琉夏×バンビ。
主人公の名前は、「小波 美奈子」です。
「友好」と「好き」の境目?
――天気予報は、本当にあてにならない。
降水確率0%なんて、誰が言ったのか……。
午前中はすっきりと晴れていたはずだった。
だが、今は……。
「どしゃ降りだ……」
窓の外の景色を見て、美奈子は思わず立ち尽くす。
午前中の天気が嘘のように、今は強い雨が降り続いている。
これはすぐに止みそうもないほど……。
美奈子は常備していた折り畳み傘がある事に安堵し、昇降口へと向かう。
他の生徒は諦めて濡れて帰る者、雨が止むまで待つ者、
美奈子のように持っていた傘で帰り始める者。
そんな人が行き交う中で、美奈子はある一点に目を向ける。
「あ……」
視線の先には、琉夏が昇降口でぼんやりと外を向いたままで、その場に立っている。
美奈子はそんな琉夏に自然と近づいていた。
「琉夏くん、どうしたの?」
「あ、美奈子」
琉夏は美奈子の存在に気がつくと、柔らかな微笑みで視線を美奈子へと変える。
その表情が反則だと思いながらも、美奈子は平静を保った。
「こんな天気だろ。どうするかなぁって思ってさ」
「傘ないの?」
「うん、ない」
さすがに琉夏は傘を常に持ち歩いてはいないようだ。
「だから、走って帰ろうかなぁって思ってたとこ」
「ええっ、風邪引いちゃうよ」
小雨だったらそれでもいいが、流石に今日は限度を越えている。
こんな雨の中で帰れば、風邪を引くに決まっている。
そんな風に思えば、自然と取る行動は一つだ。
「一緒に帰ろ?私傘持ってるし」
「やたっっ。ありがとう、美奈子」
琉夏の笑顔に、美奈子は心の中で舞い踊っていた。
一向に止まない雨の中を、二人は一つの傘で歩き出す。
傘を持っていた美奈子の手を琉夏が上から握り締める。
「俺が持つよ、傘」
「え……でも」
「美奈子の身長だと、俺の背まで届かせるの大変だろ?」
「う……」
そう言われてしまっては、美奈子は任せるしかない。
「ごめんね」
「むしろ俺が助かってるんだから、気にしないで」
「うん……」
普段よりも距離が近くで、周りの音は雨の音しか聞こえない。
そうなれば、美奈子は自分の心臓の音に焦った。
この音が琉夏に聞こえるのではないのかと……。
普段よりも近すぎる距離が、美奈子とそして琉夏も無言にさせていた。
「美奈子」
「え?」
「濡れるから、もっと傍に来て」
「あ……うん」
距離が更に縮まる。
触れるか触れないかの距離。
きっと、焦ってるのは自分一人で。
琉夏本人は平然としているのだろうと思うと、舞い上がっている自分が恥ずかしい。
美奈子は帰り道、何を話したのか全く覚えていない。
だが、こういう日も悪くないと思った。
~fin~
同人活動も行っています。