「あ・・・」
ごみ捨ての帰りに望美が教室へ戻ろうとしていると、将臣を見かけた。
普段だったら、そのまま近づくのだが、今はそうもいかなかった。
何故なら女の子と一緒にいたから・・。
「有川君・・・これ・・」
女の子が持っているのはラッピングされた箱。
(また・・か)
今日はこの光景を何度も見ている。
いつも呼び出されたりはしているが、今日は特に多い。
今日はバレンタインだったから・・。
去年までとは違い、今年は特別だった。
告白されている相手は望美の恋人だったから・・。
望美は苦い想いを抱えつつもその場をあとにする。
自分だって用意していない訳ではない。
ただ・・。
「私って何で不器用なんだろう・・・」
必死で作ったものの、失敗作ばかり・・・。
何とか奇跡的に出来た物を持ってきたのだが・・・。
他の女の子たちは明らかに上手だし・・、力が入っている・・。
そのためにいまだ渡せずにいた・・。
「これだったら・・、買ってきたほうがよかったかな・・」
でも、「彼女」である自分が買ってきた物を渡して終わり!
なのには、満足出来なかった。
「それか譲君にちゃんと教わっておけばよかった」
男の子に教わるのも情けない話だが、そうすれば今よりもマシだったかもしれない・・・。
そう悩んでいるうちに、結局放課後になってしまっていた・・。
その上、将臣が告白されている現場を何回も見ているし・・・。
「はーーっ」
「何だ、そのため息は」
「あ・・将臣君」
気がつけば望美の後ろには将臣がいた。考えながらゆっくりと歩いていたため、すぐに追いつかれたらしい。
「掃除終わったのか」
「うん。今ごみ捨てに行ってきたとこ」
「ごみ捨て・・・」
「あ・・・」
望美は素直に口にしたことを後悔する。
その帰り道に将臣が告白されていたのを見ていたのが、あっさりとばれてしまった。
「見たのか」
「うん・・ごめん」
「?何で謝るんだ」
別に悪い事をしていないだろうと将臣は言う。
「ちゃんと断った」
「え・・・」
「何で驚くんだよ。彼女がいるのに」
「あ・・・」
『彼女』という言葉に望美の心が晴れやかになる。
「当然だろう・・。心配すんな」
「ん・・」
ポンポンと頭を軽く叩く将臣に望美は安心した。
「あーーけどな」
「?」
「いい加減、お前からチョコ欲しいんだが」
「で・・でも」
「何だよ・・。無いのか」
「あるよ!!あるけど・・・いいの?」
「聞くなよ。お前のだったら欲しいに決まってるだろう」
「うん・・・」
望美は鞄からラッピングされた箱を取り出す。
「はい」
「サンキュッ」
その顔はとても笑顔で嬉しそうに見えた。
それだけで望美の心は熱くなる。
「ちょっと失敗しちゃって・・」
「お前が作ったのか?」
「うん。だから無理しなくても」
だから食べなくてもいいよ、という望美をよそに将臣は包みを開け始めた。
中にはハート型のチョコが入っていた。
そしてそのチョコを口に入れた。
「ま・・・将臣君」
驚く望美をよそに、将臣は無言で食べている。
「あの・・美味しくないよね?」
「そんな訳ないだろう。嬉しいよ」
将臣は望美の身体を引き寄せる。
気がつくと望美は将臣の腕の中だ。
「望美・・・ありがとな」
「うん」
望美が顔を上げれば、将臣が近づいてくる。
望美はそっと目を閉じた。
重なった唇はいつもよりも甘い気がした・・・。
~fin~