甘い記憶。

Collar×Malice　　白石景之×星野市香

――甘い。

もう忘れていい記憶なのに、何故かそれだけが残っている。

甘いのは卵焼き――のはずなのに、その甘さはまるで彼女そのものだなって思う。

「あれ？白石さん？」

「お昼中にお邪魔するよ」

特防へとやってきて、お弁当を食べている市香ちゃんに近づいた。

「また、食事してないんですか？」

「うん。特に必要ないからね」

「だったら――また食べます？」

「いいの？」

そう差し出されたお弁当の中から、迷いなくそれを取る。

「また、卵焼きですか？」

「うん。結構気に入ったみたい」

「本当ですか？私もすごい好きなんです。卵焼き」

そう言ってにこにこと笑っている市香ちゃん。

気に入ったのは――君が作った卵焼き……だから。

そう告げたら君は何て言うんだろう？

その反応を見てみたい反面、今はまだこのままの関係でいたい。

そう思いながら、俺はこの口の中にある甘さを味わっていた。