとする。
だが、アシュヴィンはそれを許さない。
「そんなことはいい。こんなに濡れるなんて、いつからここにいたんだ?」
「わからない……」
千尋は、その時の状況をよく覚えていない。
ただ、必死だった事しか。
「まあいい、中に入るぞ。このままでは風邪を引く」
「うん……」
「しかし……」
「?」
アシュヴィンは、どこか楽しそうに笑っている。
「お前がそんなに寂しがりだったとはな」
「!!そんなこと」
真っ赤になる千尋に、アシュヴィンは手をって口付ける。
「こんなに冷えるまで、俺を待っていたんだろ?」
「!!」
身体は冷えている筈なのに、アシュヴィンの言葉と行動で熱くなっていく。
「だったら、責任をとらないとな」
「あ……!!アシュヴィンッッ!!」
気がつくと、千尋はアシュヴィンの肩に乗せられ、抱えられている。
そしてそのまま、動き出す。
「ちょっと、アシュヴィン!!どこ行くの!!」
「身体が冷えてるんだから、湯浴みに決まってるだろう」
「それなら、自分で行くから。下ろして」
「馬鹿だな。2人で行くから意味があるんだ」
その言葉で、アシュヴィンの行動の意味がわかってしまった。
「ちょ!!だめっ。下ろして」
「却下だ。心配させた罰もあるし。それに、お前が寂しがらないようにしてやる」
「!!」
千尋は何も言えず、固まってしまう。
「………馬鹿」
千尋はそれだけを呟いて、抵抗をやめていた。
せめて、顔が見られないのが救いだった。
「ふっ。言ってろ」
そしてそのまま、一つの部屋へと入っていた。
~fin~
ED後。千尋がある日言い出したことは。
ある日、千尋がこんなことを言い出した。
「アシュヴィンの髪って結構くせっ毛だよね」
「まあな。時々邪魔になるな」
「だから、みつ編みでまとめてるの?」
「そんなところだ。特に深い意味はないがな」
「ふーーーん」
千尋はアシュヴィンの髪に触れる。
「結構量多いんだね。まとめるの大変そう……」
「ああ。朝とかが少し時間かかる」
それを聞いて千尋は………。
「ね、私がアシュヴィンの髪結ってもいい?」
「は?」
「毎朝これから結ってあげるよ」
「いきなり何を言うかと思えば……」
「ダメ?」
アシュヴィンを千尋は見つめる。
その視線にアシュヴィンは……。
「仕方ないな。わかった」
「やった!!」
千尋は嬉しそうに喜んでいる。
「けど、何だって急に?」
「だって…………」
「?」
「その時間も一緒にいられるし……」
いくら夫婦になったとはいえ、王族である以上は多忙を極める。
そのため、一緒にいる時間もかなり限られていた。
これは千尋の一緒いる時間を、少しでも増やすための案だった。
「千尋…お前ってほんとに……」
「何?」
「可愛いやつだと思ってさ」
「!!…いきなり何!?」
「いや、思ったまま言っただけだが」
そう言いながら、アシュヴィンはにやにやと笑っている。
「もーーー」
「拗ねるな。ありがとう、これでも嬉しいんだぜ」
「ほんと」
「ああ。これからよろしく頼む」
「うん!!!」
千尋とアシュヴィンにとって、楽しみが一つ増えた。
~fin~
ED後。千尋は久しぶりの休日を過ごすことに。
太陽の位置が大分高い場所になった頃。
千尋はぼんやりと椅子に座って、窓から外の景色を眺めていた。
「今日はお休みか……」
普段は慌しい業務に追われているが、アシュヴィンに身体を休めるように言われてしまった。
『お前は少し働きすぎだ。明日一日くらいは休め』
そう言われて渋々了承したものの、身体は休息を求めていた。
おかげで身体は十分に休めたが、今度は時間を持て余していた。
普段はこうして、景色を眺めることなどない。
穏やかな景色と温かな日差しが、千尋にとって心地よい。
そしてその合間に風が吹くので、眠気を誘った。
(ちょっと……、眠いかも)
こんな場所で寝てはいけないと思いつつ、誘惑に負けそうだった。
(少しくらいだったらいいかな?)
そう思った瞬間、ゆっくり目蓋が閉じた。
常世に来てから、穏やかにすごせる日は数少ない。
いつも仕事に追われ、慌しく過ごして終わる。
それが必要だから、苦だと思ったことはないけれど。
やっぱり、1人よりも2人のほうが嬉しい。
一緒に寝ていて、隣にいる温もりとか優しく語りかけてくれたりとか。
こうして、頭を撫でてくれたりとか。
(え!!!!)
感触がリアルだったので、千尋は思わず目を開けた。
「起きたのか?もう少し寝ててもいいぞ」
「あ……アシュヴィン……」
何故アシュヴィンが、自分を見下ろしているのだろう?
それより、何よりも。
「嘘。私、そんなに寝てたっっ」
アシュヴィンがここにいるということは、もう日が暮れたのだろうか…?
「いや、まだ夕方よりも早いが?」
「え……と?」
アシュヴィンの言葉に、千尋はいまいち頷けない。
徐々に覚醒してくると、千尋は寝台で横になっていた。
先ほどの記憶だと、確かに窓にいたはずなのに。
アシュヴィンが気づいて、移動させたらしい。
「どうしているかと思って、様子を見にきたんだが……」
アシュヴィンは面白そうに、千尋を見つめている。
それに応じて、恥ずかしくなってくる。
「少しだけのつもりだったのに……」
「たまにはいいだろう。そういう日があっても」
「アシュヴィン、仕事は?」
まだ、一日が終わっていないならば、仕事もあるはずではないのか?
そう思って、アシュヴィンに問いかける。
「今日は早めに切り上げろって言われてな。リブがお前が1人でいるからって」
リブの優しさに千尋は嬉しくなる。
「気をつかってくれたのね」
「まぁな。そのおかげで、珍しいものが見れた」
「もう!!」
今までずっと、自分の寝顔を見ていたのだと思うと、やっぱり恥ずかしい。
「さて、どうする?」
「え?」
「もう少し寝るか?それとも起きるか?」
「アシュヴィンはどうしたいの?」
「そうだな……。たまには横になるか。千尋を見てると眠くなってきた」
「起きて、膝を貸そうか?」
「それでは、千尋が休めないだろう。隣で寝ればいい」
「……いいのかな」
皇と后が並んで眠っていても。
「何かあれば、リブが起こしに来るから平気だ」
頭ではわかっていても、一緒に眠るということがとても魅力的に感じる。
「でも……」
「何だ?」
「あんまり寝顔を見ないで……ね」
「別に隠すものでもないだろ?」
「恥ずかしいの!!」
「わかった、わかった」
アシュヴィンは苦笑しつつ、千尋に並んで横になっていた。
アシュヴィンが千尋の髪に触れてくると、再び千尋に睡魔が襲ってくる。
「おやすみなさい」
「ああ」
千尋はゆっくりと目を閉じていた。
~fin~
ED後。ある雨の日に…。
「今日も……雨か」
千尋が窓の外を見ると、空は暗く、雨が降り続いていた。
ここ数日、1日中雨が降っている状態だった。
ちょうどこの時期は、雨季の季節だと話には聞いた。
仕方ないとはいえ、こうも毎日だと気が滅入る。
ぼんやりと窓を見ている千尋の傍に誰かが近づいてくる。
だが、千尋にはそれが誰だかはわかった。
「よく飽きないな」
「アシュヴィン……」
「暇さえあれば、ずっと見ているだろう」
「そんなことないけど……」
だがアシュヴィンの言う通りで、千尋は時間を見つける度に窓に視線を送る。
意味などなく、ただ見ているだけ。
アシュヴィンはそんな様子の千尋の行動が、意味がわからなかった。
「意味はないんだよ。ただ何となく」
「ほう……。てっきり物思いに耽ってるのかと思っていたが……」
「深い意味はないの。ただ雨が降ってるなぁって」
「それはそうだろう」
何を今更とアシュヴィンが呆れているので、千尋は言葉を付け足した。
「今まではあんまり考えていなかったけど、こうして雨が降っている事はすごい恵まれているって思ったの」
「…………確かにな」
今までの常世は、枯れ果てた大地で空には黒い太陽が浮かぶ。
アシュヴィンはいつしかそれに慣れ、豊かな日々を忘れかけていた。
それを取り戻したのは、隣にいる自分の妻だった。
千尋の言葉に、アシュヴィンは忘れかけていた事を思い出させる。
「こうして自然の恵みを受けているのは、当たり前ではないんだな」
「うん……」
今では平和になったから気にも留めていなかった。
「だが、この日常を守っていくのがこれからの仕事だ」
「そう……だよね」
アシュヴィンの言葉に頷き、千尋は窓を閉めた。
「ところで千尋……」
「ん?」
「そろそろ髪を結ってくれないか?」
「……っ。アシュヴィン……」
「笑うな」
「やっぱり、雨が降ってるとやりづらいんだね……」
「…………」
アシュヴィンは何も答えず、千尋に背を向けた。
その様子に千尋は口元が緩んでしまう。
「……千尋」
「はいはいっ」
アシュヴィンに促され、千尋は髪を結い始めていた。
~fin~
政略結婚後。大ピンチに。
その時、完全に思考は停止した。
当の千尋は寝台に横たわっている。
千尋が見上げた先には、アシュヴィンがいて。
気がつけば、アシュヴィンに押し倒されている状況だった。
きっかけは本当に些細なことだった。
寝台に千尋が躓き、目の前にいたアシュヴィンを巻き込んだ。
その結果、この状況を招いていた。
政略結婚とはいえ、2人の間に男女の関係はない。
「あの……、アシュヴィン……?」
千尋はアシュヴィンに問うが、返答はない。
少し動けば、寝台の軋む音が聞こえる。
その音に千尋は動揺したが、アシュヴィンは何も言わない。
それどころか、アシュヴィンは真っ直ぐに自分を見つめている。
千尋はその視線を逸らす事も出来ず、アシュヴィンを見た。
知らずのうちに、アシュヴィンが先ほどよりも近くにいる。
同時に鼓動が速まり、体温が上昇する。
(やっぱり、そういうことなのっっ)
いくら結婚したとはいえ、千尋には心の準備が出来ていない。
そんな状態で身体の結びつきまでは、覚悟もなかった。
(どうしよう、どうしようっっ)
この状況では逃げる術がない。
(……逃げる?)
自分は逃げたいのだろうか?
目の前の男から。
自分の夫となったアシュヴィンから。
だが、その答えは自分にはわからない。
それとも身体を重ねれば、わかるのだろうか?
(でもでもっ。心の準備がっっ)
千尋は混乱して、どうしていいかわからない。
「――――クッ」
「え……?」
そんな千尋の緊張を破ったのは、アシュヴィンの笑い声だった。
「お前、面白いな。赤くなったり、青くなったり」
「なっ……!!」
アシュヴィンは堪えきれないように、思いっきり笑っていた。
千尋はさっきとは違う意味で恥ずかしくなる。
「あ……アシュヴィン!!」
「安心しろ。何もしないから」
そう言って、アシュヴィンはようやく身体を動かした。
「慌てる姿は面白かったな」
「ば……馬鹿!!」
千尋はアシュヴィンの余裕が悔しく、思わず近くにあった枕を投げつけた。
アシュヴィンは簡単にそれを避ける。
「何だ。だったら今からでも、相手をしようか?」
「…………!!」
その言葉に再び千尋は固まり、アシュヴィンが近づいてきた。
どうしていいかわからず、不意に目を閉じた。
そんな千尋の様子を見て、アシュヴィンは……。
「!!」
千尋の額に温かい感触があった。
それは、アシュヴィンの唇。
「全く隙だらけだな」
「~~~~っ」
千尋が顔を赤くしていると、アシュヴィンは身体を起こしていた。
「お前にその覚悟が出来るのを楽しみにしてる」
―――パタンッ。
扉が閉まる音が聞こえ、アシュヴィンが部屋を出ていった。
「あ……アシュヴィンの馬鹿っ」
千尋はそう口にするが、高まった熱は冷めそうにない。
しばらくは動けずにいた。
~fin~
ED後。眠そうな千尋にアシュヴィンは…。
それは夜も更けてきた頃。
「千尋?眠いのか」
「ん……。少しだけ……、でもだい……じょうぶ」
「どこがだ。今日はもう休んだほうがいい」
千尋は必死で目を開けようとするが、身体は正直だ。
千尋はすでに眠そうに船を漕いでいる。
あと少しすれば、完全に寝入ってしまうだろう。
そんな千尋に苦笑しながらも、アシュヴィンは千尋に語りかける。
「ほら……。さっさと寝とけ」
「やーー。もうちょっと起きてるーーー」
「お前な……」
睡魔と戦う千尋は可愛かったが、無理をしても身体には毒だ。
「アシュヴィンは……、まだ寝ないんでしょ?」
「ああ。ちょっとこの書類だけな」
アシュヴィンは仕事が少し残っており、その様子を千尋はじっと見つめていた。
それは、自分だけが先に休むのが申し訳ないとも思っているのか。
それとも別に理由があるのか。
だが、どんな理由でも千尋に無理をさせる必要はない。
「いいから先に寝とけ。身体を壊すぞ。俺はいいから……」
「だって……もう少し……」
「もう少し?」
千尋は眠気と戦いながらも、何とかそれを口にする。
「もう少し……アシュヴィンと……一緒にいたい……から」
「…………」
千尋の言葉にアシュヴィンは、一瞬我を忘れた。
自然と口が綻ぶ。
(本当に……こいつは……)
千尋は無意識にアシュヴィンを喜ばせる。
本人は全くわかっていないので、性質が悪い。
だが嬉しい反面、千尋を寝かさなくては……。
「仕方ないな」
「アシュヴィン……?」
アシュヴィンは立ち上がり、椅子に座っていた千尋の身体を抱き上げた。
「ひゃ……。ちょ……と!!」
アシュヴィンが数歩歩くと、目的の寝台に到着した。
ゆっくりと千尋の身体が、その場所へと下ろされる。
「も……アシュヴィン!!」
「お前が眠るまで、一緒に寝てやるから」
そう言うと、アシュヴィンも千尋に並んで横になる。
千尋は横になった途端に、更に睡魔が襲ってきた。
段々と、瞼が閉じてくる。
その様子を見ると既に、限界なのだろう。
「ん……。アシュ……ヴィン」
「お休み、千尋」
そっと千尋の唇に口づけを落とす。
アシュヴィンの優しい声と口づけが、千尋を眠りと誘っていく。
「すーーっ」
しばらくして、千尋から寝息が聞こえてくる。
その表情はとても柔らかだった。
「いい夢を」
アシュヴィンは、千尋を静かに見つめていた。
~fin~
バッドEDルート。アシュヴィンの想い。
浮かぶのは、泣き顔ばかり……。
自分が望んだのは、もっと別のものだった筈だった。
「殿下、大丈夫ですか?」
「リブ、何を言っている」
「いえ、姫を手放したことを後悔されてるのではないかと……」
「さあな」
リブの言葉は核心をついてくる。
それは核心に触れすぎて、時にはそっとして欲しいほどに。
「もう、あいつが常世にいる必要はない。それに、あいつがいる限りはまだ可能性が残る」
宮が兵に囲まれ、身動きが出来ない。
やがて兵糧も尽きて、皆衰弱し、死んでしまうだろう。
アシュヴィンはせめて、千尋だけでも逃がすことにした。
そしてそれに成功し、自分たちだけで戦いに挑む。
「無謀かもしれんが、時間稼ぎにでもなれればいい」
「殿下……」
「希望は捨てない。最後までは……」
アシュヴィンはじっと、窓の外を眺めている。
外の景色は暗く、あと数時間で夜が明けようとしていた。
「何が正しいかはわからん。だが、それでも思う道に進むさ」
そう口にするが、アシュヴィンの心には千尋が浮かぶ。
自分で手放したくせに、諦めたくせに。
「浮かぶのは、泣き顔だけだ」
千尋をずっと、泣かせることしか出来なかった。
笑顔なんて、殆ど見ていない。
「心残りはそれだけだ」
だから、せめて……。
千尋に託したこの世界で、幸せになって欲しい……。
自分の命をに引き換えにでも……。
~fin~
ED後。千尋の望みとは…。
「アシュヴィンッッ!!あの、待って」
「いや、それは無理だな」
千尋は迫り来る危機に、焦っていた。
特に命の危険がある訳ではないのだが、違う意味で危険だった。
千尋は寝台の上におり、そんな千尋をアシュヴィンが覆いかぶさっている。
千尋の身体を挟む様にアシュヴィンの腕があり、目の前には本人。
逃げ場が全くない状況に、千尋は焦る。
「ちょっと待って。アシュヴィン」
「何故だ?夫婦ならば当然の事だろう?」
そう言うとアシュヴィンは、衣服から見える千尋の右膝にそっと口付けた。
「……っ。ちょ……待って」
だが、アシュヴィンは一向に止める気配がない。
その行為に、千尋は本格的に焦った。
「ま、待って……てばっ!!」
「ぐっ……!!」
千尋が止めて欲しくて身体を動かすと、その足が大きく動いた。
それにより、千尋の膝に口付けていたアシュヴィンに蹴りが直撃する。
「あ、ごめんっ」
「……千尋。皇を蹴るなどお前くらいだぞ」
「わざとじゃないってばっ。大体、アシュヴィンが話を聞かないのが悪いんでしょ」
「……」
アシュヴィンは行為を中断させられた事に、少し不機嫌だ。
だが、それで怯む様な千尋ではない。
「話を聞いて欲しいの」
「何だ。言ってみろ」
アシュヴィンは不機嫌になりながらも、一応は千尋の話に耳を傾ける。
ここで千尋を怒らせても、特になるようなことは一つもないからだ。
「だって、せっかく2人きりなんだよ?」
「ああ」
「だからもうちょっと……、こう……」
「何だ?」
千尋は何か言いづらそうにしている。
その理由がアシュヴィンには全くわからない。
「その……。いきなり、そういうことをするんじゃなくて。もう少し話をしたいというか……」
「話?」
千尋の提案に、アシュヴィンは思い切り面を食らった。
いまいち、千尋の望んでることがよくわからない。
「中々2人になれないし、もうちょっと色々話とかしたいなって。もっと……、そのアシュヴィンのことを知りたいっていうか……」
「俺のことを?」
「そうだよ!!アシュヴィンの事、まだよくわかってないことだって多いし!!」
「そうか?」
つまり、千尋はもっと自分の事を知りたいらしい。
「だから、話をしたい……と」
「うん……」
千尋は自分で言っていて、少し恥ずかしくなってきた。
本人を目の前に、言うのは些か照れる。
だが、妻として夫の事を知りたいと思うのは当然のことだ。
ただでさえ、アシュヴィンは秘密主義だから。
千尋の言葉にアシュヴィンは負けて、その願いを叶えてやる。
「お前の言いたい事はわかった……。それで、俺の何が知りたいんだ?」
「えーと、その」
改めて言われると、少し困る。
だが、ここで負けては、結局いつもの通りに身体を重ねるだけになってしまう。
「その、好きなものっとか。好きな食べ物とか。いつもどんなことを考えているのか……とか」
「好きなもの……か」
「うんっ」
アシュヴィンは千尋の手を取り、そっと口付けた。
「お前……だと言ったら?」
「っっ!!」
「それにお前は甘いしな。いつ、その身を欲しても」
「っ!!!」
アシュヴィンの言葉に、千尋は何も言えない。
顔が真っ赤になり、頭の中は真っ白で何も浮かんでこない。
「どうすれば、お前を悦ばせる事が出来るか。いつもそればかり考えて……」
「…………っ」
「お前を昂ぶらせる事が出来るのは、俺だけだしな」
「もーーーーっ、馬鹿ーーーっ。黙ってーーーっ!!」
千尋は近くにあった枕をアシュヴィンに投げつける。
アシュヴィンはそれを交わしつつ、不思議そうな顔をしている。
「お前が言えって、言ったんだろうが」
アシュヴィンの言葉は本気で、だからこそ始末に置けない。
「だって、そんな恥ずかしいことばかり……」
「本当のことだ。俺は嘘は言っていない」
「…………」
真顔で言うアシュヴィンに呆れるべきか、怒るべきか……それすらもわからない。
それでも……わかることは……。
「千尋」
「……んっ」
アシュヴィンが名を呼ぶだけで、千尋の鼓動が高鳴った。
不意に口付けが落とされる。
アシュヴィンには最初から敵わない。
それだけだ。
それだけで、全てを許してしまいたくなる。
「もー。しょうがないなーー」
「何がおかしい」
「内緒」
突然笑いだした千尋に、アシュヴィンは首を傾げた。
けれど、怒っているわけではない事に安堵する。
「……で。話の続きはいいのか?」
「もう……知らない」
千尋は負けた気持ちになりながらも、ゆっくりと目を閉じた。
アシュヴィンはそれだけで意を得て、再び口付けを落とした。
~fin~
5~6章の間。
何の因果か・・・、アシュヴィンたち一部の常世軍は、中つ国と行動を共にすることになった。
真の敵を見据え、二ノ姫の言葉で天鳥船に乗ることになっていた。
追っ手を撒き、夜が更けた頃。
アシュヴィンは船の散策をしていた。
いくら共にいるとはいえ、ほんの数時間前までは敵だった者。
万が一に備え、船を調べていた。
(ん・・・ここは庭か)
そこは堅庭と聞いた気がする。
船の中に庭があるというのは、一体どういう仕組みなのか。
そしてよく見ると、そこには誰がいた。
(二ノ姫か)
戦場で短くなってしまった髪だが、金色は夜でも目立つ。
だが、その様子はどこかおかしい。
(…何だ?)
千尋はじっとその場で立ち尽くし、一方の景色を見つめている。
(・・・泣いてるのか?)
その瞳から、雫が流れ落ちるのが見えた。
小さな肩を震わせ、1人で泣いている。
(兵士たちの死を悼んでるのか・・・)
アシュヴィンはその事に、自分の胸も痛んだ。
助けたかった命を助けれず、犠牲が出た。
だが、それは戦では感情を表に出してはいけない。
――どんなに辛くても。
そんな現実をあの少女は、1人で耐えている。
叶うならば、その身体を抱きしめて涙を拭いたい。
だが・・・。
「千尋」
「・・・風早」
静寂を破ったのは、自分ではない1人の男。
姫はその男に身を寄せて、泣きじゃくっている。
「・・・っ」
アシュヴィンは、自分の手を思わず握り締めていた。
やりきれない想いを、そこに表すように。
(・・・俺は何を考えている・・・)
アシュヴィンはすぐにその場から離れていた。
想いを胸に秘めながら。
~fin~
熊野にて。
「二ノ姫・・・・・・」
「な、何っ」
「お前、馬鹿だろう」
「なっ!!!!」
アシュヴィンの言葉に、千尋は黙るしかなかった。
それは遡ること、数十分前のこと。
「遅いぞ、二ノ姫」
「わかってます」
千尋たちは、移動のため森の中を歩いていた。
だが、霧が出てきたため他の仲間たちとははぐれてしまっていた。
そして今は、アシュヴィンと2人。
合流するために急ぎ歩いていたのだが・・・。
「・・・っ」
「二ノ姫?」
千尋の様子がすこしおかしい。
元々歩みは速くはないが、先程よりも鈍った気がする。
ならば―――。
「・・・・おい」
「?何、アシュヴィン?」 「ちょっと来い」
「え、え、え?」
アシュヴィンは千尋の手を引くと、近くの木陰に座らせた。
「ちょ・・・何するの!」
「いいから黙ってろ」
アシュヴィンは千尋の足元に視線をやる。
その足を持ち上げた。
「っっ!!」
その瞬間に鈍い痛みが走る。
「やはりな。赤くなってる」
千尋の足は歩きすぎたために、赤く腫れていた。
「どうして言わない」
「だって・・・。ただでさえ、遅れているのに・・・」
「だからといって、放置してれば後々戦場に響く」
「・・・・・・・・・」
アシュヴィンの言葉は、千尋にのしかかる。
その言葉は正論で重い。
千尋が思わず俯いてしまうと、アシュヴィンが・・・。
「悪かった」
「え・・・?」
思わぬアシュヴィンの謝罪に千尋は固まる。
「お前はこういうことに慣れてないんだったな。俺の配慮が足りなかった」
「でも、これは自分のせいだし・・・」
「一緒に行動している以上はそれに気づくべきだ」
「アシュヴィンのせいじゃないわ!!」
千尋は自分の力が足りないことを恥じた。
アシュヴィンの行動は正しいのに、自分の不甲斐なさが彼に迷惑をかけている。
「これは自分が招いた結果だから。早く・・・行きましょう」
そう言って、千尋は立ち上がり、再び歩き出す。
その背中を見て、アシュヴィンは。
「・・・・・・・・全く気の強い女だ」
守られているだけでない千尋に、アシュヴィンの興味は一層増した。
そして、アシュヴィンも再び歩き出す。
先程よりもゆっくりに。
~fin~
ED後。 バレンタイン話。
日の仕事が終わり、空も暗くなり時間が経った頃。
ようやく、アシュヴィンが寝室へと戻ってきた。
「お疲れ様。アシュヴィン」
「ああ。ただいま」
千尋が声をかけると、アシュヴィンは優しく返してくれる。
その表情には疲労が現れている。
「大丈夫?無理してない?」
「多少はな。まだまだ、常世を再興させるにはやらなくてはならないことが多い」
「……うん」
「それでも、確実に前進はしてるから、心配するな」
アシュヴィンは千尋の頭を撫でていた。
「アシュヴィン……」
「お前は顔に出ていて、わかりやすい」
「……そうかな」
「けど、俺のことを心配してくれるのは素直に嬉しい」
「……!」
優しく笑うアシュヴィンに、千尋の胸が不意に高鳴った。
気を遣う筈が逆に気を遣われてしまっている。
(これじゃダメ!)
アシュヴィンの疲れを癒してあげたいのに、その相手に気遣われている。
「あの……アシュヴィン……」
「何だ?」
「今日、お菓子を作ってみたんだけど……」
「菓子?」
千尋の突然の言葉にアシュヴィンは驚いた。
しかも、妃である千尋が作ったと言う。
「もしよかったら食べてくれる?」
「ああ」
千尋が自分のために作ってくれたのなら、断る理由もない。
千尋はいそいそと、お菓子を取りに行った。
「はい、アシュヴィン」
綺麗に包装された箱をアシュヴィンに渡す。
その包みを開けると、お菓子が入っていた。
アシュヴィンはそれを手に取り、口に入れる。
「甘い……な」
「ダメだった?」
「いや、たまにはこういうのも悪くない」
普段はあまり甘いものを口にしないが、千尋の作った物は別だ。
いや、千尋が作ったから、尚更甘く感じるのだろうか?
「しかし、急にどうしたんだ?菓子を作るなんて」
「え……と。それは……」
千尋は何やら言いづらそうにしている。
「何かあるのか?」
「疲れた時には甘いものがいいかと思って……。それに…」
「それに?」
千尋は更に言いづらそうに、顔を紅くさせている。
「前にいた世界ではね。好きな人に贈り物をするんだよ」
「……」
「お菓子をあげて、告白する日があって……」
千尋はそれ以上は続けられずに、顔を手で隠した。
その様子はいかにも、顔から湯気が出そうになっていて……。
「成る程な」
聡いアシュヴィンは、千尋の言おうとしていることがわかった。
そしてその意味を理解して、意味ありげに笑っている。
「お前が俺に告白とな……」
「……」
千尋は少しだけムッとして、その視線から逃れようとする。
けれど……。
アシュヴィンは千尋の手を取って、自分の方へと向けさせる。
「拗ねるな」
「だって、、アシュヴィンが……」
悪いのに、と続けようとして言う事が出来なかった。
アシュヴィンが千尋の口に、お菓子を入れたから。
「~~~~~~~っ」
千尋が口に含んだお菓子のため、何も言う事は出来ず、その視線だけをアシュヴィンに送る。
アシュヴィンには何も応えていない様子で。
「何か言いたそうだな」
そう言ったアシュヴィンが、今度は自らの口で千尋の口を塞ぐ。
「っ!!」
その口付けは深く、千尋の中へと入ってくる。
「~~~~~っ!!」
しばらくしてから、アシュヴィンは千尋を解放する。
気がつけば、その口の中の物は無くなっていた。
アシュヴィンを見ると、口を動かしている。
「あ……アシュヴィン……。今……」
千尋がそれ以上何も言えずにいると、アシュヴィンは……。
「何だ。お前が何か言いたそうだったから、手伝ったまでだが?」
「!!!!!」
アシュヴィンの言葉に千尋は、その身体を震わせている。
そして……。
「アシュヴィンの馬鹿ーーーーーーーーーーっ」
そんな声が城中をこだましていたらしい……。
そして皇は妃の機嫌を取るために、必死だったそうな……。
~fin~
ようやく、アシュヴィンが寝室へと戻ってきた。
「お疲れ様。アシュヴィン」
「ああ。ただいま」
千尋が声をかけると、アシュヴィンは優しく返してくれる。
その表情には疲労が現れている。
「大丈夫?無理してない?」
「多少はな。まだまだ、常世を再興させるにはやらなくてはならないことが多い」
「……うん」
「それでも、確実に前進はしてるから、心配するな」
アシュヴィンは千尋の頭を撫でていた。
「アシュヴィン……」
「お前は顔に出ていて、わかりやすい」
「……そうかな」
「けど、俺のことを心配してくれるのは素直に嬉しい」
「……!」
優しく笑うアシュヴィンに、千尋の胸が不意に高鳴った。
気を遣う筈が逆に気を遣われてしまっている。
(これじゃダメ!)
アシュヴィンの疲れを癒してあげたいのに、その相手に気遣われている。
「あの……アシュヴィン……」
「何だ?」
「今日、お菓子を作ってみたんだけど……」
「菓子?」
千尋の突然の言葉にアシュヴィンは驚いた。
しかも、妃である千尋が作ったと言う。
「もしよかったら食べてくれる?」
「ああ」
千尋が自分のために作ってくれたのなら、断る理由もない。
千尋はいそいそと、お菓子を取りに行った。
「はい、アシュヴィン」
綺麗に包装された箱をアシュヴィンに渡す。
その包みを開けると、お菓子が入っていた。
アシュヴィンはそれを手に取り、口に入れる。
「甘い……な」
「ダメだった?」
「いや、たまにはこういうのも悪くない」
普段はあまり甘いものを口にしないが、千尋の作った物は別だ。
いや、千尋が作ったから、尚更甘く感じるのだろうか?
「しかし、急にどうしたんだ?菓子を作るなんて」
「え……と。それは……」
千尋は何やら言いづらそうにしている。
「何かあるのか?」
「疲れた時には甘いものがいいかと思って……。それに…」
「それに?」
千尋は更に言いづらそうに、顔を紅くさせている。
「前にいた世界ではね。好きな人に贈り物をするんだよ」
「……」
「お菓子をあげて、告白する日があって……」
千尋はそれ以上は続けられずに、顔を手で隠した。
その様子はいかにも、顔から湯気が出そうになっていて……。
「成る程な」
聡いアシュヴィンは、千尋の言おうとしていることがわかった。
そしてその意味を理解して、意味ありげに笑っている。
「お前が俺に告白とな……」
「……」
千尋は少しだけムッとして、その視線から逃れようとする。
けれど……。
アシュヴィンは千尋の手を取って、自分の方へと向けさせる。
「拗ねるな」
「だって、、アシュヴィンが……」
悪いのに、と続けようとして言う事が出来なかった。
アシュヴィンが千尋の口に、お菓子を入れたから。
「~~~~~~~っ」
千尋が口に含んだお菓子のため、何も言う事は出来ず、その視線だけをアシュヴィンに送る。
アシュヴィンには何も応えていない様子で。
「何か言いたそうだな」
そう言ったアシュヴィンが、今度は自らの口で千尋の口を塞ぐ。
「っ!!」
その口付けは深く、千尋の中へと入ってくる。
「~~~~~っ!!」
しばらくしてから、アシュヴィンは千尋を解放する。
気がつけば、その口の中の物は無くなっていた。
アシュヴィンを見ると、口を動かしている。
「あ……アシュヴィン……。今……」
千尋がそれ以上何も言えずにいると、アシュヴィンは……。
「何だ。お前が何か言いたそうだったから、手伝ったまでだが?」
「!!!!!」
アシュヴィンの言葉に千尋は、その身体を震わせている。
そして……。
「アシュヴィンの馬鹿ーーーーーーーーーーっ」
そんな声が城中をこだましていたらしい……。
そして皇は妃の機嫌を取るために、必死だったそうな……。
~fin~
ED後。 アシュヴィン誕生日話。
「誕生日?」
「そう!!アシュヴィンは何か欲しいものある?」
唐突に千尋から言われたのは、自分の誕生日について。
そして、欲しいものがあるかどうかを聞かれてるのだが……。
「欲しいもの……」
「?」
アシュヴィンはじっと千尋を見つめる。
これで自分の欲望のままに伝えたら、千尋はきっと激怒するに違いない。
だから、譲歩してみる。
「そうだな……。お前からの」
「私からの?」
「口づけが欲しいところだな」
「!!!!」
案の定、千尋はだんだんと紅くなり、固まってしまっている。
(あーー。やはりな)
アシュヴィンは、予想通りな反応に苦笑してしまう。
「あ……アシュヴィンッ」
「?」
「目を……閉じてくれる?」
「ああ……」
アシュヴィンは言われるがままに、目を閉じた。
千尋はそんなアシュヴィンの身体を引き寄せた。
「……っ!!」
不意に傾いた身体に驚き、程なくして唇が触れた。
アシュヴィンは驚いて目を開けると、千尋は俯いて手で顔を隠す。
「ち……千尋?」
「こ……これでいい?」
恥ずかしそうに訴える千尋に、アシュヴィンは言葉が出ない。
千尋の行動と、自分の願いを叶えてくれた気持ちに。
「千尋……」
「あ……アシュヴィン?」
アシュヴィンはどう伝えていいかわからず、思わず抱きしめていた。
千尋はその腕の中で、次第に力が抜けていく。
「喜んでくれた?」
「ああ。とても」
アシュヴィンの表情が嬉しそうなので、千尋も安心した。
自分から行動するのは気恥ずかしいが、喜んでくれた。
「おめでとう、アシュヴィンッ」
「礼をしなくてはな」
「え……?」
アシュヴィンは千尋の顔を上げて、その口を塞いだ。
「っっーーーーー!!」
その口づけからは、解放されることを許されない。
しばらくその口づけが続いた後…。
「……っ。あ……アシュヴィン……」
「行くぞ……千尋」
「え……!?」
アシュヴィンは千尋の身体をそのまま持ち上げ、そのまま歩き出す。
「ちょ……。どこ行くの!!」
「決まってるだろう?」
アシュヴィンの言おうとしていることが伝わり、千尋はその肩口に顔を埋める。
「もーーー、馬鹿」
「それは、肯定として受け取っておく」
アシュヴィンはそのまま、部屋へと向かっていった。
~fin~
ED後から数年後のお話
時間が遅くなった頃。
千尋は急ぎ、足を速めた。
「遅くなっちゃったーー。今日はアシュヴィンが帰ってくるのにっっ」
他国へ行っていたアシュヴィンが、今日帰ってくる。
仕事中の千尋はそれを人づてで聞き、急いで自分の仕事を終わらせた。
だが、予想外のことが多く、思いのほか時間がかかってしまったのだ。
「今日はせっかく……一緒にいられるのにっ」
ようやくアシュヴィンがいる寝室に辿り着き、千尋はその扉を開けた。
「アシュヴィン、ごめんっっ」
「しっ……」
アシュヴィンは、人差し指を口に当てて、静かにするように促した。
「あ……、ごめんっ」
アシュヴィンは寝台に腰掛けており、その膝には寝息を立てている2人の子供がいた。
その子供の面立ちは、千尋とアシュヴィンそれぞれに似ている。
「寝ちゃったんだね」
「ああ…。2人とも頑張ってはいたんだがな」
アシュヴィンはそう言いながら、2人の頭を撫でてやる。
2人を見ているアシュヴィンの表情は、とても柔らかい。
千尋はそんなアシュヴィンの隣に座る。
ぴったりとくっついて。
「お帰りなさい、アシュヴィン」
「ああ。ただいま」
小声で挨拶を交わすと、2人の唇が自然と重なった。
それは一瞬で、すぐに離れる。
「特に変わりはなかったか?」
「ええ。2人がアシュヴィンにすごい会いたがって、大変だった」
その言葉を聞いたアシュヴィンが、千尋の髪に触る。
「お前は?」
「え?」
「お前は俺に会いたくなかったのか?」
「……そんなの言わなくてもわかってるくせにっっ」
千尋は軽くアシュヴィンを睨みつける。
アシュヴィンには、まったく答えなかったが。
「そんな顔をするな。また口づけたくなるだろう?」
「んっ」
言うが早いが、千尋の言葉を待たずしてその唇は再び塞がれた。
「~~~~もうっ!!」
長くなりそうな口づけを、千尋は押し留める。
いくら寝ているとはいえ、子供の前だ。
行為に慣れてきても、抵抗はある。
「でも、アシュヴィンがこんなに子育てに協力してくれるとは思わなかった」
「そうか?」
「てっきり、采女や乳母に任せきりだと思ってた」
実際はそうなる筈だった。
だが、千尋は自分の手で育てることを譲らず、アシュヴィンもそれに応じた。
アシュヴィンの協力がなかったら、千尋はずっと子育てをしていただろう。
2人の子が落ち着いた今、千尋は少しずつだが仕事をこなしている。
時間が空いている時は、アシュヴィンも面倒を見ていた。
「自分の子供なんだ。当然だろう?」
「そうだけど……」
千尋がアシュヴィンを見ると、子供の頭を撫でていた。
その光景は千尋としても、大変微笑ましい…・・・。
――――が。
「千尋、何むくれてるんだ」
「え?」
「眉間にしわが寄ってるぞ」
アシュヴィンに眉間を指摘され、千尋は今気がついた。
「どうかしたのか?」
「………・…」
「言ってみろ」
口ごもってしまった千尋に、アシュヴィンは先を促す。
「だって……」
「ん?」
「…………私もアシュヴィンに甘えたいもの」
「…………」
千尋は自分の言葉に、激しく恥ずかしくなった。
自分の子供に嫉妬し、寂しさを感じてしまうなんて……。
アシュヴィンはきっと、呆れているに違いない。
「ちょっと待ってろ」
「……え?」
アシュヴィンは采女を呼び、2人の子供を預ける。
そして、千尋の元に歩み寄った。
見つめる千尋をアシュヴィンは、その腕に閉じ込めた。
「アシュヴィン?」
「お前がそんなことを言うから、触れたくなった」
「ごめんね。子供みたいで」
「いや、そんな風に言われて嬉しくない訳がない」
「っっ」
アシュヴィンは千尋の唇を奪った。
それは徐々に激しさを増していき……、気がつけば組み敷かれていた。
「ちょ……、アシュヴィンっ」
「何だ?」
「だって、アシュヴィン疲れてるのに」
「そんなことか」
「そんなことじゃなくてっっ」
自分の身体を労わらないアシュヴィンに、千尋は怒る。
「お前が俺を煽ったんだぞ」
「…………なっ」
「安心しろ。寂しさなど感じさせぬくらい、今日は付き合ってやる」
「……っ」
千尋はもう、顔が紅くなって言葉が出ない。
その隙に、アシュヴィンの顔が再び近づいてくる。
半ば諦めた千尋は、ゆっくりと目を閉じた……。
~fin~
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文月まこと
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乙女ゲーム・八犬伝中心に創作しています。萌えのままに更新したり叫んでいます。
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