暁人の誕生日話。暁人おめでとうっ。
「何やってんだ?」
「……」
七海がキッチンに立っていると、こちらの様子を伺う暁人が立っていた。
キッチンの惨状を見て、暁人はため息をつく。
いつの間にかキッチンは、七海が作ろうとした痕跡で汚れてしまっていたからだ、
「何か食べたいなら俺に言えばいいだろ。何作ろうとしたんだ?菓子……か」
材料を見て察しがつくあたり、暁人はさすがだ。
しかし、七海としては不満だ。
「それじゃ……意味がない」
「何でだよ?お前が食べたいなら、俺がいつでも作ってやるのに……」
「食べたいんじゃない」
「はあ?じゃあ何で作ろうとしてたんだ?」
「……ケーキを作りたかったの。暁人の誕生日だから……」
「!! そ、そうかっ……しかしケーキかよ。ハードル高すぎんだろ」
その理由を知って胸が熱くなる反面、料理の腕はまだまだ七海に一人でケーキを作るのは無謀すぎる。
「ケーキなら俺が作ってやるよ。お前は待って――」
「ダメ」
「は?」
「私が祝いたいのに……主役の暁人が作ったら意味がない」
「お前……」
内緒で作ろうとして失敗。
せっかく驚かせたかったのに……。
「じゃあ一緒に作るか」
「え?」
「お前一人に作らせるほうが不安で仕方ねぇよ。待ってるくらいなら……一緒に作ったほうがいい」
「……暁人」
「それに俺が一緒に作りたいんだ」
ダメか?と暁人に問われれば、七海は首を振っていた。
そんなのダメじゃない、嬉しいに決まってる。
それに暁人も嬉しそうに見えた。
材料をかき混ぜる暁人の手つきは無駄がなく、七海はフルーツを切っていた。
「大きさはどれくらいだ?」
「今日はこの後市ノ瀬さんもこはるさんも来るから……」
「そうか。こんな日が来るなんて……な」
「うん……良かった」
きっと過去のことを思い出せば、暁人は千里と一緒に誕生日を過ごせるなど二度と思ってなかったはずだ。
けれど……今は違う。
今年も来年もずっと過ごしていける。
「七海……」
「何?」
「……ありがとな。俺の誕生日を祝おうとしてくれて……」
「まだ始まってないのに……」
幸せな時間はまだ始まってもいない。
だけど暁人はとても嬉しそうで、それを見ていると七海まで嬉しくなる。
「そうだな……準備を済ませるか」
「うん」
千里やこはるたちが来るまでの時間……七海と暁人は準備に追われていた。
その時間すらも二人にとっては幸福に思えた。
同人活動も行っています。