最近、花の様子がおかしい。
献帝が長安に入り遷都された。
それぞれの力が拮抗した今、情勢は安定している。
ここに来るまでに色々あったが、それでも平穏が保たれていた。
そんな中で、ようやく長い時を経て、花と想いを通わせたのだが……。
近頃仕事が忙しくて、花と会う時間が減っていたのだが……。
ようやく会えば、少しだけ様子がおかしく感じる。
少しだけ眠そうだったり、何かを隠しているかのような態度を見せる。
流石に問い詰めるような真似はせず、そのままにしていた。
「あ……」
そんな風に考えていたからか、花の姿が見えた。
単純と思いながらも、その姿に近づいてく。
近づいてみると、傍には雲長がいた。
話をしている2人に、声をかけようと思っていた時だった。
「今日か?」
「はい、時間がある時に、またお願いしたいんですが……」
「わかった。ところで玄兄はまだ秘密なのか?」
「はい……。まだ言えなくて……」
「そうか……。なるべく早くに言った方がいいんじゃないのか?」
「わかってるんですけど……」
「焦る必要は無い。心の準備が出来たら言えばいいだけだ」
「はいっ、ありがとうございます」
「また、あとでな」
「失礼しますっ」
2人の足音が遠ざかっていくのがわかった。
だが、俺はそのまま動けずにいた。
「な……何だ。今のは……」
気になるのは、花と雲長の会話だ。
2人の会話がやけに親密に感じて、入っていく事が出来なかった。
その上……。
「俺に秘密って……何だ?」
花が俺には言えない事を、雲長と秘密を共有している。
その事実が、俺の中にある感情を黒く塗り潰していく。
「馬鹿か……俺は」
花と雲長は仲間として会話しているだけなのに、身勝手な感情を抱いてしまう。
花という存在が、俺の心を簡単に乱していく。
それほどに俺は、花に惹かれて止まない。
「気になるなら、確かめてみるしかない……か」
今日の仕事のめどがついたので、俺は花の部屋へと訪れている。
「花、今いいか?」
「げ……げ……玄徳さんっ」
俺の突然の訪問に驚いたのか、それとも何かあるのか、花は明らかに動揺している。
大きな物音がしたかと思うと、花が慌てて出てきた。
「どうしたんですか?」
「いや、お前の様子が気になって……な」
「?」
「最近、あまり顔を合わす時間もないし……会いに来た」
「はい……」
「ところで今、何かすごい音が聞こえたんだが……?」
「あ……と。その……」
言いにくそうにしている花に、俺もあまり言いたくない言葉を口にした。
「何かあるのか?実は今日……、お前が雲長と話してるのを聞いたんだが……」
「ええっ!」
「雲長は知っているのに、俺に言えない事なのか?」
「……」
俺の言葉に花は、黙って考え込んでしまう。
「花」
「実は…………ちょっといいですか?」
「ああ」
花は俺の手を掴んで、自分の部屋へと連れて行く。
俺はその光景を目にして、驚いた。
「これは……」
部屋の机にあったのは、いくつもの料理だった。
明らかにその量は多く、しかも少し焦げてしまったのもある。
「これ、食べるのか?」
「一応……」
花は、明らかに落ちこんだ様子で答えていた。
「この料理はどうしたんだ?」
「私が作ったんですけど……、ちょっと失敗してしまって……」
「お前が作った物なのか!」
「はい、雲長さんや芙蓉姫に教わってるんですけど……、やっぱり慣れてなくて、1人で作ると失敗してしまったんです」
「でもどうしてこんなに……?」
少なくとも、女1人が食べる量ではないと思う。
「玄徳さんに食べて欲しかったんです。けど、失敗した物なんて渡せないから……」
「だから、雲長に頼んで教わってたのか……」
「はい……。前に作った時、すごい喜んでくれたから……。また作ってたんですけど……、どうしても上手くいかなくて……」
「花」
俺は気がつけば、花を抱きしめていた。
その柔らかな身体に触れれば、それだけで俺の心は満たされていくようだった。
「げ、玄徳さん?」
「すまないな。気を遣わせた」
「そんなっ!!私が勝手にやった事ですよ?」
「別にお前の作る物なら、どんなものでも食べるぞ」
「でも……」
「そんな風に遠慮するな。俺はお前の気持ちが嬉しいんだ」
「本当ですか?」
「ああ……だが……」
「ん……」
俺は花の唇を唐突に塞ぐ。
そういえば、こうして触れるのもかなり久しぶりだ。
息を乱している花に、俺は言葉を続けた。
「お前が他の男と秘密を共有してたと思うと、いい気分はしないな」
「ごめんなさい……」
「どうも俺はお前に関しては、余裕が無いみたいだ」
「玄徳さん……」
「花……」
今度は花が目を閉じてから、再び口づけていた。
「とりあえずは……、この料理を食べるか」
「そうですね」
久しぶりに2人で過ごす時間は、穏やかに過ぎていった。
~fin~