――それは不意に訪れた。のざちよ。
――野崎くんはいつも読めない。
「佐倉、手を見せて」
「え?手」
唐突に野崎に言われて、千代は反射的に手を出した。
「ちょっと参考にしたい」
「あ……うん」
野崎は漫画の参考にといつも熱心で、周囲をよく観察している。
想像では限界がある部分は、やっぱり実際に見ないとわからないと思う。
特に異性に関することは……。
男女では手の大きさも作りも違うから、じっくり見ないとわからない部分もある。
野崎の作品に対する熱心さに感心して、千代は喜んで協力したくなった。
野崎は千代の手をジッと見て、観察している。
――が、不意に。
「ののの……野崎くん」
「あ、すまん」
野崎の手が不意に千代の手を包み込んだ。
その行動に千代の熱は一気に上がった。
「男女の手の大きさが……どれくらい違うのかを見たくて。不快だったら止めるから」
「い……嫌じゃない、よ」
(ううう……恥ずかしいよーー)
嫌じゃない、むしろ嬉しい。
だけど、恥ずかしさが勝ってそう口に出来ない。
(野崎くんの手……やっぱり大きいんだ)
元々、自分とは結構身長差もあるし、男女では作りが違うので当たり前だ。
野崎の大きい手はゴツゴツとしていて、それでいてペンだこもある。
自分の手とは全く違う。
(……落ち着け、私っ)
意識しているのは自分だけで、野崎は平静を保ったままだ。
(もし……この手を離したくないって言ったら、野崎くんどんな顔をするかな?)
特に何の反応もなく「何でだ?」と野崎に聞き返されそうだ。
【好き】の二文字が言えればいいのに……。
(でも……このままじゃ、ダメだよねっ。よし)
せっかくのチャンスだから、それを無駄にせずに利用しなくては……っ。
そう、千代が決心した時だった。
「あ……のっ」
「ありがとう、参考になったよ」
「っ!!」
そう言って、野崎は千代の手を解放した。
意気込みと共に、その温もりは離れていく。
(…………)
「佐倉?」
「……野崎くんの……」
「俺の……?」
「……野崎くんの、バカ――っ」
何事もなく話しかける野崎に、千代は叫ぶしか出来なかった。
fin
同人活動も行っています。