「あの……陛下」
「何だ?」
「あの……自分で歩けますから……そろそろ下ろしてください」
「いや……酷くなったら大変だから……このままだな」
「ッ!!」
また失敗に終わる。
謎の密偵が現れ、隠れようとした夕鈴が自分で足をひねらせて数刻。
今は後宮へと移動中だ。
その移動は夕鈴は黎翔に抱きかかえられての移動。
大丈夫だと言っても、黎翔は夕鈴を離そうとはしなかった。
何度言っても、黎翔は首を縦に振らない。
夕鈴は抱き上げられたまま、その近さに真っ赤になってしまう。
「もう……大丈夫ですよ?」
「……」
にこっと笑いかけても黎翔はどこか不安げな瞳をしている。
きっと自分の身を案じているのだと思うと……夕鈴の心はぎゅっと掴まれたようだ。
危険から遠ざけたはずなのに……またも危険と隣り合わせ。
そしてそれを自分のせいだと責めているに違いない。
だから過保護になってしまうのも仕方ないのだと――夕鈴は納得した。
――が。
「でも……この格好を色んな人がすごい見てて……困ってるみたいなんですけど」
「見せつけておけばいい」
「いや……それはさすがに」
王が妃を抱き上げながら移動しているのだ、その状況に周囲も困惑しているのが夕鈴にはわかる。
気にしないフリをしてくれてはいるが……明らかに困っている。
一番困っているのは、その渦中にいる自分だが……。
けれど……。
この状況がもう変わらないのなら……もう開き直るしかない。
夕鈴はその黎翔の胸へと甘えるようにすり寄せてる。
普段ならこんな風に自分からは甘えられないから……。
「夕鈴?」
「え……と」
「こんなところで甘えてくるとは……試してるのか?」
「し……してませんよっ」
黎翔は楽しそうに笑っている。
その距離にこちらとしては爆発寸前だ。
な……何をもう……っ。
こちらはもうドキドキとしているのに……。
狼の腕の中にいる兎は、端から勝ち目などないのだ。
そんな事を夕鈴は身を持って思い知っていた。