乙女ゲーム・八犬伝などの二次創作のごった煮ブログです。
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今日はカミツレデートの日って事で。
久々に堂郁ですーーー。
やっぱ、好きだわ。図書戦。
久々に堂郁ですーーー。
やっぱ、好きだわ。図書戦。
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この日は、特別な日。
いつものお店で、カミツレのお茶を飲む。
――2人で。
それは毎年欠かさず……行っていることだ。
カミツレのお茶を飲みながら、堂上がポツリと呟く。
「そういえば……あの時お前……緊張してたな」
「それはそうですよーー」
「どうしてだ?」
「う……意地悪です」
郁はあの時の事を思い出して、みるみると顔が赤くなる。
初めて特別な意味を持って、2人で出かけた日。
特に郁としては、堂上への気持ちを自覚して……意識していた。
当日もあわあわしていて、服も中々決まらなかったほどだ。
緊張して、ドキドキして、特別な日になった。
その後は、当麻の事件が起こりそれどころでは無くなってしまったが……。
何年経っても、忘れることはないと思う。
「どうしてだ?郁」
再度、堂上に問われて郁は観念した。
堂上の声は甘くて、勝てそうもなかったから……。
「篤さんと……初めて2人で出かけたからですよ。やっぱり緊張しましたし……」
「………そうだな」
郁にはわからないだろうが、あの時は堂上も緊張していた。
今まで郁を部下という名目を掲げていたのに、覆したのは自分自身。
もう郁への気持ちに嘘はつけなかった。
今ではもう隠すつもりなどない。
そんな堂上に対して、郁ははにかんで笑う。
「でも……こうしてまた2人で飲めて嬉しいです……これからもずっと……こうして2人でカミツレを飲めるんですね」
「………」
「篤さん?」
何か変なことを言っただろうか?
堂上が頭を抱えていて……深いため息をつく。
「……お前には負ける」
「え?え?何でですか?」
「…………無自覚か……。恐ろしいな」
「???」
これからもきっと郁への気持ちが……溢れていくのだろう。
堂上はそんなことを思いながら、首を傾げる郁を見つめていた。
fin
夫婦。
郁と堂上は付き合い始めて、正月を一緒に過ごした。
それは隊内で気を遣ってくれた部分もあり、2人にとってとても幸せな時だった。
そして……今年は。
「篤さん……?」
「郁。起きたのか」
郁が目を覚ますと、堂上はすでに朝の支度を始めていた。
いつもながら、郁よりも先の行動をする。
郁も早く起きようとするのだが、睡魔には勝てずにいた。
また、堂上が郁をぎりぎりまで寝かしてあげようという事もあり、
郁は今日も堂上よりも後に起きていた。
「今日からまた、新しい1年だな」
「あ……」
堂上に言われて、郁は新しい年を迎えたことを思い出す。
「明けましておめでとう」
「おめでとうございますっ」
2人は自然と笑みが零れていた。
「夫婦になって、初めてのお正月ですね」
「そうだな」
「また、こうして挨拶が出来て嬉しいです」
「お前……」
「…?篤さん?」
「相変わらず、不意打ちだ」
可愛いと囁かれて、郁も自然と顔が紅くなる。
そんな郁に、堂上は優しく唇を重ねた。
「今年もよろしく」
「はい……」
堂上の言葉に、郁は再び笑っていた。
~fin~
夫婦。
窓から差し込む陽の光を感じて、郁はゆっくりと目を開けた。
「ん……」
「郁、起きたのか?」
自分に優しく声をかけてくれるのは、一人しかいない。
「篤……さん?」
「ああ、おはよう」
「おはよう」
堂上が郁に優しく微笑み、それだけで幸せになれる。
目を覚まして、朝から好きな人の笑った顔を見れて、自分は本当に幸せ者だと思う。
「もう、ご飯出来てるから、用意して」
「うん……」
郁は眠そうに身体を起こし、その仕草に堂上は笑ってしまう。
「郁ーー?」
「だいじょう……ぶ」
船を漕いでいる状態の郁に、堂上は何かを思いついた様子で郁に近づく。
「郁」
「!?」
堂上が郁の耳元で囁くので、その声に郁は目がぱっちりと開いた。
「起きた?」
「篤さん、ずるい……」
耳元で名前を呼ぶのは、反則だった。
郁は元々耳が弱い上に、堂上の声だと威力が大きい。
そのおかげで郁はしっかりと覚醒した。
「だったら、すぐに起きればよかったんだよ」
「……次からは気をつけます」
改めて、堂上には敵わない事を郁は思い知った。
~fin~
夫婦。
「篤さーん。お風呂出たよーー」
「ああ」
「……」
郁がお風呂を出ると、堂上はすでに寝室のベッドで本を読んでいた。
ただ本を読んでいるだけなのに、その真っ直ぐな眼差しに思わず見蕩れる。
その場に立っている郁に、堂上が視線を向けた。
「何突っ立ってんだ?」
「あ……」
そんな郁に、堂上が手招きをして隣に座らせる。
「まだ濡れてるじゃないか」
「でも、髪短いからすぐ乾いちゃうし」
「そう言ってすぐ風邪引くだろうが……いいから、ほら」
「もーー。大丈夫なのに」
郁は堂上にタオルを渡すと、それを受け取った堂上が髪を拭いている。
堂上は郁に対しては、人一倍世話を焼く。
郁は嬉しい反面、少し恥ずかしくなる。
「そう言えば、お前。昔髪が長くした時があったよな」
「あーと。パーティーの警護の時だよね。私が犯人を捕まえたら水浸しになっちゃって」
3年……いやもう4年も経つだろうか?
出版社主催のパーティーに、稲嶺の警護にあたった時だった。
犯人を捕まえたものの、噴水の中に落ちた郁はずぶ濡れになってしまった。
そのため、ホテルの関係者がドレスを用意してくれたが、
ドレスアップとウィッグをつけられてしまい、普段とは全く違う装いになった。
普段の郁を知っていれば、誰もが驚くような。
尚且つ、周囲の男の目を惹くほどだった。
そのため、郁が男に迫られたりと色々あったのだが……。
「普段は髪が短いから驚いた」
「確かに。私も伸ばしことがなかったから、新鮮でした」
あの時の事は、滅多に体験できないことだったと、今では思っている。
「伸ばしてみようとか思わないのか?」
「うーん。もうこの長さで慣れちゃったから、逆に違和感ありそう」
「そうか、お前らしい」
「それとも、篤さんは長いほうがいい?」
「俺か?」
郁が探るように堂上を見つめている。
あの時の郁は確かに綺麗だった。
その姿に見蕩れて、言葉にできはないほどに。
だが、男の目を惹くのだけは勘弁してほしい。
「俺はどっちでもいいけどな」
「えーー」
堂上の言葉に、郁は不満の声を上げる。
仕方ないので、わかりやすい言葉で付け足した。
「お前なら何でもいいってことだ」
「あ……ありがとうございます」
堂上の言葉が郁にとって、大きく揺れて顔が紅くなっていく。
昔話のついでに、郁はあの時に感じたことを口にした。
「あ、あの時、堂上教官が嘘でも『俺の女』って言ってくれて嬉しかったです」
そう言えばそんなことも言ったかと、堂上は思い出した。
照れて笑う郁が、今ではとても愛しい。
「あの時は嘘だったが……今でもそれは有効だ」
「はいっ」
「おい、こらっ」
堂上の言葉に嬉しくなり、郁は思わず抱きついていた。
~fin~
夫婦。
「うわぁーーーーっ」
その朝は、郁の叫び声から始まった。
その日は休日。
少し早めに目が覚めた郁は、朝食作りをしていたのだが・・・。
「また・・・、失敗しちゃった・・・」
郁が持っているフライパンには、目玉焼きらしきもの・・・があった。
色は焦げていて、形は崩れている。
とても食べる気にはなれない。
「ど・・・どうしよう・・・」
結婚してからというものの、家事は堂上と折半。
最初の頃は、郁と堂上はお互いに料理の腕は同じ位だった。
だが、どうしても得手不得手があるようで・・・。
明らかに堂上のほうが上達が早く、郁は失敗ばかり繰り返していた。
「うううっ・・・。篤さんの分も焦がしちゃったよ・・・」
自分だけならともかく、堂上の分まで失敗してしまい落ち込みは倍増だ。
食べ物を粗末にするのは気が引けたが、これを堂上に食べさせる気にはなれない。
意を決して処分しようとしたが・・。
「郁?」
「あ・・・。篤さんっ」
いつの間にか背後にいた堂上が、声をかける。
「お・・・おはよう。篤さん」
「おはよう。どうしたんだ?しょんぼりして」
郁は必死に隠そうとしたが・・・。
さすがに堂上は、郁の微妙な変化も見逃さない。
「え・・・・と。これ・・・」
「あーーー」
郁がフライパンの中身を見せると、堂上は納得した様に頷いた。
「ご・・・ごめんなさい。作り直すから・・っ」
堂上は郁の手を止め、郁が持っていたフライパンを取った。
「いいよ。食べるから」
「でも・・・」
「別に捨てることないだろう。郁がせっかく作ってくれたんだから、食べるよ」
「・・・・・・」
その言葉に郁は何も言えなくなる。
堂上は優しい。
郁の些細な失敗でさえ、許してくれる。
何とかして喜ばせたいのに、失敗ばかりだ。
「郁・・・?」
「ごめんなさい・・・。いつも失敗ばかりで・・・。ちっとも上手くならないし・・」
料理をまともに出来ない自分に、いつか堂上が呆れるのではと不安になってしまう。
だが、堂上はそんな郁の頭を優しく撫でた。
「ゆっくりでいい。これから上手くなればいいんだ」
「篤さん・・・」
優しい言葉をかけてくれる堂上に、郁は泣きそうになった。
「今日の昼は一緒に作ろうか。また、教えるから・・」
「うんっ」
堂上の提案に郁は頷いて、応えた。
少しでも喜んでもらえるようにするには、練習するしかない。
それを堂上は待っててくれている。
「ご飯にしよう。せっかく作ってくれたのが、冷める」
「あ・・そうだね」
郁と堂上は向き合いながら、席に着いた。
「いただきます」
2人の穏やかな休日が始まろうとしていた・・・。
夫婦。
「くしゅんっ」
「郁?寒いか?」
郁のくしゃみが聞こえて、堂上が台所へと寄ってくる。
「平気平気っ。何だか急に冷え込んできたね」
季節は11月も終わり。
特に今日は一段と冷え込んでいる。
「もうすぐ12月だし。いきなり寒くなったからかなぁ」
「確かにな」
堂上は郁の手を取り、その手を自分の手で握る。
「篤さん?」
「やっぱり温いんだな。お前の手」
「もーー。また、子供みたいとか言うんでしょ」
堂上の言葉に郁は思わずむくれる。
そういうところが子供なのだが、と言いかけて堂上はとどまる。
「でも、ここでずっといたら流石に風邪を引くな」
おいでと、堂上が郁の手を引きリビングまで連れてくる。
そして自分が座ったあとに郁を自分の膝の上にのせた。
「あっ……。篤さんっ」
「こうすれば少しはマシになるだろ」
「え……。えええっ」
堂上はその体勢のまま、郁をギュッと抱きしめていた。
堂上の身体から温もりが伝わってくる。
「郁?」
「ううーーっ。やっぱり恥ずかしいかも……」
それでもこの体勢を崩したくないのは、篤さんだから……。
「そうか。なら、しばらくこうしていよう」
「!!」
面白そうに言う堂上に、郁は更に顔が紅くなっていく。
2人の温もりが更に増していった。
夫婦。
食事を終え、郁は淹れたコーヒーを堂上へと持っていく。
「篤さん、コーヒーです」
「ん。悪いな」
堂上は自然と口に運び、コーヒーを飲み始めた。
「今日は普通だな」
「なっ、何ですか!!普通って!」
「いや、お前が以前、淹れたのはすごい甘かったからな」
以前郁の淹れたコーヒーは、砂糖を多めにしてしまい、相当甘くなってしまったのだ。
実際、今の自分の飲み物はカフェオレで、相当甘い。
「あ・・・あれは、色々と考え事をしてたからで」
あの頃は丁度、堂上が例の「王子様」と知って混乱していたからだ。
「でも、結局全部飲んでくれたし・・・」
「勿体無かったしな。それに・・・」
堂上は首を傾げている郁を見つめている。
「?」
「それに、お前が淹れたのを捨てる訳ないだろう」
堂上があの時、そんな風に考えていたなんて・・・。
その事が郁の心が嬉しくなる。
「・・・あ・・篤さん」
「ん?」
「ありがとう・・・」
堂上は郁の頭をそっと撫でて、軽く口づけた。
唇を離すと、堂上は感じた事を口にしていた。
「やっぱり・・・甘いな、それ」
「っ!!!何言って!!」
「思った事を口にしたまでだ。何ならもう一度試してみるか?」
「~~~~!!」
郁は紅くなりながらも、再び堂上に口づけられていた。
やはりそのキスは、いつもよりも甘い気がした。
夫婦。
「郁・・・。風呂でたぞ」
堂上が風呂から上がると、郁がいる筈の居間に声をかける。
だが、その声はなく静かだった。
「?」
不思議に思った堂上は、その場所へと向かった。
「・・・・・・全く」
堂上は郁のその状態を見て、納得した。
「・・・・すーっ・・」
郁は横になっており、熟睡していた。
そしてその顔は気持ちよさそうで。
「お前はすぐにどこでも寝るな」
食事を済ませたあとだったこともあり、眠くなってしまったのだろう。
郁が気持ちよくなるとすぐに寝てしまうのは、今に始まった事ではない。
仕事の休憩中でも、何度か目撃した事がある程だ。
「疲れてるんだろうな」
仕事と家の事。
いくら分担しているとはいえ、疲労は蓄積される。
たとえ本人が気づいていなくても。
「仕方ない・・・」
そう言って堂上は、郁の身体を抱き上げた。
郁が起きている状態なら、きっと喚くだろうが今は夢の中。
腕の中の妻は、幸せそうな顔で眠っている。
「ん・・・」
一瞬起きたかと思ったが、郁は甘えるように堂上に擦り寄ってくる。
普段からこうして甘えてくる事はないので、堂上としては意外だ。
「猫か・・・お前」
普段は犬のような活発さで行動するくせに、今は猫のように甘えてくる。
いつもこうして甘えればいいのにと、堂上は考える。
郁自身はそれなりに甘えているだろうが、時々遠慮する事がある。
堂上はそれが腑に落ちなかったが、初心な郁には色々と難しい。
「よっと・・・」
堂上は郁を寝室のベッドへと下ろした。
だが・・・。
「んーーっ」
「おい・・・」
郁はその温もりを逃がさないように、しっかりと堂上の手を掴んでいた。
これが無意識だから困る。
堂上は眠る郁の額にそっと口づけた。
「おやすみ・・・」
堂上の声が聞こえたのか、郁がそっと微笑んだ気がした。
恋人同士。
「あいたたたっ。痛いです、堂上教官っ」
「煩いっ。黙って我慢しろ」
医務室で郁は悲鳴を上げる。
勤務医が不在のため、堂上が代わりに郁の手当てをしていた。
「全く。女のくせに顔に傷作りやがって」
「でも、犯人は捕まったんだし・・・」
「それでも、これはないだろうが」
「・・・・・」
堂上の怒りに郁は黙るしかない。
そもそもの原因は、郁が巡回中に窃盗を働こうとした犯人を見つけた。
犯人は脱兎のごとく逃げ出したが、走りでは郁には敵わない。
捕まえる時に、犯人のナイフが郁の頬を掠めた。
見切ったものの、郁の頬から軽く血が流れる。
だが、それで怯む郁ではない。
すぐさま、犯人に打撃を与え犯人は御用となったのだが・・・。
傷を見た堂上が怒り、即効で郁を医務室へと連行したのだった。
「ほら、終わったぞ」
「あ、ありがとうございます」
郁の頬には絆創膏が貼られた。
血が流れたものの、傷自体は小さいもので堂上は安堵した。
だが、堂上の怒りは収まらない。
再び説教の時間が始まろうとしていた。
「お前は、怪我が多くて困る」
「そ、それは堂上教官だって言えないですよ!!小牧教官が言ってました」
「お前と俺だと違うだろっ。お前は女で、俺はお前に傷を作ってほしくない」
「っっ」
堂上の声から心配が伝わってきて、郁は罪悪感が芽生える。
「郁が血を流してるのを見て、肝が冷えた」
「ごめんなさい・・・」
もう謝るしかない。
自分の無茶な行動が、またしても堂上を心配させてしまった。
落ち込んでしまった郁に、堂上は郁の頭を撫でた。
「だが、上官としては誉めてやる。よくやったな」
「教官・・・」
その言葉に郁は安心する。
自分は、部下としても彼女としても大事にされている。
それがこんなにも嬉しいなんて。
「郁。お前はすぐに突っ走る奴だから、きっとこれからもこういう事があるんだろうな。
けど、それでもお前に傷があるのは嫌なんだよ」
堂上はギュッと郁を抱きしめていた。
「それは私だって同じですよ。私だって堂上教官に傷なんて作ってほしくないです」
逆の立場だったら、きっと自分も怒る。
今の堂上のように、心配して怒ってしまうんだろう。
堂上は、郁の絆創膏の頬にそっと口づける。
そうされると、とてもくすぐったい。
「んっ」
堪らず郁から声が漏れる。
堂上は郁の身体を離して、解放する。
郁は頬を押さえ、顔を真っ赤にしている。
「ど、堂上教官・・・。まだこれから仕事が残ってるのに・・・」
「これくらいはな」
堂上はしれっとした顔で言い放つ。
その余裕が郁には悔しい。
「ほら行くぞ、郁」
堂上は郁に手を差し出す。
郁は真っ赤になりながら、その手を掴んでいた。
~fin~
恋人同士。
――時々、困る事がある。
堂上が閲覧室へ着くと、郁が先に来ているのが見えた。
「……かさ…」
その名を呼ぼうとして、堂上は留まる。
郁が、隊員の一人と話していたからだ。
堂上が覚えてる限りで、あの男は郁に対して好意を持っている筈だ。
案の定、男の顔はだらしなくなっていた。
だが、郁はそんなことに全く気がつかずに笑顔を見せている。
その無防備さに、堂上は困る。
恋人となる前から、郁は隙だらけで。
恋人となった今も隙だらけだった。
そんな風に思っていると、郁が堂上に気づいた。
郁は一目散に、堂上に駆け寄ってくる。
「おはようございます、堂上教官っ」
「……おはよう」
先ほどとは違い、その表情はとても嬉しそうで。
それが自分に会えてだと思うと、堂上が嬉しくなるのは当然で。
郁は、あまりにも満面の笑みを見せるから、堂上は思わず……。
「お前には負ける」
「ええ!!何ですか、急に!!」
郁の頭を軽く叩いて、堂上は笑っていた。
郁はその仕草に、首を傾げるしかなかった。
この可愛い恋人には、何をやってもかなわないだろう……。
~fin~
恋人同士。
あいつは無鉄砲で、単純でそれにすぐ突っ走る。
その度に、心配で怒鳴らずにはいられない。
それが上官の時の評価だった。
けど、その反面。
郁はすごく純粋で素直だ。
そしてそんなところが…。
「笠原さんって、普段からもっと化粧とかしたら綺麗なんじゃない?」
「何だ、急に」
夜に寮内で小牧と飲んでいると、急にそんな話を振ってきた。
「いや、さ。率直な感想だよ。普段は戦闘職種だから仕方がないけど、館内業務だったら
もっとしてもいいんじゃないかと思ってさ」
「さあな。あいつは元々そういうのが得意じゃないからな」
堂上は自分と2人でいる時でも、そこまで華美にしない自然体な郁を思い出す。
「まあ、最近の笠原さんだったら、注目浴びそうだけどね」
「どういう意味だ」
「最近綺麗になったって、男どもからの評判だよ」
「…………」
小牧の話を聞いて、堂上は渋い顔になる。
堂上の耳にもその評判は聞いている。
周囲には堂上と郁が付き合っていることは知れているため、直接には何もないが、
遠くで懸想している者も少なからずいるはずだ。
その事は、当然堂上にとって面白くない。
「で、堂上としてはどうなの?」
「何がだ」
「もっと、笠原さんに化粧してほしいとか思わないの?」
小牧はからかい口調で言っているのが、堂上にはわかる。
それがますます、堂上にとっては面白くない。
それならばもう、開き直るだけだ。
「別に必要ないだろ」
「あれ?そうなの?」
「あいつは化粧なんかしなくても、十分可愛いしな」
郁の自然体な笑顔こそ、何より可愛くて愛しい。
それでこそ、自分が惚れている郁の部分だった。
「惚気だね。いかに堂上が彼女のことを好きかわかったよ」
「煩いっ」
開き直ったものの、小牧の言葉に堂上は強い口調で言葉を切る。
その表情は照れ隠しで紅潮している。
結局、小牧の言葉を上手くかわせず、からかわれる一方だった……。
恋人同士
「堂上教官ッ」
「ん?」
業務が終わった時間になると、郁が声をかけてきた。
「どうした?」
「あの、今日お誕生日ですよね。これ・・・」
郁は堂上に綺麗にラッピングされた袋を渡した。
堂上は受け取って、軽く郁の頭を撫でる。
「ありがとう・・・な」
その顔がとても嬉しそうで、郁もつられて笑ってしまう。
「見てもいいか?」
「あっ!!はいっ」
堂上が袋から出したのは、紺色のマフラー。
「色々と考えたんですけど、やっぱり普段から使えるものがいいかなって」
「ああ。大事にするよ」
郁が堂上を見ると、とてもやわらかい表情をしていて。
こんなプレゼントを贈るなんて、去年までは考えられなかった。
「まさか、貰えるとは思ったなかったから驚いた」
「ほんとは去年も渡したかったんですけど・・・。去年は色々あって、渡せなかったですし」
「そうだな・・・」
去年は当麻の事件の最中で、良化隊への警備でそれどころではなかった。
「今年は色々あったな」
「そうですね」
当麻の事件の中で、堂上が負傷したり・・。
その合間で告白して・・・、ようやく恋人同士になって。
そして当たり前のように、2人で笑っている。
そんな日常が次の年もその次も続けばいい・・・。
「郁」
「はい?」
「お前、今年はやっぱり里帰りしないのか」
「ううっ。それを持ち出しますか?言ったじゃないですか。まだちょっと気まずいって」
実家の話になった途端、郁の表情が硬くなった。
「まあ、な。大分前よりはマシになったんだろう?」
「そうですけど・・・。でも・・・まだ時間は欲しいです」
以前だったら、断固拒否していただろう。
拒否していただけだった郁が、少しだが歩み寄りしている。
「でも、最近は以前よりも電話するようになったんですよ?」
「そうか・・・」
堂上は再び、郁の頭を撫でる。
それは褒めているのと同じで、少しくすぐったい。
「教官は、やっぱり帰られるんですよね?」
「普段は中々帰れないし、こういう時くらいはな」
「そうですか・・・」
郁が少し、下に顔を向けてしょんぼりしている。
その様子が堂上には可笑しくて、堪らない。
「何だ?寂しいのか?」
「なっ・・・。もーーーーっそうですよ。柴崎も里帰りだし・・・寮に1人で教官にも会えなくて寂しいです」
「!!」
少しからかうつもりだったのが、素直な郁の言葉に堂上は何も言えない。
それどころか、こっちが動揺してしまっている。
(まったく・・・こいつは)
「郁・・・」
「はい?」
「年が明けたら、一緒に出かけるか?」
「ええっ!?いいんですか?」
堂上の提案に、郁は瞳を輝かせている。
「ああ。今日のお礼もしたいしな」
「そんなっっ。お礼なんてっっ」
「いいから。出かけたい場所、考えとけよ」
「っ~~!!はいっ」
郁は可愛らしい笑顔で、元気よく返事をしていた。
恋人同士。
それはある夜のこと。
「うーーーん」
「何唸ってんのよ。笠原」
郁がテーブルで突っ伏していると、柴崎がそんなに郁に気づいた。
「あんた、また何かやらかしたわけ?」
「ちょ・・・っ!!人がいつも問題起こしてるみたいに・・・」
「事実でしょうが」
「・・・・」
柴崎の言葉は正しく、郁は反論出来ない。
「で?何悩んでの?仕事絡み・・・それとも」
柴崎は面白そうな顔で話を続ける。
「堂上教官?」
「・・・・・・・・・・・」
郁はその言葉を聞いて、しっかり黙り込んでしまっている。
それが即ち、肯定を意味するのだが。
「また、堂上教官と喧嘩したの?」
「ちが・・・っ。そうじゃなくて・・・」
「何なのよ」
郁は言いづらそうに、小声で話を切り出した。
「何か・・・。堂上教官って大人だなーーって」
「は?何を今更」
堂上だけでなく、自分たちもいい大人なのだが・・・。
「何ていうか・・・。堂上教官はさ。色んなことをすんなりやっちゃうんだよね」
「わかんないわね。何がよ」
「その・・・キスとか、名前を呼んだりとか」
「・・・・・・・・・・・・・」
当麻の事件の時に自分からしたキスは、かなりぎこちない。
それに引き換え、堂上のキスはとても優しかった。
郁は未だにそれを慣れない。
必死に追いつこうと精一杯だった。
そして気がつけば、堂上は自分を名前で呼ぶ。
自分は未だに辿り着けないのに。
それは堂上の今までの経験で、大人だという事だ。
頭ではわかっていても、胸が痛くなる。
「惚気か・・・。アホらし」
「え・・・何でそうなるの!?」
郁としては惚気ているわけではなく、真剣に悩んでいるのだが。
「惚気よ。堂上教官が大人なのは当たり前でしょ?30代の男なんだし」
「それはそうだけど・・・」
「その上で、名前を呼んだりとかキスとか、恋人同士なら当然のことでしょうが」
「それもそうなんだけど・・・」
「まあ、ずっと上司と部下だったんだし。あんたはすぐ切り替えできないでしょ?」
「ううう・・・・」
「その分、堂上教官が大人なのは当然。あんたはそれに甘えてればいいんじゃない?」
「そうなのかな?」
何せ郁にとっては、付き合うこと自体が初めてなのだ。
そのため、些細な事でも気になって仕方がない。
「あんたは全く・・・・可愛らしいわね」
今時、こんなに初心な女は本当に珍しいのではないか?
そんな事を柴崎は思う。
だからこそ、堂上は惹かれたのだろうけど。
しかし、郁にはそんな余裕がまるでない。
(ま、楽しませてもらいましょうか?)
柴崎の楽しみはこの鈍感カップルがどうなるか、だ。
この純情乙女を、あの堅物な教官がどうするのかが楽しみである。
だが、これは下手に入っていかないで、遠くから見物するからこそだ。
「うーーーーんっ」
そんな柴崎の思いを他所に、郁はひたすら悩み続けていた。
恋人同士。
たった5cm。
そう簡単に言うけれど。
時々それが辛くて堪らない。
(あっ)
特殊部隊の事務室へ行く途中、郁はふと足を止めてしまった。
その視線の先には、堂上。
そしてその隣には、見知らぬ館員の女の子。
恐らく業務部の誰かだろう。
郁が気になったのは、2人で並んでいる姿だった。
その女の子は堂上よりも、背が低い。
標準的な女の子だ。
身長差がとてもバランスよく、似合っている。
堂上よりも背が高い自分とでは、大違いだ。
時々郁は170もある身長が、嫌になる。
戦闘職種では武器にはなるが、女としては複雑だ。
あと少し身長が低ければよかった。
そんな事を郁は考えてしまう。
今まで身長が原因で振られる事は多く、少しコンプレックスになっている。
だから堂上と並んでも違和感のない女の子が、とても羨ましくなる。
「ーーー郁?」
「え・・・あ、堂上教官!!」
ぼんやりと考えていると、堂上に声をかけられた。
「どうした?こんなところで立ち止まって。さっきから散々呼んだんだが」
「す・・・すみませんっ」
様子のおかしい郁に、堂上は疑問に思ったらしい。
「何かあったのか?」
「いえ・・・何も」
元々郁は嘘が得意ではない。
何かあったのは、堂上にはバレバレだった。
「ちょっと来い」
「え?堂上教官っ」
そんな様子の郁を放って置く訳にはいかず、堂上は人気のないところへと連れて行く。
「で、何があった?」
「べ・・・別に何も・・・・」
「嘘付け。そんな悲しそうな表情をしてるくせに。騙せると思うな」
「・・・・・」
その堂上の言葉に、郁は言葉を詰まらせる。
堂上は、いつも敏感に郁の異変を察知する。
それが嬉しくもあり、辛くもあった。
「・・・怒らないですか?」
「ああ。言ってみろ」
「さっき、堂上教官と並んでいる女の子を見たんです。その子は背が低くて教官ともお似合いだなぁって。
私もあと10cm低かったらなって思ってました」
「・・・・・」
身長の話は堂上にとってタブーなのに、何でこんな話をしているのだろう?
これでは怒られても呆れられても、仕方がない。
「馬鹿が」
「え・・・・?」
郁が言葉を発する前に、堂上は郁を抱きしめていた。
「身長なんて今更気にするな。お前の身長があってこそ、その脚があるんだしな。その脚のおかげで
事件の解決に大きく貢献している」
「教官・・・・」
「そんな風に行動できるお前が、部下としても恋人としても・・・好きだ」
「・・・・っ」
堂上は、郁が思っているコンプレックスをわかっている。
自分よりも背が高い事を、気にしないはずはない。
でも、堂上にとってはそれも郁の魅力であり、好きな部分だった。
「だからそんな事を気にする必要はない。その身長があってこそのお前だろう」
「堂上教官・・・」
郁は堂上に自然と身体を預ける。
「それに・・・」
「?」
「こうして見るお前も嫌いじゃない」
「!!」
堂上は郁の隙をついて、一瞬のうちに口付ける。
郁はその行為に驚きながらも、堂上が与えてくれる幸せに酔いしれていた。
恋人同士。
―――こういう場合はどうすればいいのだろうか?
自分が今まで尊敬していた上官と
今まで散々馬鹿にしてきた友人(不本意)が
付き合うことになっていた。
2人の関係がそういうことになっている事には、全く気がついてなく。
同僚の柴崎や小牧二正にはからかわれる始末。
そして、素直に祝福できない自分がいる。
何故、堂上二正ともあろう人が、笠原を?
そんな疑問がつきないのだ。
「馬鹿ねーー。あんた」
「何だ、あからさまに」
それとなく柴崎にあの2人の事を聞いてみると、途端に馬鹿にされた。
「あの2人は周囲からバレバレだったのよ。気づいていないのは、当の本人とあんただけよ」
「なっ!!」
手塚は驚きの表情を隠せない。
今まで全く気づいていなかったからだ。
それも同じ班である自分が、だ。
「笠原は笠原で、堂上教官しか見てなかったし。堂上教官も少し過保護だったから」
「そうなのか?」
「そうよー。色々と笠原に対して心配で仕方がないのよ」
「………心配なのは、笠原が単細胞だからだろう」
「それもあるけどね。けどそれでも、教官は笠原しか見てないのよ」
手塚は、柴崎の言葉が理解しがたかった。
そんな手塚の様子を見て、柴崎は……。
「そんなにわかんないなら、2人をじっくりと観察してみたらどう?」
「は?」
「お得意のその頭で、分析でもしてみなさい」
そう柴崎は言うと、その場から離れる。
「観察って……なぁ」
上官と同僚を…?
「そんなのは不謹慎だ」
そう思っていたのに……。
特殊部隊の事務室に戻ると、手塚の視線の先には、当の2人がいた。
特に変わった様子はなく、業務に勤しんでいる。
(別に普通だよな?)
「馬鹿者っ!!そこの書類はだな」
「ああっ!!すみませんっっ」
郁が失敗をして、笠原が怒られているのは珍しくない。
そんな2人は、付き合う前と変わっていないような気がする。
―――いや、気がしてた。
「すみませんっ。終わりました!!」
「そうか……。今度は大丈夫だな」
「へへへっ」
堂上は笠原の頭に手を置き、軽く撫でている。
笠原も、それに嬉しそうにしている。
「!!!」
堂上の笠原に対する視線は、明らかに熱っぽく。
どこか2人には甘い空気が出ていた。
(これか!!これのことか!!)
確かに以前とは違う。
周りに人がいるにも拘らず、2人は自然に甘い空気を作り出す。
(これが「付き合っている」ということか!!!)
手塚には、この空気は何だかいたたまれない。
一緒の部屋にいる小牧二正も、全く気にしていないし。
手塚は改めて気づいた真実に、がっくりうなだれる。
(これをこれから、毎日ずっと見るのか!!)
上官と友人の恋を。
がっくりと肩を落とす手塚のそばに、当の本人が近づいてくる。
「どうしたの?手塚」
「いや……ちょっとな」
落ち込む手塚とは対照的に、郁の顔は幸せで満ちている。
それは堂上も同じだ。
その事実に、手塚もようやく落ち着いた。
(まあ、応援してやろうじゃないか……。)
尊敬する上官と
単純馬鹿な友人の恋を。
「……変な手塚」
「煩い」
手塚から出たのは、そんな言葉だけだったが……。
恋人同士。
あいつは無鉄砲で、単純でそれにすぐ突っ走る。
その度に、心配で怒鳴らずにはいられない。
それが上官の時の評価だった。
けど、その反面。
郁はすごく純粋で素直だ。
そしてそんなところが…。
「笠原さんって、普段からもっと化粧とかしたら綺麗なんじゃない?」
「何だ、急に」
夜に寮内で小牧と飲んでいると、急にそんな話を振ってきた。
「いや、さ。率直な感想だよ。普段は戦闘職種だから仕方がないけど、館内業務だったら
もっとしてもいいんじゃないかと思ってさ」
「さあな。あいつは元々そういうのが得意じゃないからな」
堂上は自分と2人でいる時でも、そこまで華美にしない自然体な郁を思い出す。
「まあ、最近の笠原さんだったら、注目浴びそうだけどね」
「どういう意味だ」
「最近綺麗になったって、男どもからの評判だよ」
「…………」
小牧の話を聞いて、堂上は渋い顔になる。
堂上の耳にもその評判は聞いている。
周囲には堂上と郁が付き合っていることは知れているため、直接には何もないが、
遠くで懸想している者も少なからずいるはずだ。
その事は、当然堂上にとって面白くない。
「で、堂上としてはどうなの?」
「何がだ」
「もっと、笠原さんに化粧してほしいとか思わないの?」
小牧はからかい口調で言っているのが、堂上にはわかる。
それがますます、堂上にとっては面白くない。
それならばもう、開き直るだけだ。
「別に必要ないだろ」
「あれ?そうなの?」
「あいつは化粧なんかしなくても、十分可愛いしな」
郁の自然体な笑顔こそ、何より可愛くて愛しい。
それでこそ、自分が惚れている郁の部分だった。
「惚気だね。いかに堂上が彼女のことを好きかわかったよ」
「煩いっ」
開き直ったものの、小牧の言葉に堂上は強い口調で言葉を切る。
その表情は照れ隠しで紅潮している。
結局、小牧の言葉を上手くかわせず、からかわれる一方だった……。
恋人未満。
漫画版、バレンタイン。
ーーー真っ白になった。
今日はバレンタインだというのに、特定で渡す人が誰も思い浮かばない。
1人だけ、一瞬現れた気がするけど、すぐにそれは消えた。
そう、これは尊敬する上司だから。
だから日ごろの感謝を込めて渡すのは、全然変じゃない。
ーーーだけど。
「堂上君」
堂上教官を呼ぶ声が聞こえる。
その女性は、堂上教官にバレンタインを渡していた。
私は何故か、その光景を見ている事が出来なかった。
その事が頭から離れない。
その光景が繰り返されて、気になってしまう。
ーーー私はちゃんと渡せてない……のに。
そう思っていたけれど。
ーー全部、真っ白になった。
私の手から堂上教官がチョコを奪っていた。
その行動は、唐突で。
雪が降っているはずなのに、
触れた手と顔が熱い。
何も考えられない。
「今日はこれが初チョコだ、ボケ」
そう、堂上教官が言いながら、私のチョコを食べている。
例の女性のチョコは小牧教官に渡す物で、堂上教官が預かったらしい。
その言葉と行動に、ホッとしたのは何故だろう……?
雪は消えていくのに、私の心に何かが消えないものがあった。
~fin~
恋人未満
館内業務の中、ふと郁が周囲に目を向ける。
「今日はやっぱりいつもより人が少ないですね」
「ああ。外は雨だしな」
時期は梅雨時。
余程の本好きならともかく、わざわざ雨の中を歩いてまで図書館に来る者はやはり少ない。
いつもよりも静かで、人が閑散としているのが見えた。
「今日は館内はいつもより静かなんだから、大きな声を出すなよ」
「そんなに大きいですか……?普段……」
堂上の言葉に少しだけ、郁は落ち込んだ。
だが、次に聞こえてきたのは……。
「煩いだろ、お前」
「うーん、静かとは言えないかな」
容赦ない手塚と小牧の言葉だった。
それは郁にとって、追い討ちになった。
「利用者に注意しても、下手すりゃお前の方が大きかったりするぞ」
「確かに」
「……もう、酷いですよ」
少しだけ拗ね気味になった郁を見て、堂上が口を開いた。
「逆に静かだったら、心配になるけどな……。だから、そのままでいとけ」
「堂上教官……」
散々言われた後のこのフォローは、激しく不意打ちだった。
少しだけ、動揺して胸が高鳴った。
だが……。
「どうせ、すぐには直らん」
「ちょ……!!」
堂上の言葉は結局フォローではなくて、トドメだった。
(一瞬のときめきを返せーーーーーーーーっ)
郁は口に出せない言葉を、心の中で思い切り叫んでいた。
~fin~
恋人未満。
※シリアス
※シリアス
信じられない光景を見た。
「笠原っ!!」
堂上の声に反応せず、名前を呼ばれた者は反応しない。
その最中に良化隊の攻撃は、先ほどよりも増していく。
攻防が続く中、堂上は郁の元へと急いだ。
郁は凶弾に倒れたまま動かず、多量の血だけが流れていく。
わずかに息があることが、堂上にはわかった。
このままでは取り返しのつかないことになる。
堂上の中で、最悪のシナリオが駆け巡った。
そのシナリオを防ぐために、堂上は必死に近づいていく。
だが、追い討ちをかけるように、良化隊が郁に銃口を向ける。
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーっ」
堂上は手を伸ばすが、そこには近づけない。
その時、引き金は引かれた。
最悪のシナリオが現実になった瞬間だった。
「ぁぁぁぁぁーーーー」
堂上はその場に崩れ落ちていた。
周りの音が遮断され、その世界は隔離された。
「笠原・・・っ。笠原っ」
堂上はその名を必死に繰り返す。
反応はないとわかっていた。
それでも・・・。
「教官っ」
「!!!」
名前を呼ばれて、顔を上げるとそこには・・・。
「堂上教官、大丈夫ですか?」
「な・・・何がだ?」
「何かすごいうなされてましたよ?悪い夢でも見たんですか?」
「ゆ・・・夢?」
堂上が辺りを見回すと、そこはいつもの特殊部隊の一室だ。
周りには郁以外いなかったが、それは普段通りの光景だった。
「教官・・。何か顔色が・・・ちょっとすみません」
郁の手が不意に堂上の額に触れる。
その手からは、温もりが伝わってくる。
これは・・・確かに生きている証。
堂上の心情が少なからず、落ち着いてくる。
(あれは・・・夢か)
だとしたら、かなり性質の悪い夢だ。
夢であることに安堵し、堂上は行くにはわからないように息を吐く。
「熱はないみたいですね」
郁の手が離れ、じっと考え込む。
「別に何でもない。ちょっと、夢見が悪かっただけだ」
「そうですか・・・。でも何かすごい辛そうでしたよ。一体どんな夢だったんですか?」
「・・・・・・・・・」
堂上の夢の内容など言える訳がない。
堂上はじっと郁を見つめ、それから・・・。
「お前が気にする事じゃない。それよりも仕事は終わったのか?」
「なっ・・・。心配したのにーーーっ。もう、これ日報です!!」
「ああ。お疲れ」
郁は日報を渡すと、寮へと帰宅していく。
そんな郁を見送り、堂上は深いため息をついた。
あり得ない未来ではない。
抗争が続けば、負傷をすることは覚悟の上だ。
それが重傷になろうと、死ぬことになろうとも・・・。
「そんなことには、させてたまるか」
堂上は拳を握り締めていた。
あの温もりを守るために・・・。
~fin~
恋人未満
仲間の一人が良化隊の攻撃に倒れた。
『笠原さんの俊足なら今のは当たらなかった』 そんな風に小牧が言う。
抗争中にふざけた事を。
そんな場合じゃないだろうが。
だが、倒れた仲間の身体を抱えた時、ふと過ぎった。
笠原の笑顔。
それは何故だかわからない。
わかりたくもない。
だが、小牧の言葉が少なからずも原因しているのは確かだ。
何とか仲間を救出し、その場に倒れこむ。
「『笠原さんだったらこんなに重たくなかったのに』…とか?」
またしても小牧が余計なことを言い放つ。
浮かんだのは階段から踏み外しそうになった笠原を、支えたこと。
それでも、口に出した言葉は。
「あいつの体重なんて俺が知るか」
小牧にはすべて見抜かれているようで、腹が立つ。
自分から遠ざけたくせに、いてほしいと思った。
笠原なら確かに足速いし、ここぞという時は躊躇しない。
自分の中での矛盾が明らかにある。
そして・・・。
「稲峰指令が不審者に拉致されたとのこと・・・!!笠原一士も一緒です」
自分の判断に激しく後悔した・・・。
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プロフィール
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文月まこと
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自己紹介:
乙女ゲーム・八犬伝中心に創作しています。萌えのままに更新したり叫んでいます。
同人活動も行っています。
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