若瀬尾 未来捏造。
いつの間にか……そうなってた。
仕事が終わった時間、俺はいそいそと帰り支度を済ませる。
「若松、飲みに行かないか?」
「いえ、今日はすみませんっ」
「つきあい悪いなー若松」
そう言われても仕方がないことは自覚している。
だが……今日は早く帰らなくては……。
俺は今日この日をずっと待っていたのだ。
「よ、博隆」
「結月さん、お帰りなさい」
家に帰れば……久しぶりに会う奥さんの姿があった。
「どうでした?海外公演」
「んー、いつも通りだったな。あ、ご飯は美味かった」
「……全く大物ですね」
結月さんの今日の海外公演は、ごくわずかの選ばれた者しか参加出来ないと聞く。
日頃からプロの歌い手として国内でも飛び回っていて、海外でも多くの人をその歌声で魅了したに違いなかった。
やっぱりすごいな結月さんは――。
「それよりも博隆疲れてるだろ?少し横になったらどうだ?」
「え?いや……結月さんのほうが……」
「私は飛行機でもさっきも寝てたから平気だ。ほら……休め」
「わ……」
どうやら結月さんは俺に膝枕がしたいらしい。
半ば強引に寝かされて、結月さんに膝枕をされていた。
俺としては久々に感じる体温が心地良い。
「どうしたんです?急に」
「ん?普段家にいないことが多いからな。たまには奥さんらしいことでもしておこうと思ってな」
「え?今のままでも十分なのに……?」
どうしたんだろう?急に……。
何故か結月さんの表情が暗いような……。
「どうしたんですか?」
「殆ど公演で家にもいないし、すれ違いばかりで……嫌にならないか?」
「っ!!」
また、気にしてる。
普段は大雑把なくせに……本当にもうこの人は……。
俺は勢いよく起きて、結月さんと向き合う。
「なりませんよ!!」
「博隆……」
「たとえ一緒に過ごせる時間が少なくても……一人でいることが多くても……ずっと結月さんのことを考えてますよ……俺は」
「……」
「だから……大丈夫なんです」
離れてる時間は多いし、寂しい。
でも……結月さんの活躍もすごく嬉しいから……そんな寂しさは吹っ飛ぶんだ。
「お前はすごいな……博隆」
「これくらいの図太さがないと……貴女を受け止められませんから」
「これからも待っててくれるか?」
「もちろん……俺は……貴女の帰る場所ですから……」
「ああ……そうだな」
そう言って微笑む結月さんを……俺は久しぶりに抱きしめていた。
リハビリでのざちよ。
千代ちゃんは結月たちの罰ゲームを受けたとでも。
「野崎くんにお願いがあるの」
「お願い?」
「その……っ、私のこと嫌いって言って!!」
「!!!」
佐倉の突然の発言に俺は戸惑いを隠せなかった。
嫌い?
いったいどうして?
「どうしたんだ?」
「言えないけど……ちょっと色々あって……お願い野崎くん」
必死な佐倉。
これは応えるべきなのか……?
いや……それは。
「……その無理だな。言えない」
「どうして?」
「嫌いだなんて思ってないしな……。佐倉のことは好きだし」
「え?」
「え?」
ん?佐倉が固まってる?
俺は今……なんて……。
……!
「……」
「……」
固まる佐倉に俺は何も言えず、訪れた沈黙に戸惑うしかなかった。
それは唐突に、梅太郎くんが言った。
「欲しいもの?」
「何かあるか?」
彼の言葉に、私は目が点になった。
突然に言うのが梅太郎くんらしいけど……。
「???」
欲しいもの?
いきなり言われても、思いつかなくて。
でも、梅太郎くんが言うからきっと何かの意味はあって。
私はぐるぐると考える。
「と、特には……ないかな」
「ない……のか?何か出てこないか?」
「う、うん」
「……」
あ。みるからに梅太郎くんが落ち込んでる。
でも、これには理由があるのだ。
「う……うん。だって、梅太郎くんが……」
「俺が?」
私が言うよりも早く、梅太郎くんがいつも手配してくれる。
私がTVで紹介されたケーキが気になったら、すぐに買ってきてくれたし。
お店で見かけた服とか可愛いなと思ったら、すぐにそれをレジに持っていくし。
特には口に出していなくても、私の表情を見て梅太郎くんは判断しているらしい。
「そうか。そう言えばそんなこともあったな」
「ね。私はいいって言ってるのに、梅太郎くん結構買ってるんだよ?」
「ケーキは千代が食べたそうにしてたし、服は千代に似合いそうだと思ったし……別に問題無いと思うが?」
「もうっ、問題あるよっ」
梅太郎くんは私には沢山買うのに、自分は全く買わないのだ。
私にではなく梅太郎くんが欲しいのを買ってと言うと……。
「だって、必要ないからな」
と、一蹴してしまうのだ。
「私はもう梅太郎くんに十分すぎるほど、貰ってるんだよ。だから……返せなくて申し訳なくて……」
「……千代」
「え……ん」
梅太郎くんは唐突に私を引き寄せると、その唇を重ねてきた。
え?え?何でいきなり?
驚いている私に、梅太郎くんが囁く。
「千代はいつも俺に……元気をくれるから。プレゼントを渡すとすごい嬉しそうにするし……つい……その笑顔を見たくてな。だから、俺のほうが沢山貰ってる」
「梅太郎くん……」
その言葉が何よりも嬉しいよ。
「でも……あんまり買い過ぎはダメだよ?」
「ああ……。それなんだが……」
「梅太郎くん……まさか」
「ああ。きっと千代は特に欲しいものが浮かばないと思って、用意してある」
「も……もうっ」
もうすでに買ってあるなんて……っ。
「はい、これ」
「これ?」
梅太郎くんが渡したのはラッピングされた小さな箱。
「あけてみてくれ」
「う……うん」
私がラッピングを解くと、そこに現れたのは……。
「ピアス?」
「ああ。これが欲しいって言ってただろ?」
「え……覚えてたの?」
「もちろん」
梅太郎くんと待ち合わせてしている時、店先で見かけたもの。
それは桜の形をしたピアスで、私が一瞬にして心を奪われた。
けれど、さすがに良い値段というべきか……学生で主婦をしている自分には分不相応だと思った。
その場にいなかった梅太郎くんには……気づかれていないと思ったのに……。
「ど、どうして」
「ん?あの時、すぐ近くにいたんだ。結構集中して見てただろ?けど、すぐに諦めた顔をしたから……俺に気遣って」
「うん……」
ああ、何だ。梅太郎くんには全てバレバレだったんだ。
「今日は千代の誕生日なんだから、遠慮するな」
「あ……」
そうか……と私は自分の誕生日を思い出す。
「千代、誕生日おめでとう。たまには……こういうプレゼントもいいだろ?」
「ありがとう、梅太郎くんっ」
私は梅太郎くんへと抱きついて、その胸に縋りつく。
そして……。
「……梅太郎くん」
「ん」
「……一つだけ、欲しいものがあったから……聞いてくれる?」
「もちろん」
私はこう耳元で彼に囁く――。
梅太郎くんの……ことが欲しい……と。
小さくて聞き取りづらい私の声に、梅太郎くんは私を抱き上げることで返事をくれた。
結婚してないけど、同棲してるような形で。
俺はあるコンビニのアルバイト。
普通の学生で普通のバイトで彼女なし。
それはいいとして……最近は困っていることがある。
「いらっしゃいませー」
きたっ。
「野崎くん。お菓子選んでくる」
「ああ。俺も見てくる」
このカップル……。
背の高い彼氏と背の低い彼女。
もう何度目かは覚えていないが……結構な回数で遭遇する。
彼女はお菓子を目を輝かせて……選んでいる。
それはいい。
問題は彼氏の方だ。
「……」
無言でカゴに箱入れて……ああ今日は二つか。
そうですか、お楽しみですね。
次は水2本か、なるほどなるほど。
自分の用が済んだらすぐに彼女の元へ。
他の男の牽制ですか。
「佐倉、決めたか?」
「うん、これとこれで悩んでて……」
「こっちなら今度俺が作ってやるぞ」
「ほんとっ。じゃあこっちにする」
キラキラとした笑顔でお菓子を決めて……ああああ、会計ですか。
俺は動揺せずに一心不乱でレジをうつ。
早く帰って下さい。
レジを終えて、二人が帰ろうとする。
さっさと帰って下さい。
「野崎くんは水も買ったんだね。珍しいっ。あとは?」
「ん?これか」
「これ?箱?」
貴女にすごく重要なものですよーー。
箱を見て…彼女はみるみると顔が赤くなって……。
「ここここ……これっ」
「ないとダメだろう?」
「も……バカっ」
「ない方がいいか?そろそろ……子供を……」
「もうもうもうっっ。まだ結婚してないのにっっ」
ここはまだ店内ですよ。
早くお帰り下さいっっ。
ああ、周りのお客様(特に男)が二人のオーラにやられてる。
うん、俺もその一人。
最初は可愛い子来たなーと思って彼女を見てたら、すっごい彼氏に睨まれた。
それ以来、やたらとこのシフトで来るし……もうわかりましたから、手は出しませんっっ。
だから、別の日にして下さい。
まだ出入口で揉めてるカップル。
じゃれてるだけ……いやみせつけてるな……これは。
「わかったわかった。悪かった」
「も……その内だからね」
「ん。わかった」
ああ、彼女の言葉に彼氏が堕ちたな。
彼女の顔はこちらからは見えないが、彼氏の嬉しそうな顔。
ようやく……帰ったし……。
つーか早く帰れ!!!
水もきっと声を出しすぎた彼女用だな、うん。
「……俺、バイト辞めようかな」
そんな呟きをしながら……俺は今日も仕事に勤しむのだった。
のざちよ夫婦です。
いつもよりも早い時間に目が覚めた朝の話。
「あ」
「……」
梅太郎くんはまだ寝てる。
隣で寝ている梅太郎くんはまだ夢の中の住人。
いつもは私よりも早く起きる梅太郎くんの寝顔は新鮮だ。
か……可愛いっ。
出来るなら写真に撮りたいっっ。
保存しておきたいよぉぉ。
でも、私の身体は梅太郎くんにガッチリと掴まれていて動けない。
だから、写真は諦めてジッと彼を見つめる。
やっぱりかっこいいな……梅太郎くん。
惚れた欲目だとはわかっていても、眠っている梅太郎くんを見ているだけで胸がときめいてしまう。
「……」
起きない梅太郎くんに私のいたずら心がわく。
「……」
ちゅっと梅太郎くんの頬にキスをして、私はすぐに離れる。
「……」
良かったっ。起きてない。
私はいたずらをした達成感と恥ずかしさでいっぱいだ。
早く起きて欲しい反面、このまま見ていたいと思う。
だから、その気持ちが自然と口に出た。
「……大好き」
「――俺も」
「え……ひゃぁぁ」
返事があったと思ったら、急に私の身体は引き寄せられて……梅太郎くんの身体の上に乗っていた。
重い……重いからと思うのに、彼は離してくれない。
いや……それよりも……。
「起きてた……の?」
「ああ」
「い、いつから?」
「――千代が起きる少し前から」
「!!!」
ええええええええ……っ!!
それじゃあ、私の一連の行動を見てたってこと?
「すぐに千代も起きたから、何するのかと思って薄目で見てた」
「う、梅太郎くんひどいっ」
もうもうもう恥ずかしいよぉ。
「そしたら頬にキスとかしてくるから……可愛すぎて…な」
「ううううう……」
恥ずかしくて穴に埋まりたいよぉ。
顔を隠したい私の頭を、梅太郎くんの手が優しく撫でてくれる。
「梅太郎くん?……んんっ」
いきなり頭を引き寄せられたと思ったら、私は深く唇を重ねられた。
――――んん、長いっ。
「は……梅太郎、くん」
「あんなこと言われたらもう……我慢出来なくなった」
「梅……んんっ」
止まないキスに、私はもう涙目だ。
「いたずらには……お仕置きだな」
「ふぇ……っ」
そんな囁きが聞こえて、私は更なる彼からのキスを受けた。
お付き合い始めの のざちよのクリスマス。
『メリークリスマス』
その言葉を……野崎くんと伝え合う。
「野崎くん……」
「何だ?」
「ケーキ大きくない?2人なのに」
「ああ……つい張り切ってしまった」
目の前にあるのは、2人分としては大きいクリスマスケーキ。
しかも野崎くんの手作りだ。
その他にもテーブルには野崎くんの手料理が並んでいる。
私はそれを見て、少しくじけそうになったけど……。
今日は付き合って初めてのクリスマスだし、些細な事は気にしちゃだめだ。
野崎くんの部屋に招かれて、私はふわふわとした気持ち。
「おいしいっっ」
「そうか、どんどん食べてくれ」
「うんっ」
わー……嬉しいよっ。
野崎くんとこんな風に過ごせるなんて思っても見なかった。
野崎くんの料理を食べて、プレゼントも交換する。
こんな幸せな時が過ごせるなんて……思っても見なかった。
「佐倉……頼みがあるんだ」
「何?」
「その……今日は」
「うん」
「泊まらないか……ここに」
「え……?」
お……お泊り?野崎くんの家に……。
ええええええええ………!?
私が戸惑っているのがわかったのか、野崎くんは申し訳なさそうな顔をしている。
「すまなかった」
「え……?」
「ちょっと……急ぎすぎたな。忘れてくれ」
「…………」
野崎くんは笑って、私の頭を撫でてくれる。
彼が私を大事にしてくれるのがわかって……私は……。
「……野崎くんいいよ。泊まっても」
「……佐倉、無理……しなくても」
「無理してない……よ」
私は自分の気持ちを伝えるために、彼の胸へとしがみついた。
もう……離れたくないから……。
私は一歩踏み出す。
野崎くんは私を抱き返してくれた。
「……千代」
「ん……」
名前を囁かれて、私はぎゅっと目を閉じていた
ふわふわとした中で、私は甘い夢を見ていた気がする。
「ん……」
目が覚めればそこは寝室で…‥私はベッドの中。
「あ……あれ?」
いつベッドの中に入ったっけ?
梅太郎くんと……お酒を飲んだところまでは覚えてるんだけど……。
う……うーん、思い出せない……。
少し頭も痛いし……。
お酒を飲んで酔いつぶれちゃった……とか?
そしたらきっと……ここに運んだのは梅太郎くんで……。
ううっ、迷惑かけちゃったよ。
でも……何だろう?
頭は痛いけど、心はどこか満ち足りているような気がした。
「千代、起きたのか?」
「う……梅太郎くん」
梅太郎くんが寝室に入ってきて、持っていた水を渡してくれた。
あ、おいしい。
喉が乾いていたので、身体に浸透していく。
梅太郎くんがベッドに腰掛けたので、私は気になることを聞いた。
「私……どうしたんだっけ?」
「覚えてないか?」
「う……うん。お酒を飲んだところまでは覚えてるんだけど……」
「……」
「寝ちゃったんだよね?」
「ああ」
やっぱりっっ!!
「ご……ごめんね」
「色々と予想外だったけど、大丈夫だ」
「よ、予想外?」
ってなんですか?
「それに……俺は大事なことを伝えないとな」
「っ!!」
私……何かやらかしちゃったっ。
そう思って焦っていると、梅太郎くんは私の持っていたコップを近くの台へ置いた。
「……え……んっ」
梅太郎くんが急に私を押し倒してきて、唇を重ねてきた。
どうして……いきなり?
彼の激しい求めに驚きつつ、私は受け止めていた。
「どうした……の?」
「俺は……千代を愛してる」
「……っ」
彼が私の目を見て、真っ直ぐに伝えてくれる。
いきなりどうして?
そんな疑問もあったけど、やっぱり嬉しくて……。
「伝わるか?」
「うん……伝わってる」
彼が私の頬に触れて、その温もりが伝わってくる。
「もう……ゆ……夢みたいだよ」
「………………夢じゃないぞ」
「?」
梅太郎くんは何故か笑っている。
あれ?こんなやりとり……前にも、した……ような。
いつだっけ?
それとも夢の中だったのかなぁ?
「梅太郎くん」
「ん?」
「私も……その梅太郎くん……好きだよ」
「ああ」
梅太郎くんが……再度私に口づけてくれる。
彼の体温が伝わってきて、私は自然と目を閉じていた。
「今度は……寝かさないから」
そんな呟きが聞こえたけど、私はその意味を尋ねている余裕は無かった。
fin
これだけは二人とも20歳こえたことにしてください(笑)
――こんな筈じゃなかった。
「……」
「もーぉ、梅太郎くん聞いてるっっ」
「き……聞いてる聞いてるっ」
弱いんだろうなとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。
千代が誕生日を迎えてから、初めてお酒を口にした。
俺は酒には強くて、顔には出ない方だが千代は違う。
千代は一杯も飲めなくて、すぐに顔が真っ赤になってしまった。
そこまでは予想通り。
「もー梅太郎くんはねぇ。漫画のことばかりなのっ」
「す……すまん」
「料理もじょおずだし……家事も……私よりもぜぇんぜん上手くて……私のすることなくなっちゃうんだよっ」
「そ、それもすまん」
こんな感じで先程から千代にずっと言われている状態だった。
不満……不満なのか?
普段は俺に対する不満を言わない千代が、俺に対しての不満を口にしている。
むくれている千代の顔も可愛いが……内容が内容だけに耳が痛い。
「う……うめた……ろくん」
「ん?眠くなったか?」
言うだけ言って疲れたのか千代は夢の中に入りそうだ。
「ううん……ぎゅって……して?」
「っ!!」
普段は滅多に甘えない千代が、今日はその可愛さを増して俺に甘えてくる。
「ああ、おいで」
「へへっ、ぎゅー」
俺が手を伸ばすと、千代は腕の中に収まってくる。
その柔らかな身体と甘えてくる千代に、俺の理性は揺らぐ。
いかん……今の千代は酔ってるんだ。
だが、擦り寄ってくる千代は俺の理性を脆くする。
「梅太郎くん……好き」
「俺も好きだ」
「……ほんと?」
「ああ……。本当だ」
千代は俺にしがみついている手の力を強めた。
「千代?」
「嬉しい……」
「え……?」
「梅太郎くんに好きって言われて……夢みたいだよぉ」
千代は涙を目にためて、笑っている。
「………夢じゃないぞ」
「うん……わかってる。でも……」
「でも?」
「梅太郎くんにずっと片想いしてたから……今、こうしてるのが……たまに信じられないんだもん。本当に……私でいいのかなぁって…‥」
「…………千代」
「ね………だから、すっごい幸せ」
「………………」
これは千代の本心。
普段は絶対言わない、千代の不安だ。
千代はいつも笑顔だから……その不安を俺には隠してた。
俺は――。
「千代」
「え……んんっ」
俺は千代を上に向かせて、その唇を重ねた。
今日の千代は……いつもより艶っぽくて……夢中になる。
「……はぁっ」
「これからは……不安にさせない」
「………」
「だから……俺に愛されてくれ」
「……梅太郎、くん」
俺は千代を抱き上げて、寝室へと連れて行く。
そこで俺の想いを伝えたかった。
「…………千代」
「……すー」
それなのに……千代は夢の中だ。
でも……その寝顔はとても幸せそうに見える。
「……愛してる、千代」
君が目を覚ましたら、もう一度伝えよう。
それまで……幸せな夢を見ていてくれ。
fin
のざちよ夫婦のある一コマ。ふんわりとですが、性的表現ありますので、一応R18にしておきます。
その日の梅太郎くんの提案に、私はすぐに真っ赤になった。
梅太郎くんの提案、それは……
『今日は一緒に風呂に入らないか?』
だった。
「だ……ダメっ」
「どうしてもか?」
「だって……恥ずかしいし……」
梅太郎くんが望むなら何だってしてあげたいけど……やっぱり恥ずかしい。
「別に問題ないだろう。夫婦なんだし……」
「それでも……恥ずかしいから」
「今までも散々見てるのにか……?昨日も……」
「ひゃぁぁっ」
何を言うの梅太郎くんっ。
確かに昨日の夜はその……が、頑張ったけど。
その結構……見られてるけど……でも、それとこれとは……っ。
断固拒否してるけど、ま……負けそうっ。
「梅太郎くんは恥ずかしくないの?」
「俺は特には気にならないが…」
「そ……そっか」
やっぱり、男と女じゃ違うのかな?
「どうしてもダメか?」
「どうして……そんなに入りたいの?」
「ん?千代を可愛がりたくて」
「かっ!!」
可愛がりたいって……その、あのっ……、え!?
とても口には出せないことが浮かんで、私の顔はこれ以上にないくらい赤い。
「最近千代が疲れてるようだから、マッサージしたり髪を洗ったりとか……世話を焼きたいと思ったんだが……」
「そ……うなの?」
あれ?純粋に心配からなのかな?
ど、どうなんだろう?
「千代が嫌なら……仕方ない」
ああっ、梅太郎くん落ち込んじゃった。
このしょんぼりした顔に……私は弱い。
「う……梅太郎くん……あの」
「何だ?」
「その……イタズラしないなら……いいよ」
「イタズラ?」
「その……あのっ」
モジモジと言いにくそうにしてたら、梅太郎くんもわかったらしい。
「イタズラ……はしない」
「ほんと?」
「ああ……」
私の言葉に梅太郎くんは頷いてくれる。
とりあえず…………よかったのかな?
「梅太郎くん……その……窮屈じゃない?」
「そうか?」
梅太郎くんは後ろから、私の身体を引き寄せていて密着状態。
私は梅太郎くんの足と足の間に、自分の小さな身体を収めて梅太郎くんの胸によりかかる。
だから、背中からは梅太郎くんの体温は感じるし……後ろからは抱きしめられているし……落ち着かない。
でも正面で向き合うよりはいいか……身体をじっくりと見られないし……。
「こうしてると……安心するんだ」
「安心?」
「千代の体温を感じると心地良いし……それに裸で触れ合うとすごく近くに感じる」
「うん……そうだね」
ここまできたら私もいつもよりも大胆かも……。
梅太郎くんの腕によりかかる。
そんな私の頬に、梅太郎くんの手が触れた。
「千代……」
「え……ん」
後ろを振り返れば、梅太郎くんが唇を重ねてくる。
徐々に深くなってきて、私はいつの間にか梅太郎くんと向かい合わせになっている。
これは……やばい。
けど、梅太郎くんの手が私に触れて……。
「梅太郎くんっ……」
「何だ?」
「その……イタズラしないって……」
「イタズラはしない」
「だったら……離して……ぁっ」
「夫婦が愛し合うことは……イタズラじゃないだろう?」
「っ!!」
だ、騙された!?
確かにそうだけど……でもでもっ。
「嫌か?」
「もう……ずるいよ」
そんな風に聞いたって、逃がす気なんてないくせに……。
私ももう……逃げようなんて思わないし……。
お風呂から上がったら、どんな言葉で梅太郎くんを責めようか。
でも……そんな気力あるかな……と私は思いながら、梅太郎くんに身を委ねた。
fin
「買い物はこれくらいか」
「うん」
原稿の合間に、梅太郎くんとスーパーで買い物。
こうしていると夫婦だなぁって、実感する。
そして、梅太郎くんの無駄のない主婦(夫?)の買い物に、私の妻としての立場がない。
これはもうすぐに出来る事じゃないからと、梅太郎くんに色々と教わった。
うん、私頑張れ。
「あ、私も持つよ」
「いや……重いから、千代はこっち」
そう言って、梅太郎くんは私の方に軽い買い物袋を渡してくれる。
「あと、こっちも」
「ひゃ……」
梅太郎くんの空いた手が私の手を取って、繋がれる。
これは……俗に言うこ……恋人繋ぎ。
こういうことをさらりとする梅太郎くんはずるいんだ。
「へへっ……」
でも……顔が自然と緩む。
「楽しそうだな」
「うんっ、梅太郎くんは?」
「俺も……楽しいよ」
あ……梅太郎くんも楽しそう。
その事に私も嬉しいし……それに何より。
「一緒の家に帰れるの……やっぱり嬉しい」
「……そうか」
別々の家じゃなくて、一緒の家だから別れなくてすむ。
それが何よりも嬉しい。
「今日の夕食……私も作るからね」
「ああ。一緒に作ろう」
fin
些細なことで、喧嘩した。
その理由も端から見たら、きっと他愛のないことなんだろうけど……。
二人で住み始めての初めての喧嘩。
元々、限られた部屋しかないので、先ほどまでいたリビングから寝室へと移動した。
「……」
べっどに腰掛けていると、すぐにドアの開ける音がした。
――千代だ。
「……」
千代は明らかに落ち込んでいて、泣きそうな顔をしている。
本当ならすぐにでも抱きしめたいが、今はまだ堪える。
ここですぐに折れては意味がない。
千代は俺の傍に寄ってきて、隣に座る。
ダメだ、隣を見ちゃいけない。
「……ごめんね、まだ怒ってる?」
「っ……」
いつもとは違う落ち込んだ千代の声にどきりとしつつ、俺はぐっと堪える。
く……結構辛いな。
「の……っ…………梅太郎くん」
千代は小さな声で、間違えながらも何とか口にした。
俺の名前を。
「もう……怒ってない」
「ほんと?」
「ああ」
千代はホッとした様子で、俺へと寄り添ってくる。
その温もりにこちらも安心した。
実は最初から怒ってない。
こうしたのはわざとで、これは俺なりの作戦だった。
千代はまだ、俺のことを『野崎くん』と呼んでしまう。
夫婦となったのだし、名前で呼んでほしいのだが……千代は上手く出来ずにいた。
そのための今回の作戦だ。
多少なりとも不機嫌な様子を見せれば、千代も焦るかもしれない……。
そうすれば……きっと俺を名前で呼んでくれると踏んで、今回の作戦に至った。
「やっぱり、まだ慣れないけど、頑張るから……ね」
「ああ、頼む」
「でも……時間がかかっちゃうかも……」
「?何でだ?」
「だ……だって、私にとって『野崎くん』は片想いの時から……ずっと呼んでた名前だもん。だから……すごい特別っていうか……その」
「っ……!!」
顔を真っ赤にして言う千代に、俺も動揺した。
特別……特別か。
これだから……千代には参る。
「だからすぐには切り替えできなくて……」
ごめんね と謝る千代の頭を撫でながら、俺はこう告げた。
「大丈夫だ」
「……う…梅太郎くん?」
「これからずっと一緒にいるんだから……名前で呼ぶ時間のほうが多くなる」
「……うんっ」
俺の言葉に千代は、照れながらも笑顔を見せてくれた。
fin
のざちよ夫婦編。ベタな感じに続いてきますーー。
「ののの、野崎くんっ」
「来たか」
「よ、よろしくお願いしますっっ」
私は今日から、野崎くんと一緒に暮らす。
そうはいっても、野崎くんの家に私が転がり込む形だ。
そのため、私の荷物はそう多くはない。
春からは私は大学生、野崎くんは漫画家に専念する。
そして……今日から夫婦になる。
残りの荷物を全て片付けて、私は一息吐く。
「荷物は片付いたか?」
「うん、野崎くん」
「……」
「?どうしたの?野崎くん」
あれ?何か変な顔になった。
「それ……変じゃないか?」
「え?え?」
「呼び方。今日から籍をいれたのに……」
「あああっ。そっか」
そうだ、私ももう『野崎』なんだ。
「の……じゃなかった………梅太郎くん」
「何だ、千代」
「っ!!」
改めて口にすると、ちょっとだけ恥ずかしい。
でも……嬉しい。
名前を呼ばれたし……呼んじゃったよーーー。
「何か嬉しいな」
「そうだな……。俺も嬉しいよ」
そう言って、のざ……梅太郎くんは私に微笑んでくれる。
「これから……よろしくね。梅太郎くん」
「こちらこそ……千代」
こうして、私達の新生活が始まった。
fin
野崎くんの家でベタ作業中、それは唐突に起きた。
「……うーん」
あれ……?野崎くんが悩んでる。
顔も険しいし……漫画のことで悩んでるのかな?
「野崎くんどうしたの?」
「え?」
「何か悩んでるみたいだけど、私で良ければ話聞くよ」
「すまない……佐倉……実は」
「うん」
「佐倉……俺と結婚してくれないか?」
「うん……え?」
ん……?
何か今、不思議な単語が出てきたような……?
「野崎くん……今……なんて?」
「いや……だから、俺と結婚して欲しいんだ、佐倉」
「え……?」
え……えーと、結婚?
結婚ってあの……結婚?
誰と……誰が?
「ええええっ」
「佐倉?」
「そ、それって漫画のネタとか?」
そうだよ、うん。
野崎くんのことだから、漫画のネタかもしれないし……。
「漫画?いや……これは俺個人のことだが?」
「ふ、ふぇ!?」
「佐倉……俺と結婚してくれないか?」
「は……はいっ」
私は野崎くんに言われるまま、反射的に返事をしていた。
「っていうのがプロポーズだったんだよ、みこりん」
「はぁ?その時ってお前ら付き合ってなかったよな?」
「うん。だから、私もびっくりしちゃって……」
「……」
俺は佐倉の話を聞きながら、今日も漫画の作業を手伝っている。
さすが、野崎。
いきなりぶっ飛んでいる。
「よ、よかったな」
「うんっ」
ああ、佐倉はとても嬉しそうだ。
それ自体はいい。
彼女の長年の想いが身を結んだのだから……。
「で、結婚自体はいつだよ。大学卒業したらか?」
俺も佐倉も大学進学の進路は決まっている。
野崎は大学には行かず、漫画一本に絞ることになるが……。
「ううん。高校卒業したら、一緒に暮らすんだ」
「はぁぁぁ!?」
「そんなに驚くことか?御子柴」
食事を作っている野崎がキッチンから、顔を出す。
どうやら俺達の話は聞こえていたらしい。
「いきなり付き合いすっ飛ばして結婚かよ」
「ダメか?俺の蓄えは十分あるから問題はないが……」
「いや……本人同士がいいなら、別にいいけどよ」
展開がいきなりすぎて、俺はもうついていけない。
「佐倉が大学に行ったら、一緒にいる時間が減るからな。俺としては常に一緒にいたい」
「野崎くん……」
「………」
ダメだ、二人の世界に入った。
俺もいるんですけど……。
二人の幸せは嬉しいが、この甘い空気にはまだ慣れそうにもなかった。
fin
私は待ち合わせ場所に急ぐ。
きっと、もう彼は待ち合わせ場所にいるから、私は急ぎ足で向かうけど……人混みが多いからちっとも進まない。
うー、久しぶりに鹿島くんと結月と会ったら、遅くなっちゃったよーー。
3人で会うと、つい話が進んじゃうから……。
「えーと、梅太郎くんは……」
今日は外で待ち合わせて、梅太郎くんと食事することになっている。
梅太郎くんも今日は剣さんとの打ち合わせがあったので、せっかくだから……と外で待ち合わせることになった。
その結果がこれだけど……。
せっかくの久しぶりの外でのデートなのにっ。
服装も気合い入れたのに……っ。
ようやく待ち合わせ場所の駅前のロータリーに来て、私は足を止めた。
「……あ……」
梅太郎くん発見っ。
梅太郎くんの身長はこの人混みの中でも目立つから、私は見つけやすい。
でも、梅太郎くんからはまだ私が見えていないだろうなぁ。
早く……梅太郎くんのところに行きたい。
そう思っている私の前から、不意に耳に入った声。
「ね……あの長身の人」
ん?
「あ……カッコいいね。彼女とか待ってるのかな?」
彼女じゃないもん、妻だもん。
「声かけちゃう?」
だ……ダメっっ。
私は先程よりもスピードアップして、梅太郎くんの傍に駆け寄った。
梅太郎くんも私を見つけてくれる。
「は……はぁ……梅太郎くんっ」
「千代、良かった。道に迷わなかったか?」
「う……うん……はぁ」
「そんなに急がなくても、俺は千代を置いていかないぞ」
息を整えている私の頭を、梅太郎くんが撫でてくれた。
ううっ、梅太郎くんの笑顔好きだけど、今はダメだよぉ。
その顔を誰にも見せたくないのに……。
あ……でも、私の前にいた子たち……、諦めてくれたみたい。
いつの間にかいなくなっていた女の子たち。
私が来る前に、どれだけの人が梅太郎くんを見てたのだろう。
そう思うともやっとする。
「…………」
「千代…どうした?」
黙りこんでしまった私に、梅太郎くんが覗きこんでくる。
そんな梅太郎くんの腕に、私はギュッとしがみつく。
「千代?」
「早く……二人になりたい……かも」
「っ……」
だって、梅太郎くんの奥さんは私だもん。
梅太郎くんの特別な顔は……私だけの特権だから……。
「帰るぞ」
「え……ふぇっ」
だって、今から食事に行くんじゃないのっっ。
その疑問は、梅太郎くんの勢いに負けて、私は何も言えなかった。
ううう……怒らせちゃった?
梅太郎くんの言葉通り、私たちはあれからすぐに家に戻ってきた。
ドアを開けて、中に入った途端―――。
「あの……梅太郎く……んっ」
息つく間もなく、私は梅太郎くんに唇を重ねられる。
え?え?え?
何で……急に?
貪るようにキスをされて、私はようやく梅太郎くんへと問いかけた。
「ふぁ……梅太郎……くん?」
「千代が煽るから……抑えがきかなかった」
「あ……あ……おって?」
そんなつもりはなかったのに……でも……あれ以上、あの場所にいたくなかったから……いいかな?
「すまん。食事は後で俺が作るから……今は千代が欲しい」
「う……うん」
梅太郎くんに求められて、私は顔を赤くしながらも頷く。
それと同時に、梅太郎くんが私を抱き上げる。
私は梅太郎くんの首へとしがみつくと、梅太郎くんはまた微笑んでくれるから……私はまた困ってしまった。
fin
その1
「佐倉、ポッキーゲームしよう」
「!!」
「……っ」固まって動けない
「……」じっと見つめている
ポキッ0.1秒
「身長差がありすぎたな」
「……うん」涙目
その2
「佐倉、ポッキーゲームしよう」
「!!」
『…………』固まる二人
(う、うごけないよぉぉぉ)
(……まどろっこしいな)
ポキッ
「……折れちゃったね」
(残念だったような……)
「佐倉」
「え……」
…ちゅ
「この方が早い」
「……っ」
その3
「はい、佐倉」
「むぐっ!」
いきなり、千代ちゃんにポッキーを食べさせる野崎。
「え、これが正しいんじゃないのか?」
その4
ポキッ
「・・・(途中で折れちゃった)」
「まだ残ってるな」
「!」
私が驚いてる間に、私がくわえているポッキーを野崎くんは食べた。
唇についたチョコも舐めとられる。
「ふぇ・・・」
「佐倉は甘いな」
その5
「野崎くん、ポッキーゲームしよ!!」
「わかった」
「ふぁい」ポッキーをくわえる
「…………」
「……?」くわえてくれない野崎くんに首を傾げる
「!!」(な、何してっ)
「……ん?ポッキーゲームだろ?」と千代ちゃんに触れる野崎。
「~~っ」抵抗したくても、ポッキー食べているので何も出来ない。
鹿島誕ということで、堀鹿。
日付が変わって、唐突に鹿島が言い出した。
「今日からしばらくは堀先輩と同い年ですよ」
「あー」
確かにそうなるのか。
改めて指摘されて、些かムッとした。
それに反して鹿島は嬉しそうなので、苛めたくなる。
「だったら、"可愛い後輩"じゃないな」
「え……」
「後輩じゃないなら……同級生か」
そう言えば鹿島は少し頬を膨らませている。
「先輩の"可愛い後輩"は私ですよっっっっ」
「矛盾してるじゃねぇか」
「とにかく、"可愛い後輩"の座は譲りませんっ」
「わかったわかった」
「むー。先輩は意地悪ですね」
「お前より長く生きてる分な」
いつでもお前よりも先に立ちたい。
いつだって頼られたいんだ、お前に。
そんなことは意地でも言うつもりはないけれど……。
「そうだ。まだ言ってなかった」
「何をです?」
きょとんとしている顔の鹿島を引き寄せて、その耳元に顔を寄せた。
「誕生日おめでとう」
~fin~
Twitterでのお題140字SSまとめ。
のざちよ・みこちよ。
野崎✕千代
【告白】
「あの……野崎くんっ」
「どうした?」
「……っ!ファンですっ」
好きですって今度こそ、言わなきゃいけなかったのに……。
「……」
がっくりする私に、野崎くんは私の頭を撫でてきた。
「?」
「俺は……ファンじゃなくて好きだけど……佐倉のこと」
「っ!!!」
頭が真っ白になった。
御子柴✕千代
【独り占め】
「独り占めしたいな……」
「うん」
いつも佐倉は野崎しか見てないから、そんな言葉が出たのかもしれない。
俺の言葉に佐倉は頷いていて……。
「私も……野崎くんを独り占めにしたい」
「……っ」
その言葉に愕然とした。
俺は佐倉を独り占めにしたいのに……。
アニメ最終回前に上げていたSS。甘かったり切なかったり。
堀鹿・のざちよ・みこちよ
堀✕鹿島
そっと髪を梳かれた。
「ん……?」
「悪い、起こしたか?」
「……ふぁい」
「寝ぼけてんなぁ」
先輩は頭を撫でるのを止めない。
その手の温もりがとても心地良くて安心できる。
いつも蹴りあげる時は容赦無いのに、こういう時だけは優しいから、今はその手に擦り寄りたくなった。
野崎✕千代
「野崎くんっ」
「佐倉……そんなに走らなくても……」
「でも……早く野崎くんと帰りたくて……」
「別に置いていかないぞ。俺は佐倉を待ってるのも結構好きだな」
「そう……なの?」
「ああ。俺の元に駆け寄って来る佐倉が可愛いから」
「っ!!」
御子柴✕千代
話をしていたら、急にみこりんの腕の中に閉じ込められた。
「み……みこりん?どうしたの?」
「佐倉……俺だっていつも……何も出来ないわけじゃないんだ。その気になれば……佐倉だってこの腕の中に閉じ込めることも出来る」
「っ!!」
私が戸惑っていると、私が何か言うよりもみこりんが身体を離した。
「み……みこりん」
「……なんてな。冗談だよ」
みこりんがあまりにも切ない顔をしていて……私も胸がしめつけられた。ドキドキとして……落ち着かない。「え……?」みこりんが男の子だってことを思い出した瞬間だった。
「俺……あんなことするつもりなかったのに……」
「御子柴……しょうがないよ。自分の気持ちに嘘はつけないだろ?」
「鹿島……」
お題140字SS3。
野崎✕千代
【ひとりじめ】
「ふふっっ」
「ご機嫌だな、佐倉」
「へへ……だって……秘密っ」
「?」
今日はみこりんも堀先輩も来ないから、野崎くんとの時間をひとりじめ出来る。
皆で作業する時間も好きだけど、2人の時間も好き。それだけで満足だなんて……野崎くんは知らない。
【みつめるその先に】
「ん?」
作業の途中で、私はふと視線を感じて顔を上げる。
「……」
「え……あの」
何故か野崎くんが私を見ていて、その手は止まっていた。
「どうしたの?野崎くん」
「いや……ちょっと見ていたくなって……」
「っ!!」
いつから見られていたのかと思ったら、私は何も言えなくなった。
若松✕瀬尾
【 とまどいはかくせないもの 】
「何だよ、また倒れたのかよ」
「だ……誰のせいだと……っ」
瀬尾先輩の投げたボールにぶつかってこうなったのに……この人は……。
「しょうがねぇな。ほら」
「え?」
先輩が渡したのはスポーツドリンク。
「これでも飲んで元気出せ」
「あ、ありがとうございます」
瀬尾先輩がこんなことをするなんて、信じられない。
でも……その優しさは何故か心に残った。
【重ねた手のひら】
「若、何か食べに行こうぜ」
「ちょ……瀬尾先輩っっ」
了承も聞かずに瀬尾先輩が俺の手を取って、歩き出す。
全く勝手だなとは思うが……。
「あ……」
「どうした?」
「いえ……何でもないです」
重なった手は思っていたよりも小さい。
その事に改めて気づいた。
御子柴✕千代
【みこちよはこっそりと、髪に思慕のキスをします】
「あれ、佐倉寝てるな」
作業の休憩中、佐倉が机に突っ伏して寝ている。
その姿は気持ち良さそうだ。
「少し休ませておくか」
そう言って、野崎はお茶を淹れると席を外した。
ちらりと佐倉を見ると、本当に気持ち良さそうに寝てる。
「…………」
辺りを確認して、そっと佐倉の傍に近づく。
「……」
眠っている佐倉の髪にそっと自らの唇を寄せていた。
「御子柴?」
「な……何だよっっ」
「顔真っ赤だが?」
「ななな……何もしてないっっ」
「?」
堀✕鹿島
【堀鹿は愛おし気に、背中に確認のキスをします】
「……」
鹿島が珍しく真剣に台本を見ている。
その表情があまりにも真剣だったから……。
その背中に触れるか触れないくらいの口づけを落とす。
「……何かしました?」
「ちょっとな」
【 うしろ姿 】
(あ……)
廊下を歩いていて見えるのは、堀先輩だ。
その後ろ姿で、すぐにわかる。
他の人は目印になる特徴がないとわからないのに……何故だろう?
私はその後ろ姿を追いかけた。
「堀先輩」
名前を呼んで、その後ろ姿が振り向く瞬間が好きだった。
お題で書いた一部のSSです。
若松✕瀬尾
「若、これやるよ」
「え……瀬尾先輩?」
(ひょっとして、誕生日プレゼント……とか?)
「ほらよ」
手に乗ったのはずっしりとした重み。
「……枕ですか?」
「おう。今日は睡眠の日らしいからな」
「あ……ありがとうございます」
野崎✕佐倉
「…っ」
「佐倉……どうした?」
「な、何でもないよっっ」
「何でもないって……言うが」
いつも笑顔の佐倉が何故か涙目になっている。
何かあったのだろうか?
「何か嫌なことでもあったのか?」
「ううん……ほんと何でもないんだ」
そう佐倉は言うが、涙は流れたまま。
困ったな。
こういう時……気の利いたことが全く浮かばない。
佐倉の笑顔がみたいのに…。
堀✕鹿島
「……」
「……」
「どうしたんですか?堀先輩」
「いや……百面相だなって思ってさ」
「え……そうでした?」
「ああ」
ころころと表情を変える姿が見てて飽きない。
「面白いからもっと見てていいか?」
「え……」
「鹿島っ」
といつものように鹿島を蹴り上げる。
酷いとは思いつつこれが日常。だと思っていたのに……。
「鹿島……?」
部室に行くと鹿島が一人で窓の外を見ていた。
それは……自分の知らない顔で。
「……」
「あれ?堀先輩どうしたんですか?」
俺の存在に気がついた鹿島がこちらへと振り向く。
「いや……」
今はいつもと変わらないのに……胸がざわりと騒いだ。
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