荘介✕信乃
日付をまたいだ頃……にキッチンで物音が聞こえる。
それは普段は滅多に立ち寄らない人物が、作業していたからだ。
「……あ…ダメだ……。上手くいかない」
信乃はしょんぼりとして、落ち込む。
このままだと間に合わないのに……。
こそこそと作業をしているものの、上手く出来ない。
せっかく荘介が今日は教会に泊まると言っていたのに……。
「あつっ……」
手を滑らせて、チョコが入ったボウルにお湯が入ってしまった。
「ああっ!!」
「……信乃、こんなところで何してるんですか?お腹でもすいたんですか?」
「!!」
その声に信乃は身体が固まる。
「そそそそ、荘介?何で……教会に泊まるんじゃ……」
「……ちょっと用事が早く終わったので、戻ってきたんですが……」
そう言いながら……荘介は目の前の光景に固まってしまった。
やたら甘い匂いと焦げ付いた匂い。
材料はあちこちに飛び散っているし、何より信乃自身にもチョコやらついてしまっている。
「信乃……これは?」
「……」
「信乃」
声が低くなったのを感じて、信乃は観念した。
「……ケーキ作ってたんだ」
「ケーキ?それなら……言ってくれれば俺が……」
「それじゃ……ダメなんだよ!!」
「信乃?」
「お前にあげるケーキを……俺が作りたかったんだ。今日は……お前の誕生日だから……」
「信乃……」
「でも……生地は上手く出来ないし、チョコは溶けないし……出来なくて……」
「…………」
段々と声が小さくなる信乃を、荘介が抱きしめる。
「嬉しいです、信乃」
「何でだよ……出来てないのに……」
「信乃の気持ちが嬉しいんですよ、俺は」
「……本当に?」
「ええ」
にっこりと笑う荘介に、信乃の落ち込んだ気持ちが和らいでいく。
荘介は信乃の失敗を丸ごと受け止めて、嬉しそうにしている。
「今から……俺と一緒に作りましょうか?」
「うん……そしたら……一緒に祝おうぜ」
「はい」
信乃の言葉に、荘介は笑顔で頷いていた。
~fin~
蒼✕信乃
「信ー乃」
「ぎゃ……っ」
不意に抱きつかれて、信乃はその重みを感じる。
必死に逃れたくても、その相手はギュッと力を込めて抱きしめているため、逃れられない。
「な、にすんだ、蒼っっ。離せ」
「やだ」
力いっぱいで抱きしめてくる蒼は、何故か本当に楽しそうだ。
「いったい……何なんだよ」
「今日は俺の誕生日だから……信乃にお祝いしてほしくて……」
「……」
今日は荘介の誕生日であり、その片割れである蒼も誕生日になる。
「だから……お祝いして?」
「普通……自分から言うか?」
「プレゼントは信乃でいいよ」
「却下!!」
蒼の言葉に全力で拒否する信乃。
信乃の言葉が予めわかっていたのか、蒼は対してショックを受けていなかった。
それどころか楽しそうで。
「何で……そんなに楽しそうなんだよ」
「ん?それは楽しくもなるよ」
「?」
「今日が俺にとって……信乃と過ごす初めての誕生日なんだからさ」
「…………」
不意に蒼が抱きしめていた腕を解く。
「だから……さ。信乃」
「……」
「今日は……一緒にいる時間だけでいいから……傍にいてくれないか?」
「……え?」
それはどういうことだ?
信乃が首を傾げていると、蒼がくすりと笑う。
「信乃は帰ったら、荘介の事を祝ってやるんだろ?」
「…………」
「だから……わずかな時間だけでいいから……。その間だけ……信乃との時間を俺にちょうだい」
「…………」
「それだけで……十分だよ」
「…………」
ーーペチッ。
信乃が何故か軽く蒼の頬を叩いた。
「……信乃?」
「……馬鹿が。無理するなよ」
「…………」
「お前が望めば……俺はいくらでも……傍にいてやるよ」
「っ!」
「だから……ちゃんと言えよな」
「信乃……」
自分の望みよりも信乃の都合を優先しようとする。
それは……優しく……そして……悲しい。
信乃はそんな蒼に苛立ちが募った。
今度は信乃から蒼を抱きしめる。
「……っ」
「お前……ほんと馬鹿だ」
「ごめん……」
「そんな馬鹿のために……今日はずっと一緒にいてやる………」
「うん……一緒にいて……、信乃」
「……ああ」
信乃の返事を受けて、蒼は再び信乃を強く抱きしめていた。
~fin~