夏彦×深琴 ネタバレに注意してください。
この船に来てから、大分時が経つ。
常に緊張感が強いられる中では、気持ちが塞ぐ。
前よりは自由になったとはいえ、あまり動き回りたくはなかった。
そんな中、部屋の中に入ってくる音が聞こえる。
(お食事お持ちしましたっ)
「ありがと」
白ヒヨコがいつものように、食事を深琴の前に持ってきた。
その温かい食事を口にして、優しい味にホッとする。
(どうですか?)
「おいしいわ」
(よかったですっ)
深琴が微笑んで答えると、白ヒヨコも飛び跳ねて答えてくれる。
警戒している船の中で、唯一心を許せる存在。
その可愛らしい外見と深琴に寄り添ってくれて……何よりも安心した。
……それにしても。
深琴はちらりと白ヒヨコを見つめる。
「ねぇ……」
(何ですか?)
「あなた、本当にあの男に作られたの?」
(そうですよーー。我が主は夏彦様です)
「……」
(疑われてますがどうしてですか?)
「だって……あの無愛想な男が……こんな可愛いあなたを作れるとは思えなくて……」
何というか似合ってない。
最初は大きいロボットが深琴の世話にとつけられた。
だが、恐怖心が先にあり、とても受け入れられなかった。
それなのに……今目の前にいるのは、可愛らしい白ヒヨコ。
「……ふふっ」
(……何を笑われてるんですか?)
突然笑い出した深琴に、白ヒヨコが不思議そうにしている。
「だって……想像したらおかしくて……あの男があなたを作ってる姿……」
(……)
いったい、どんな顔をしてこの白ヒヨコを作ったのだろう。
そう思うと、笑えてしまった。
(主様にも……もっと笑っている姿を見せてほしいです)
「え……?」
(きっと……喜ぶと思いますよ)
「そんなこと……」
白ヒヨコの言葉に、深琴は戸惑った。
いつ殺されるかもわからないのに……笑うなんて……。
(主様は深琴様には悲しんでほしくないんです……。優しくしたいけど……優しく出来ないだけで……)
「…………」
深琴はふと思い返してみる。
確かに最初は脅されたりはしたけど……。
何度か様子を見に来てくれたり……。
船に酔いそうな自分に声をかけてくれたり……。
それに何より……白ヒヨコを作ってくれたり……。
その部分は……優しいと言えるかも?
……大分広く解釈して……だけど。
「そうね……。優しいところもあるかもしれないわね……」
(……!!)
自分がそう言ったからか、白ヒヨコは驚いているように見えた。
「もう……驚きすぎじゃない?」
(主様が知ったら、喜ぶと思いますよっ)
「止めてよ。こんなの言えるわけないでしょ」
(……そうですか?)
「ええ、これは私たちだけの秘密よ。いいわね」
(はい)
白ヒヨコの返事に深琴は満足した。
そう……これでいい。
これ以上はきっと……深入りはしたらダメだ。
深琴はそう自分に言い聞かせた。
夏彦は思わず、ため息が漏れた。
「……俺は何をしてるんだ」
白ヒヨコを操作して、深琴とのやり取り。
自分には見せない姿をあの白ヒヨコには見せている。
自分がそう仕向けたから、結果としては上々だ。
だが……。
何だかやりきれない。
あんな風に笑う姿を自分も……見せてくれたいいと思う。
それなのに……。
深琴のために白ヒヨコまで作って……自分らしくない。
でも……。
「……これは俺の目的の為だ」
夏彦はそう自分に言い聞かせた。
そうでないと……迷ってしまうから。
それでも……夏彦の中で……少しずつ変化が起きそうな……。
そんな予感を感じていた。
~fin~
同人活動も行っています。