外へ巡回の時間だったが、フェリチータは慌てて建物の中に戻っていた。
忘れ物をしていた事に気がつき、取りに戻るために部屋へと走る。
その勢いのまま、廊下の角を曲がった時だった。
「あっ!!」
「!!」
鈍い痛みが響き渡って、身体は倒れこんでいた。
「……フェリチータ」
「ご……ごめん、ノヴァ」
どうやらぶつかった相手はノヴァだった。
不機嫌を隠さず、こちらをにらみつけている。
――やってしまった。
ノヴァは規律に厳しく、自分にも厳しい。
幹部の中でも模範のような人物だ。
そんなノヴァに対して、同じ幹部の自分はどうなんだろう?
自分の行為は注意力散漫で、情けない。
しかもそれをノヴァに見られるなんて……。
フェリチータは、少なからず落ち込んでいた。
「何をそんなに急いでるんだ」
「ちょっと……忘れ物しちゃって…」
「だからって、不注意すぎるだろ。建物の中で走り回るな」
「ご……ごめんなさい」
やっぱり怒られてしまった。
更に言われるかと思ったが、後には続かない。
どうやら反省は受け入れられたらしい。
「……怪我はないな」
「う……いたっ!」
「え……あっ」
フェリチータが動いたらすぐに痛みが走った。
見れば、ノヴァの服のボタンに髪が絡まっている。
(また、ノヴァに迷惑かけちゃった……)
これ以上、迷惑をかけたくはないのに……。
髪が絡まっているために上手く動けず、多少の動きで痛みが走る。
(このままじゃ……だめだ)
「ノヴァ……ごめんっ。今取るから」
フェリチータは自分のナイフを取り出す。
この方が早い。
これ以上、ノヴァに迷惑をかけるなら、さっさと切るほうがいい。
そう思っていたが、ナイフを持っていた手をノヴァに止められた。
「馬鹿、切るな」
「だって……」
「いいから、ジッとしてろ」
そう言って、ノヴァがフェリチータの髪に触れる。
それと同時に、ノヴァとの距離が近くに感じた。
(ち……近い)
とっさにノヴァの事が見れずに、フェリチータはつい俯いてしまう。
ノヴァの指が、自分の髪に優しく触れている。
その指は丁寧で、思わず勘違いしそうになる。
まるで、自分を大切に思われているような……。
(だ……ダメッ)
気がつけば、自分の意に反して胸が高鳴ってくる。
顔が熱くなってくる。
――でも、違う。
ノヴァはそんな風には思っていない。
これは仲間としての優しさで、特別な意味なんてない。
だから、勘違いしてはダメだ。
ノヴァに悟られてもダメだ。
(ノヴァは……私の事は好きじゃない……から)
そう思うと、胸に痛みを感じていた。
ノヴァの指は終始優しく、フェリチータの髪は痛む事はなかった。
「ほら、とれたぞ」
絡まっていた髪が解けて、ノヴァの身体が離れる。
それが……寂しいなんて言えない。
「ありがとう。ノヴァ……。それから、ごめんね」
「ああ」
ノヴァの言葉は相変わらず短く、必要最低限。
でも、その中に沢山の優しさが含まれている事を知っている。
「……っ」
フェリチータは立ち上がって、その場から小走りで立ち去る。
先ほどのことがあるから、走るなんて出来ないし気持ち的にも無理だった。
(――ノヴァの優しさにもっと……触れたいと思ったら……どうすればいいの?)
「――っ!」
今の自分は、軽く混乱状態。
胸の痛みと顔の熱さは……中々治まりそうもなかった。
fin
同人活動も行っています。