信乃の誕生日ということで。
信乃おめでとうーーー。
誰よりも先に祝うのは……ただ一人だけ。
皆が寝静まった頃、自分たちの寝室で行われる事。
「5・4・3・2・1」
時間が0時を指したのを確認する。
「誕生日おめでとうございます、信乃」
「へへっ。ありがとう」
自分を一番最初に祝ってくれるのは、荘介。
以前は浜路も一緒だったけど、今は寮生活だからそれは敵わない。
だから、誰よりも最初に祝ってくれるのは荘介だった。
「ケーキは明るくなってからですね。浜路も来るそうですし……」
「あと、古那屋でも祝ってくれるって小文吾が言ってたし、牧田のじーさんも料理作って待ってるって」
「賑やかになりそうですね」
昔では考えられなかった光景。
こんな風に賑やかに誕生日を迎えられるなんて、思ってもみなかった。
「楽しみだなっ」
「……そうですね」
信乃を祝ってくれる人が多いことは嬉しいが、多少複雑な気持ちにもなる。
信乃を独り占めしたい……だなんて。
それはとても自分勝手な思い。
「今は、荘介と2人な。プレゼントちょうだい?」
「……」
確かに用意はしているが、今渡そうかどうしようか考えていた。
「今ですか……?ちょっと用意しますから……」
「違う……これだよ」
「え……」
一瞬の出来事。
荘介は驚きで目を見開かせる。
荘介が固まっている間に、信乃の唇が自分から離れていく。
「し……の?」
「よし貰ったっ」
信乃は満足した顔で、嬉しそうにしている。
「参りました……」
「何が?」
自分勝手に思っていたのに、信乃は自分の予想を越えていく。
信乃があまりにも嬉しそうにしてるから、荘介は負けた気分だった。
~fin~
荘介✕信乃 人様にプレゼントしたもの。
荘介が風呂を終えて出てくると、信乃がベッドに座っている。
眠い時は先に寝てしまうのに……。
「信乃、どうしたんです?」
「……別に」
信乃は何やら顔を膨らませていて、機嫌が悪い。
だけど、こうして自分の近くにいて、座っているのは何かのサインだ。
先に寝ない辺り、何かを訴えている。
そしてそれは自分に関することで。
それなれば、このままにはしておけない。
荘介は信乃の隣に座って、その顔を見つめた。
「何を怒ってるんです?」
「…………」
「信乃?」
信乃は言いたくないのか、膝を抱えて俯いている。
だが、荘介も引く訳にはいかない。
膝を抱え込む信乃を、そのままで抱きしめていた。
「信乃……。俺に何か至らないことがあるんなら、ちゃんと言って欲しいです」
「……」
「信乃」
静かに名前を呼べば、かすかに反応を見せる。
「……た」
「え?」
「……今日、荘介……女の人といただろ」
「………………そうでしたっけ?」
「いたじゃん!!綺麗な女の人と」
信乃は顔を上げると、その顔は怒っていた。
そんなこともあったと、荘介は片隅にあった記憶を引っぱり出す。
「あれはたまたま道を聞かれただけですよ?」
「……」
本当に何でもないのに。
他人といても、全く記憶に残らない……。
表面的に繕っているだけで、大した感情も抱かないのに……。
信乃以外には……。
「……信乃」
「…………」
「俺が好きなのは……信乃だけってわかっているでしょう?」
「……わかってても嫌なんだよ」
「信乃?」
信乃はポロポロと泣き出す。
それは感情の一つ一つを吐き出していくようだった。
「荘介は俺の……だから……」
「…………」
信乃はわかっていない。
自分は信乃しか見ていないのに……。
信乃だけなのに……。
信乃が自分を想って泣く姿に、これ以上とない嬉しさを感じているなんて……。
信乃は知らない。
嫉妬する信乃は、自分にとって心地良くて。
もっと信乃に縛り付けて欲しくなる。
そんな風に思っているなんて……信乃は知らない。
「信乃」
「そ……ふっ……」
信乃の涙を拭って、その唇を味わう。
たどたどしくも自分を受け入れる信乃は、とても愛しい。
「ん………っ」
その甘い唇に酔いしれながら、信乃へと気持ちを伝えていた。
「落ち着きました?」
「……な、何かごめん」
事を終えると、信乃は顔を赤らめていて、いつもの調子に戻ったようだった。
「今……何か飲み物を持ってきますね」
「荘介っ」
ベッドから離れようとする荘介に、信乃はベッドで横になったまま呼び止める。
「信乃?」
「荘……好きだ……よ」
「っ……俺もです、信乃」
「……へへっ」
眩しいような顔で笑う、信乃。
これだから……君にはかなわない。
~fin~
今日の作業を終え、荘介は帰ろうと扉を開けた時だった。
「――これは困りましたね」
作業に夢中で気付かなかった。
いつの間にか外は大雨になっていた。
これでは屋敷に戻る頃には、ずぶ濡れになってしまうだろう。
「それも……仕方ないですね」
たとえ濡れても、すぐに着替えればいいことだ。
そう思い、急いで走ろうとした時……荘介は目の前の光景に目をみはった。
「――荘っ」
「信乃!!!」
静寂の中で、雨の音に負けないくらいで荘介は声を張り上げた。
信乃は傘をさしてカッパを着ているものの、あちこち泥だらけでビショビショに濡れていたから。
無茶な信乃の格好に、荘介は呆れて……怒りがわく。
何とかおさえこんだが、声は低くなってしまった。
「いったい、どうしたんですか」
「決まってるだろ?迎えにきた」
「迎えって……濡れてますよ」
「ん?ああ、走ってきたから」
「……」
だからビショビショで、泥だらけなのかと納得する。
「ほら……荘介」
信乃は大事にそうに持っているのは一本の傘。
それを自分へと向けて、差し出してくる。
「……荘介、お疲れ。帰ろう」
「――っ」
あまりにも無邪気に……笑うから。
おさえこんだ感情も全て吹き飛んで……。
――手を伸ばす。
「――荘介?濡れるぞ」
「大丈夫です」
「でも……風邪引く……」
「――信乃がいるから、俺は温かいです」
「そっか」
「……はい」
濡れた信乃を荘介は力強く抱きしめていた。
~fin~
あの時――、信乃の傍に居たのは……。
自分じゃなかった。
「荘介……ん、どうした?」
「いえ……何でもないんです」
信乃を守るために、あの影が信乃を守ったと聞いた。
信乃のために……信乃を守るために。
自分は眠りこんでいて……、信乃のために何も出来なかった。
そして……人知れず消えていた。
「……荘介、眠れないのか?」
「いえ……大丈夫ですよ」
もう一度……俺たちの前に現れたら……どうなるのだろうか?
信乃の心は……揺らいでしまうだろうか?
自分ではなく……もうひとりの存在に。
「信乃……好きです」
「荘介?」
今は……そう告げることしか出来ない。
今はただ……気づかずにいて。
~fin~
「信乃、はい紅茶です」
「ん」
部屋のベッドで寝転がっていると、荘介がお茶とお菓子をセットで持ってきた。
荘介がベッドに腰掛けると、自分もまた当たり前のように隣に腰掛ける。
それはもう習い性のようなもので、むしろこの場所にいないほうが違和感だ。
紅茶を口に入れると、程よい甘さ。
お菓子も自分好みで、全てが自分仕様になっている。
荘介はそんな信乃の隣で、にこにこと笑っているだけだ。
お菓子も紅茶も信乃だけのもの。
荘介は信乃を見つめているだけだ。
荘介は自分に甘い。
それは周囲からも自分でも自覚している。
でも、それが自分たちのあり方だから……仕方がない。
その甘さが心地よくて、でも甘える一方だけにはなりたくなかった。
信乃は飲んでいた紅茶を置くと、荘介へと向き合う。
「信乃?」
「そのまま、ジッとしてろ」
「?」
首を傾げる荘介の唇に、自分のとそっと重ねる。
荘介がベッドに座っていると、自分からしやすくていい。
「――っ、ん」
荘介が自分を甘やかすと同時に、自分もまた荘介を甘やかす。
――それは、2人だけが知っていればいい。
唇が離れると、荘介はくすりと笑っていた。
「――甘いですね」
「っ!!」
「信乃とのキスは」
「お、お前が持ってきたんだろ!!」
紅茶もお菓子も荘介が持ってきたものなのに……と信乃は荘介を軽く睨む。
「そうじゃなくて……」
「?」
「信乃とのキスは俺にとって……いつも甘いんですよ」
「馬鹿だ……お前」
やっぱり、荘介は甘い。
信乃はその甘さに真っ赤になっていた。
~fin~
荘介✕信乃 人様にプレゼントしたもの。
感じたのは、違和感。
ふと信乃が手探りで確かめると、そこにあるはずの温もりは無かった。
「……」
寝ていた信乃は、むくりと身体を起こしていた。
荘介がキッチンに居ると、不意に物音がした。
こんな深夜に……と荘介は音がした方を見る。
「あれ、信乃。どうしたんですか?」
荘介が見たのは、パジャマ姿の信乃だ。
今だったら、もう寝ている筈なのに……。
「荘こそ……何してんの?」
「さっきまで来客が来ていたので、片付けてるんですよ」
「ふーん」
「信乃は?」
「……別に」
「?」
信乃は近くにある椅子に座って、何やらジッとしている。
特に用があったわけではないのか?と、荘介が首を傾げる。
「信乃、そんな格好では冷えます。部屋に戻って下さい」
「……」
荘介の言葉に、信乃は動かず……椅子に腰掛けたまま。
どうやら戻る気はないらしい。
このままでは……身体を冷やして……体調を崩してしまうのに……。
どうして……信乃は……。
……。
……………。
「もしかして……俺を待ってる……とか?」
「っ!!」
ピクリと信乃の身体が反応している。
どうやら図星らしい。
「いったい、どうして……?俺もすぐに部屋に行くのに……」
「目が覚めたら……荘介いなかった」
「……」
寝ていて、目を覚ましたら自分がいなかった。
だから……自分を探しに来たのか……。
いないことで、信乃を不安にさせてしまったらしい。
荘介は苦笑しながらも、手元の片付けを終えた。
信乃の元へと向かい、その身体を抱き上げる。
「全く……風邪引きますよ」
「…………もう、平気だっての」
「はいはい」
信乃はやっぱり寂しがり屋で。
それは自分に対して向けられていると思うと、荘介としては怒れない。
むしろ喜びのほうが勝る。
ギュッと首元に抱きつく信乃に、荘介も安心する。
少しでも不安を拭えたらいい――。
この大切な……存在に。
~fin~
「……暑い」
「信乃……だらけすぎですよ」
暑さでぐったりしてる信乃に、荘介がうちわで扇ぐ。
でも、涼しい風はほんの少しだけだ。
屋敷の冷房は無く、後見人の里見からは買ってもらえない。
おかげで、信乃は暑さでぐったりとベッドで横になっている。
荘介はそんな信乃の傍らで、ずっとうちわで扇いでいた。
「荘介は平気そうだよな」
「そうですか?俺だって暑いですよ」
「嘘つけ」
真夏でも全く顔には出ず、涼しそうに見える。
表情はほんとうに変わらない男だと思う。
「………」
「信乃?」
急に身体を起こしたの不思議に思ってると……。
「ちょ……重いです」
「……」
何故か信乃が荘介にのしかかってきた。
不意をつかれたため、荘介は体勢を崩し、信乃を抱えたままベッドで横になっていた。
信乃が自分を何やら見下ろしている。
「何ですか、急に。暑いんじゃなかったんですか?」
「ん、暑いんだけどさ……」
「?……!!」
荘介が首を傾げたままでいると、また不意打ちが起きた。
信乃が掠めるように、唇を重ねてきたから……。
「なっ」
「あ、表情変わった」
「な、何ですか……っ」
「驚いた?」
「驚きますよ……」
「だったら、作戦成功だな」
「何の作戦ですか……」
「秘密ー」
いつも変わらない荘介の表情を変えてみたかった。
ただ、それだけで信乃は荘介に攻撃をしかけた。
「全く……信乃」
楽しそうな信乃に、荘介も面白くない。
荘介は反撃のつもりで、信乃を抱きしめる。
「ぎゃーーー、暑いって」
「信乃から抱きついてきたんでしょう」
「そうだけど……」
「だったら、我慢して下さい」
「……うー」
作戦成功の代償は、それなりに大きかったらしい……。
信乃は身を持って思い知った。
~fin~
荘介✕信乃
「信乃……どうしたんですか?」
「ちょっと外を見てた」
「ああ。すごい雨と風ですね」
「…………」
「信乃?」
「………」
外の惨状をみて、何か寂しさや怖さを感じっているのかもしれない。
信乃は素直に口にしないだろうけど……。
そんな信乃に……。
荘介は後ろから抱きしめる。
「……っ、なに?」
「いえ……抱きしめたくなったので」
「変な荘介」
そう言いながらも抱きしめている手に、信乃は手をそっと添えていた。
~fin~
BD6のあべさんの漫画より。若干のネタバレありますので、未読の方はご注意下さい。最後は何かオチがつきました・・笑
「………」
「何です?信乃」
理由はわからないが、信乃がいきなり18歳の本来の姿に戻った。
そんな信乃は先程から、ジッと荘介を見ている。
「背が大きくなっても、荘介の方が身長ある……」
「……」
どうやら大層不満らしい。
先程も、信乃に隠れて自分が1人で食べていたと……あらぬ濡れ衣を着せるし……。
「……別に低くないでしょう。平均だと思いますが?」
「それでも、荘介よりも小さいじゃん……」
まだ自分の身長に、納得がいかないらしい。
――やれやれ。
せっかく元に戻れたというのに、荘介は信乃の不満顔しか見ていない。
それが自分としても面白くはない。
「信乃はそのままでいいと思いますよ」
「何でだよーーーっ」
「俺は信乃を見下ろして……自分の腕の中に抱きしめるの……好きですよ。こんな風に……」
「なっ……」
いつもとは違った本来の姿である信乃を抱きしめる。
どれほど、この日を待ち望んでいたか……。
信乃はわかっていない。
「…………」
「信乃?」
急に静かになった信乃に、荘介は首を傾げる。
顔を覗き込めば……。
「信乃?どうしました?」
「そ……」
「そ?」
「荘介の顔が……近くなって……何か……恥ずかしいんだけど……」
「…………」
顔を真っ赤にして言う信乃に……こちらもつられて照れてしまう。
どうやらまだまだ時間が必要らしい。
おまけ
13歳の姿に元に戻ってしまった信乃。
そんな信乃は自分に対し……。
「ほら、荘介よりも背が大きくなったぞ!!!」
「……信乃」
「何?」
「何というか……プライドは無いんですか?」
「…………別にっ、いいんだよ」
「それで……信乃が満足するならいいですけどね……」
信乃は四白の姿である自分を前に、満足気に笑みを浮かべていた。
~fin~
その音が聞こえる度に、いつも泣きたくなる。
今日もその音を聞いて、信乃は声にならない悲鳴を上げた。
「っ!!」
「信乃、大丈夫ですか?」
「そ……荘介」
すぐに荘介が信乃に駆け寄ってきて、その身体を自分の腕の中へとおさめた。
小柄な身体は小刻みに震えている。
「怖い……ですか?雷……」
「ちょ……とだけな」
信乃は雷が苦手だ。
昔はそれを信乃は必死で隠していたが、長い付き合いである荘介には甘えてきた。
ぎゅっと荘介の服にしがみついている。
すると、また遠くで音が聴こえる。
「っ!!!」
最早泣きそうになっている信乃の耳を、荘介が塞いだ。
「……荘?」
「こうすれば聞こえないでしょう?」
「……うん」
聴こえるのは荘介の声、荘介の……心臓の音。
感じるのは……荘介だけ。
自分を安心させてくれるのは……荘介だけだ。
「荘介の傍が……一番安心する」
「そうですか?」
「ん……」
まだ遠くでは雷が聞こえる。
けれど……先ほどの震えはすっかり止まっていた。
~fin~
――どうも、四白です。
お久しぶりの方も、初めましての方もよろしくお願い致します。
年齢は秘密ですが、犬塚信乃の飼い犬です。
現在、訳あって信乃の幼なじみの犬川荘介と身体を共有しています。
その辺りは前回にお話をしたのですが、簡単にご説明させていただきますね。
荘介は人である自分の姿と、犬である私の姿に両方になれます。
ほとんど荘介が表に出ているので、私は荘介の視点から感じ取っています。
今は荘介が主で動いていて、私は荘介と共有しているだけ。
その辺の仕組みは複雑ですが、私は何もしなくても2人の生活を見ています。
便利ですねっ。
今では信乃と荘介の親代わりとして、彼らを見守っています。
見ることしか出来ないんですけどね。
前回は2人の生活を覗いたので、今回は昔話でもしましょうか?
年寄りの話は長くなりますけど、どうぞお付き合い下さい。
――大塚村。
「……」
あ……あくび。
天気がいい日は眠くなります。
ゴロゴロとして、ご飯まで待ちますかね。
それとも……。
身体をすっかりと落ち着けて、うとうととしかけた時でした。
「信乃、大人しく寝て下さいっ」
「やだっっ」
大きな声で言い合う2人。
その声に、こちらは思わずため息がもれます。
……またですか。
ちらりと視線を向ければ、廊下では荘介と寝間着姿の信乃が何かもめていますね。
まあ……大体の予想はつきますが……。
「今は何ともないから平気だってっ。だから……遊びに……」
「昨日は熱があったばかりなんですよ!!!」
「今は下がったから大丈夫だっ」
「信乃っ」
「……荘介は心配しすぎなんだよっ」
「信乃は……自分の身体にもう少し気遣ってください」
「そんなの……荘介に言われたくないっ」
「信乃っ!!」
「…………」
「…………」
――ああ、この展開はまずいですね……。
2人は苛立って……黙りこんでます。
――このままでは。
本当なら仲裁に入りたいんですが、ここはあえて見守りましょう。
自分の気持ちをぶつけることは大事ですからね。
けれど、事態はあまり思わしくないようです。
顔をあげた信乃は、怒った顔のままで……どこか悲しみもある表情でした。
「……荘介は俺を部屋に閉じ込めてれば……満足なんだろ」
「そんなことは言ってないでしょう……俺は」
「もういいっ」
「信乃っ!!」
これで話は終わりとのばかりに、信乃は自分の部屋へと閉じこもりました。
荘介の声は届かずに……。
静かになったその場所に、荘介は立ち尽くしています。
「…………」
荘介も自分の気持ちが上手く伝わらず、喧嘩になってしまったので……悲しい顔をしていますね。
――やれやれ。
互いが互いを思う故、の喧嘩でしょうかね、これは。
信乃の身体が心配な荘介。
荘介と一緒に遊びたい信乃。
それだけなのに‥…。
まったく、見ててもどかしい子供たちですね。
――それから信乃は部屋へと閉じこもったまま。
荘介は、信乃の部屋の前の縁側に座り込んだまま。
まったく――。
ここは私が何とかするしかないですね。
そう思い……私は荘介の傍へと近づき……荘介の隣に座りました。
「……四白」
荘介の顔は悲しみに満ちあふれていて……。
信乃を怒らせた事を相当堪えているようです。
「ダメですね……。信乃を怒らせてしまいました」
仕方ないです。
荘介は信乃を心配してるだけなのですから…‥。
「もっと……信乃の気持ちを汲んであげればよかったのですが…・…どうしても信乃が心配で……」
――。
「どうしても……上手くいかないです。信乃にだけは……」
それも仕方ないです。
特に信乃は……わがままのところもあり……強い意思を持っています。
人と関わることは……自分の思うようにいかないものですよ、荘介。
過去の記憶を持たない荘介は、人とどう関わってきたかも覚えていない。
そんな荘介が関わった初めての人が……信乃。
喜びや悲しみ、怒りや楽しみ……その感情も信乃と出逢って、初めて実感出来ているのです。
だから……。
荘介が上手く立ち回れなくても、それは人との付き合いでは仕方がないこと。
むしろ、その経験を経て……学んでいくのですから……。
私は荘介の肩を軽く叩きました。
焦らず……ゆっくりとやっていきなさい。
そう想いをこめて……。
「四白……ありがとう」
荘介はぎこちない笑みを作って……こちらへと向けてくれました。
――さて、そろそろでしょうかね。
そう思っていると、近くの戸が開きました。
「信乃……」
「…………」
部屋から出てきたのは信乃で、ジッと私たち……いえ荘介を見ていました。
「……荘介、ごめん」
「……信乃」
多分私たちの会話……荘介の声だけなんですが……それが聴こえて……信乃が出てきたのでしょうね。
信乃の顔は怒りはどこかへと消えて、信乃もまた悲しい顔をしていました。
「俺……荘介と一緒に遊びたかっただけなんだ」
「信乃」
「ごめ……」
最早泣いていた信乃に、いつの間にか立っていた荘介が……信乃の頭を撫でています。
その温もりを受けて……信乃が荘介へと抱きついていました。
荘介もまた……信乃を抱き返してて……。
「体調が整ったら……また出かけましょう?」
「ん……」
涙を流しながらも、信乃はようやく笑顔になって……。
その笑顔を見て……荘介も本当の笑顔になっていました。
――ふう、世話が焼けますね。
これでは進展するのも……まだまだ先のような気がしますよ。
2人の恋は……。
――現在。
「信乃、また買い食いしましたねっ」
「ううっ」
どうやら……買い食いをして……お金を無駄使いをしている信乃を荘介が怒っていますね。
何年経っても、2人は喧嘩が絶えないようです。
昔から……変わりませんね。
けど、変わったこともあります。
「だって、腹減ったんだよっっ」
「全く……」
呆れる荘介ですが、信乃へと何かを渡しています。
「荘介?」
「クッキー作りましたから……これでも食べててください。すぐに夕飯にしますから……」
「やったー」
嬉しそうな信乃に、荘介も喜んでいるのが全身でこちらに伝わってきます。
荘介は前以上に信乃に対して過保護で……甘くなってますね。
それに信乃も荘介には甘えてます。
微笑ましい……微笑ましいのですが……。
何というか2人の空気が甘い気が……。
信乃が荘介へと抱きついてきて、その笑顔を荘介へと向けています。
「ありがとう……荘介」
「信乃……」
荘介が身を屈めて……信乃に……。
――あ……この感じは。
…………すみません、伝えづらいです。
………………しかもすぐに終わらないし……。
――ふう、やれやれ。
想いが通じ合ってよかったですが、ここにいる人……いえ犬の存在も忘れないでほしいものです。
まあ……仲がいいことはいいんですが……親心としては複雑ですね。
声は届いてはないんですけどね……。
――って、まだですか……。
――ああ、荘介が信乃を抱き上げてるし……、部屋に向かってるし……。
仕方ありませんね、これ以上はもう見てはいられないので……今日はここまでにしましょうか。
2人の仲に幸あれ。
~fin~
教会に引き取られて、信乃の髪の話です。原作のなので、アニメのみの方は意味がわからないかもしれません。
「―荘。自分じゃ上手く切れねぇんだよ 頼むわ」
――そう言って、信乃から渡されたハサミ。
まさか……この手で信乃の髪を自分で切るなんて……。
浴室で静かにハサミで髪を切る音が響く。
「…………」
「…………」
互いに何も言わず……聴こえるのはハサミの音だけ。
『弱さ』の証だった長い髪。
だけど……その髪はもう必要ない……。
その身に化け物を抱えて、『強さ』を身につけたと言う……信乃。
それが……自分とは違うものだと思い知らされる。
信乃と自分にある……確かな違いを――。
「終わりましたよ、信乃」
「おー軽いっ。サンキュー」
信乃へと告げると、嬉々している信乃。
「…………」
先程まであった長い髪は自分の手で切り落とし、今は無くなったうなじを見つめる。
信乃の細い首。
小柄な身体。
弱かった証は消えていく……それでも。
気がつけば……その首筋に唇を寄せていた。
「そ、荘?ど、うしたんだ?」
突然のことに信乃は驚き、その様子におかしくなる。
「ちょっとした……誓いのようなものです」
「???」
信乃は意味がわからないと首を傾げる。
わからなくていい。
これは『誓い』だ。
たとえ信乃が……どんな存在になろうとも……。
その身に代えても……信乃を守るという誓いなのだから――。
~fin~
それはある夜の事。
教会に引き取られて…まだ間もなかった頃の話。
自分の部屋で寝る準備をしていた荘介が、いち早くそれに気づいた。
部屋の外の物音に。
それが誰かなんて、見なくてもわかる。
「――信乃?何してるんです?」
「そ……荘?」
扉を開けると、信乃が部屋の前で座り込んでいた。
その顔は驚きのまま、固まっている。
「何でわかったんだ?」
「わかりますよ、毎日来れば……」
そう、信乃はこの部屋に毎日のように来る。
その目的はただ1つだけ……。
「一緒に寝ようぜ」
「信乃……。そろそろ1人で寝れるでしょう……」
「……いいじゃん、別にっ」
止める間もなく、信乃は荘介の部屋のベッドへと飛び込んでいた。
その光景に、荘介はため息が漏れる。
この状態から信乃を部屋から出すのは不可能だ。
毎日許してしまう自分も自分なのだが……。
さすがに……困る。
今まで深くは聞かなかったが……そろそろ原因が知りたいところだ。
「信乃……どうして毎日部屋に来るんですか?」
「んーー」
「信乃?」
「荘介の温もりがあると……よく眠れるんだ」
「…………」
その表情は何かに怯えているようで……荘介は思わず黙りこむ。
(無理もないか……)
大塚村での事があってからまだ、日も浅い。
父親も村の人間も故郷も無くてしまった。
まだ……気持ちが追いついていない。
1人では不安になってしまうのだと――。
「……仕方ありませんね」
「いいの?」
「ええ。これからは……いつでも来ていいですから……」
結局は信乃の望む通りにしてしまう。
でも……根底では自分も何かに縋りたかったのかもしれない。
それは……信乃もだろうか…?
一緒のベッドで互いの温もりを感じながら……眠りにつく。
いや……眠っているのは信乃だけだ。
その安らかな寝顔に、荘介は戸惑う。
「全く……人の気も知らないで……」
信乃への気持ちを自覚しているこっちは……一緒に寝ることは辛いのに……。
けれど……それが信乃の望みなら……叶えてやりたいと思う。
「信乃……」
荘介は信乃の額へとそっと口づける。
今はまだ……これが精一杯。
荘介は信乃の寝顔を長い間見つめながら……静かに眠りについていた。
~fin~
「信乃……食事を……」
お膳を持って、障子を開けた時に荘介は固まった。
寝間着を着ている信乃は、上半身の素肌を晒していた。
女の子の姿をしているだけに、その格好は心臓に悪い。
荘介はすぐに障子を閉めた。
「何て格好してるんですか……」
「悪い……あつくて」
「だからって……風邪引きますよ。着替えて下さい」
「うん」
荘介が新しい寝間着を信乃へと渡すと、信乃が着ていた物を脱ぎ始めた。
――信乃の白い肌。
柔らかい感触。
長い髪が肌へと張り付いていて……。
「っ!!」
「荘介?」
「……いえ、俺はちょっと出てきますから」
「?」
このままでは心臓に悪くて……荘介は逃げるようにその場から部屋を出た。
信乃の部屋から離れた場所で、荘介はようやく一息つく。
「心臓に……悪い」
間近で見る信乃の肌はどこか艶めいていて、扇情的だった。
幼さは残るものの、漂う色気があって……。
それが荘介の中でざわめくのがわかる。
その現象は頭では理解していたけど……。
信乃への気持ちが……とどまらなくなりそうで……。
今までにない感覚に荘介は戸惑うばかりだ。
気持ちだけでなく……身体も求めてしまいたくなる。
白い肌は汚れがない証。
それに引き換え……自分は。
「信乃……」
荘介は自分の中にある、形にならない想いを……どうすればいいのかわからなかった。
~fin~
――犬塚家で飼われて、早十年以上。
年齢はもう数えるのを忘れましたが、名前は『四白』と言います。
どちらかと言えば、年寄りに入りますが……まだまだ若犬には負けませんよ。
毛の艶もいいですし、ね。
動きもいいですし、主も手入れをしてくれています。
最近の心配はそろそろ夏が近いので、ノミが増えることでしょうか?
この時期を思うと、憂鬱になりますねぇ。
ああ、そんな私の悩みは置いておいて。
現在は訳あって、主の幼なじみの犬川荘介という人物と身体を半分共有しています。
その仕組みはちょっと秘密ですが、今は深く考えないでください。
身体を貸していますが、実質の主導権は荘介に渡してあります。
私はどちらかと言えば、傍観者……いえ傍観犬ですね。
私は犬なので、彼とは話せませんが彼の想いは敏感に感じ取ってます。
今日はそんな彼と……彼の大事な人とのやり取りでも見てみましょうか?
荘介は状況によって本来の人の姿であったり、私の姿であったりします。
その方が色々と都合が良いようですね。
荘介が人の姿でも傍観できるので、こちらとしては楽しいですが……。
そんな荘介は人の姿で……ある人物を探しているみたいです。
その相手は……もちろん。
「信乃、ここにいましたか?」
「あ、荘介」
荘介の目線の先には、小柄な少年。
私の現在の主でもある犬塚信乃がいます。
信乃は部屋のベッドで寝っ転がってますね。
本来は彼の父が私の主なんですが、彼はもうこの世にはいないので信乃が現在の主です。
彼の父と同様に……信乃と荘介の成長を見てきたので、最早2人は私の子供みたいなものですが……。
「何かあったの?」
「ええ。パンケーキが出来たので、呼びに来たんです」
「パンケーキ!!食べるっ」
「だったら……起きて手を洗ってください」
「うん、わかったっ」
信乃は瞳を輝かせて、ベッドから飛び降りています。
ああ、荘介の心がわずかにですが乱れてますね。
信乃の笑顔に、荘介も嬉しさを感じているのが伝わってきます。
荘介は昔っから信乃には甘かったですが、更に甘くなったようにも思えます。
沢山のパンケーキを前にして、信乃はキラキラと満面の笑みを向けています。
もうああなると、他の事には目が入らなくなってますね。
信乃は勢いよくパンケーキを食べ始めています。
そんな信乃を見て、荘介は……。
「ほら、信乃。そんなに慌てると……詰まらせますよ」
「平気だって……ぐっ」
「だから言ったでしょう。これ、飲んでください」
案の定、詰まらせてしまう信乃に荘介が飲み物を差し出します。
信乃はそれを受け取って、口の中の物を流しこんで落ち着いたようです。
やれやれ。
「はぁ……、やばかった」
「信乃、食べる時はよく噛んでください」
「はいはい」
「信乃っ」
「わかったよ。母親じゃないんだから……」
「………」
―――荘介、苛立ってます。
口に出さない辺りは彼は大人ですが、荘介は時々信乃に対して小言を言っていますね。
甘くもあり厳しくするのが、荘介の方針のようです。
「ほら……口元についてますよ」
「わ……、荘介」
「甘い……ですね」
「だからって、口で舐めなくてもいいだろっ!!」
「つい……ね」
「荘介っ」
「はいはい。冷めますから食べてくださいっ」
「う……うん」
…………。
最近2人はこんな感じです。
信乃が何かをする度に、荘介が信乃を甘やかしています。
どうやら、荘介は信乃が可愛くて仕方がないようです。
信乃も荘介に触れられて、真っ赤にしていますし……。
どうやら2人の仲はますます深まってます。
荘介が信乃に抱く感情は……前から知っていました。
彼を切なく見つめ、内に様々想いを秘めている事も。
信乃に対する恋情はもちろん。
憎しみ・悲しみも。
あとは彼を切望しすぎて……狂おしいほどの気持ちも抱えていたことも。
だから、信乃と上手くいってホッとしています。
親心としては複雑ですね。
何か大事な子供を取られちゃったような……。
娘を嫁に出したような気分です。
いえ、厳密には娘でもないし、信乃は子供じゃないし……、ましてや私は犬なんですが……ようは気持ちです。
……と、話が大分それましたね。
パンケーキを食べ終えたら、何やら2人は出かける事にしたみたいですね。
ああ……教会に行くんですか。
教会でお世話になることが決まって、2人……いえ特に荘介は慌ただしい日々を送っているようですね。
教会の手伝いをしたり、教会の建物の修繕をしたり、忙しく遣われています。
彼は何でも出来るんですが、何でも引き受けてしまうのが困りものですね。
だって……。
「今日も教会で修繕?」
「ええ。屋根の方と……少し中も片付けないと……」
「ふうん」
信乃はそんな荘介に少しご不満。
だって、荘介に相手をしてもらえないですからね。
荘介も甘やかしてますが、信乃も甘えてます。
時々相手してあげないとむくれますよ、荘介。
それをわかってるのか、わかっていないのか……私でもわからない時があります、困ったものですね。
「信乃?」
「……別に、そんな毎日行かなくてもいいじゃん」
「一応、里見さんに言われてますからね。ちゃんと仕事は果たさないと……」
「……」
「今日は信乃はどうします?」
「……一緒に行く」
「はい、わかりました」
むくれながらもついてくる信乃に、荘介はご満悦。
何だかんだ言っても、荘介と一緒にいたいようです。
微笑ましいですね。
2人が並ぶと身長差がわかります。
荘介は本当に成長しましたが……信乃は……。
いえ……この辺の話をすると湿っぽくなりますので、止めておきましょう。
教会に着くと、何やら来客でしょうか……。
こちらに気づきましたが……
「あ、犬川さん。こんにちは」
おや、最近良く教会に来る女性ですね。
お祈りでしょうか?
何やら……荘介に包みを渡しています。
「これ……差し入れなんです。良かったらどうぞ」
「ありがとうございます……子供たちも喜ぶと思いますよ」
「…………」
…………あ―――。
どうやらこの女性は、荘介に心を寄せているようですね。
荘介が笑顔で対応している横で、信乃が面白くなさそうにしていて……。
ああ……これはまずいですね。
結構信乃は心が狭いし、独占欲が強いんです。
荘介……、わかってます?
「…………」
女性が去った後も、信乃はまだむくれてますね。
掃除をする荘介に対して、椅子に座りながら信乃は微妙な顔をしていて……。
そんな信乃のわかりやすい変化に、気づかない荘介ではないです。
一旦掃除を中断して、荘介は信乃へと近づいていきます。
「信乃?」
「何?」
「妬いてるんですか?」
「そ……んなわけ……」
荘介に指摘されて、ウッと反応してしまう信乃。
その表情から、図星だとわかりますね。
そんな信乃を抱き寄せて、荘介が顔を近づけて……。
……。
…………。
………………すみません、説明しにくいです。
そして……見続けにくいというか……。
信乃は真っ赤にしていて、荘介を軽く睨んでいます。
荘介はそんな信乃の顔も可愛いと思っているのが、伝わってきます。
「荘介はずるい……」
「そうですか?」
「そうやって、すぐ機嫌取ろうとする……」
「そんなつもりはないんですけどね」
「荘介の……馬鹿」
「はいはい」
荘介がすごい喜んでいるようですね。
荘介の心の中は信乃でいっぱいになっているのが、こちらでは感じ取れます。
信乃も恥じらいながらも嬉しそうで……、すごい居づらいです。
「荘介、古那屋に行こうぜ」
「今日もですか?」
「だって、飯美味いもん」
「あんまり里見さんの負担をかけたくないんですけどね……」
そうは言っても、荘介は了承するところが甘い……。
結局は信乃の喜ぶ顔が見たいから、OKしてしまうようで……ふう。
古那屋へと行くと、信乃の表情がいきなり強張って……?ああ、成る程……。
「げ、現八」
「信乃、来たのか」
「ちょ……」
信乃に抱きつこうとしているのは、犬飼現八さんです。
憲兵隊隊長という肩書きを持っているのですが、彼は何故か信乃へと好意をよせているようで……。
「…………こんにちは、現八さん」
…………。
荘介、微妙にわかりにくいですが……苛立ってますね。
表面に出さないから……伝っていないけど……。
2人のやり取りを見て、心穏やかではないようです。
信乃よりも独占欲が強いのは……荘介かもしれないですね。
「近づくなって……。荘、助けて」
未だに繰り広げられる攻防から逃れるように、信乃は荘介の背中へとしがみついてます。
荘介は現八さんと信乃の間に挟まれていて……。
「何で、いつも荘介ばかり……俺にだって懐いてくれてもいいだろ!!」
「嫌だっ……。俺は荘介がいいんだっっ!!」
「…………」
あ、心が弾んでますね……荘介、わかりやすいです。
「兄貴、いい加減にしろ」
仲裁に入ったのは、現八さんとは乳兄弟で古那屋の息子さんの犬田小文吾さん。
毎度行われるこのやり取りを、いつも止めてくれます。
「信乃、荘介。すぐに飯用意するから待ってろ……。兄貴はこっちだ」
「何するんだ、小文吾」
「いいからっ、ババアが呼んでるんだよ」
「…………」
ずるずると現八さんを連れて行く姿は慣れていて、さすが小文吾さん。
「行きますか」
「そうだな」
この2人にとっては、毎回の事ですから……今更動じませんね。
さて、古那屋のご飯は美味しいからとても楽しみですっ。
屋敷へと戻ってくると、信乃がベッドへとすぐに横になってます。
「何か……疲れたな」
「そうですね……」
荘介からもわずかに疲れを感じます。
あの後、やっぱり現八さんが乱入して一騒動ありました。
小文吾さんも今頃……疲れているんじゃないでしょうか?
信乃と荘介は帝都に来てから……多くの人と関わり合うようになって……多くの感情を感じているようです。
喜びも悲しみも……2人には様々な想いを感じ取っている。
特に信乃の周りはトラブルが多いから、荘介の心配もつきなくて……見てるこちらもハラハラします。
でも……知ってます。
2人は2人で一緒にいる……この時間をとても大切にしている事を……。
荘介がベッドへと腰掛けると信乃がその背中に身体を預けていて……。
「荘……」
「どうしました?」
「ん……ちょっと疲れたけど……こうしていると……安心するんだ」
「そうですか?」
「ん……」
「お疲れ様です……信乃」
ポンと頭を撫でると、信乃が気持ちよさそうに……はにかんでいて……。
あ、この空気……。
「信乃……」
「荘介……」
影が重なる2人に……またも説明しづらいというか……。
親としては複雑です……いえ、犬なんですけど……。
「荘……苦しいって」
「そうですか?そろそろ慣れてもいいと思うんですけど……」
「だって……そんな余裕ない……。ドキドキしっぱなしなんだよ」
「それは俺もですけど……」
「嘘だっ、いつも余裕じゃん」
「余裕に見せてるだけです」
「……………」
「全く信じてないようですね」
「だって……荘介上手な気がする……」
「器用なんです」
「……」
「だったらもっと……慣れさせてあげましょうか」
「ん…………」
ボスっとベッドが揺れる音が聞こえて……。
…………ああ、もうこれ以上は見ていられないですね。
今日はこれくらいにしておきましょうか?
我が子供たちに……幸あれ……。
~fin~
「~~♪っ」
「…………」
荘介が隣にいる信乃を見ると、信乃がやたら上機嫌に見える。
(久しぶりに……お小遣いが出たから……とか?)
朝、里見から臨時で小遣いをもらう信乃の姿を見ている。
それもあって、信乃は街の中を歩くのを楽しみにしていたのだが……。
それにしても……。
「信乃、何だか嬉しそうですね?」
「えっ、そうか?」
「顔に出てますよ」
「そっかーー。つい……」
顔が緩んだと喜びを隠し切れない楽しそうな信乃に、荘介も嬉しくなる。
だが、その原因が小遣いなのは……少々複雑だ。
「そんなに里見さんから、お小遣いを貰って嬉しかったんですか?」
「ば、馬鹿!!俺は子供じゃないっ」
「だったらなぜ?」
「…………わかんねぇの?」
「…………はい」
「……………」
素直に告げた荘介に、今度は信乃の表情が一気に暗くなる。
その落ち込み具合に、荘介もまずいと感じた。
だが……、すでに遅かったらしい。
「し……の」
キッと自分へと睨みつける信乃の顔が、明らかに怒っていたからだ。
「荘介のばーか、にぶいっ」
「ちょ……信乃!!」
不機嫌な信乃は、そのまま走り出していく。
その小柄な身体は、すぐに人混みで見えなくなってしまった。
「………まずいですね」
自分だけの小さな神様の機嫌を、本気で損ねてしまったようだ。
荘介は……急いで信乃を探しに走りだしていた。
荘介の傍から離れて、信乃はトボトボと歩いていた。
さっきまでの楽しさは一気に吹き飛んだ。
「何だよ、荘介の馬鹿……」
荘介は何もわかってない。
自分の気持ちを……。
「確かに……里見から小遣い貰って嬉しかったけどさ」
大きな理由はそれだけじゃない。
それなのに、荘介はまるで子供扱いだ。
実際は一つしか変わらないのに……。
「……」
多くの人が行き交う街の中で……賑わう中で……どこか寂しい。
改めて、今は一人だと実感する。
2人で並ぶと心が弾んでいたのに、今は……ただ孤独でしかない。
「信乃」
「っ」
信乃が名前を呼ばれてふりかえると、その相手を見て……信乃は落胆した。
「……何だ、蒼か」
「何だとは酷いな」
信乃の態度にも、蒼は気にせずに笑顔で話しかけてくる。
「今はお前の顔見たくないんだけど……」
「何だよ、荘介にいじめられた?」
「っ!!」
「あ、図星」
蒼に指摘されて、動揺する自分がいた。
やっぱり同じ顔だから……?
「そ……そんなんじゃ……」
「あんな鈍感な朴念仁よりも、俺のほうが信乃を大事にするよ」
「…………俺は……それでも荘介がいいんだ」
蒼に囁かれても……思い描くのは……荘介だけ。
自分の心を占めているのは……荘介だけ。
「荘介は信乃を傷つけるのに?」
「……っ」
「余計な……お世話です」
「荘介っ!!」
息を切らした荘介が、信乃と蒼の間に割り込む。
「へぇ……。信乃を傷つけたくせに、よく追ってきたね」
「誰にも……信乃を渡す気はありませんっ」
「別にお前の同意は求めてないけどね」
蒼が持っている刀に手をかけた時、信乃は村雨を呼びだそうとした。
――だが。
「ここでは……流石に分が悪いか」
蒼はすぐに刀から手を離した。
ここは街の中。
多くの人が行き交う中だが、蒼にとってはそれはあまり気にならない。
それでも……留まったわけは……。
「信乃を巻き込むわけにはいかないからね」
「…………」
にっこりと信乃だけに送る笑顔は爽やかなのに、荘介へは目もくれない。
また、荘介も笑ってはいない。
そんな一触即発の中……蒼が告げた。
「またね、信乃。荘介に飽きたらいつでも言って」
「誰が飽きるか!!」
言いたいことだけ告げると、蒼は人混みの中にあっという間に消えていく。
「…………」
「…………」
残された2人は、先ほどのこともあって少々気まずい。
そんな中……口を開いたのは……。
「信乃……すみませんでした」
「荘介?」
「信乃を……怒らせてしまって……」
「や……。俺が勝手に怒っただけだし……」
よく考えてみたら、荘介は悪くない。
自分が勝手に浮かれて、怒っただけなのに……。
「俺が……楽しそうにしてた理由なんだけど……」
「はい」
こうして口にするのは……ちょっと……いや、かなり恥ずかしい。
だが、ここまで来て言わないわけにはいかなかった。
「ひ、久しぶりに……さ」
「はい」
「荘介と出かけられるのが……嬉しかっただけなんだ」
「…………」
最後には小声になってしまって……恥ずかしくなって……何だかいたたまれない。
「そうなん……ですか?」
「そうだよ、悪いかっっ」
もう自棄になって叫んでいたが、それでも恥ずかしい。
「確かに……俺は鈍いですね」
「……」
「嬉しいです、信乃」
「っ!!」
荘介はあまりにも嬉しそうに笑うから……信乃の恥ずかしさは吹き飛んでいた。
荘介がギュッと信乃の手を握る。
「荘介?」
「今度ははぐれないように……」
「ん……」
信乃は照れながらも……小さく頷いていた。
やっぱり荘介と一緒にいるのは、嬉しい。
荘介が嬉しそうだと、もっと嬉しい。
信乃は繋いだ手を握り返して、荘介と共に歩き出していた。
~fin~
※BAD的な要素が含まれます。ご注意下さい
――くりかえし、みる……夢。
「……荘介っ!!!」
「……信乃。どうか幸せになってください……」
(俺がいなくても……)
「な……にいって」
そう声が聞こえてきたがして……信乃はその横たわる身体を抱きしめた。
必死でその手を掴んで、繋ぎ止める。
無理だとわかっていても……。
「……っ」
その姿を心に焼き付けたいのに……見ることができない。
涙が溢れて……止まらなくて…よく見えない。
「泣かないで……笑って……ください」
「無理……言うなよ」
最期だから…………。
笑顔を作りたいのに……上手く笑うことが出来ない。
だけど……それが荘介の望みなら……信乃は……。
ぎこちなく……泣きながら……何とか笑みを作る。
「し……の」
「っ!!」
荘介はいつもよりも力がない……笑顔を向けてくれた。
「……」
気がつけば……その姿も……温もりも信乃の手からすり抜けていった。
「……そう…すけ」
その名を呼んでも……、もう返事はない。
信乃は座り込んだまま、いつまでも動けずにいた。
「…………」
信乃が空を見ると……いつもと変わらない景色だ。
それでも……心は晴れない。
隣に……『彼』がいないから……。
あの夢を繰り返し見る。
繰り返し……見て、心はまだ痛い。
自分の半身を無くしてしまった……そんな状態だ。
「荘介……」
早くもう一度……会いたい。
だから……その時まで……。
待ってる。
~fin~
荘介がきっちりと身支度を整えている、いつもの朝。
いつものように未だに眠る信乃へと声をかける。
「信乃、起きてください。朝ですよ」
「……」
……無反応。
だが、長年の付き合いから荘介はわかっていた。
「信乃、起きてるんでしょう?」
「…………」
「………信乃」
何度か繰り返すことで、信乃はやっと身体を起こしてくるのだが……。
――今日は違った。
あまりにも不意打ちだったから、荘介は腕を引っ張られた。
「荘っっ!!!!」
「し、の」
気がつけば、自分も信乃と共にベッドにいた。
信乃は身体を起こすと、自分を見下ろしている。
その顔は何やら怒っていた。
その原因がよくわからない。
信乃を起こすことはいつもの事……。
「お前は……働き過ぎだッッ!!」
「は?」
「いつもいつも……朝早くて……」
「でも、そんな早い時間でもないですよ?」
「いつも…………隣にいないし……」
「……………」
これはもしかして……?
「それって……つまり寂しかった……とか」
「っっ!!」
どうやら図星らしい。
信乃はどうやら……ずっと自分と一緒にいたいと思っていてくれたらしい。
その不満がたまりかねたようだ。
そんな風にされれば……口が緩む…。
「すみませんでした、信乃」
「あ……謝るなっっ」
信乃を引き寄せて、横になったまま抱きしめる。
こうなれば、簡単には動けない。
「そ……荘?」
「今日はもう少しこのまま……でいましょうか?」
「……うん」
信乃も素直に頷き、されるがままになっている。
今日は寝坊決定だが……それも悪く無いと思っていた。
~fin~
「荘介?」
ふと目を覚ますと、隣にいたはずの荘介がいない。
信乃がのそのそと眠い中で起きると同時に、部屋のドアが開いた。
「信乃?起きました?」
「荘?どこに言ってたんだ?」
起きるまでそばに居て欲しかったのに、そう信乃は口を尖らせる。
そんな信乃に苦笑して、荘介は持っていたカップを信乃へと渡した。
カップからは湯気が出ている。
「これですよ」
「あ……ココア」
「その格好だと冷えると思って……」
現在、信乃は素肌の上に荘介のシャツと上着を着ているのみだ。
「荘介が着せたくせに……」
「仕方ないでしょう。裸のまま寝るって言うし……さすがに風邪引きます」
信乃は言い返せず、持っていたカップに口に寄せる。
淹れたてのココアを口にすると、ほんのりと甘い。
温かいココアは、こちらの心まで温かくなるようだ。
それに何より……。
「…………」
「信乃?着替えないんですか?」
「やだ」
「信乃?」
「………荘介の匂いがするから……まだこうしていたい。すごく安心する」
「…………」
荘介は信乃の持っていたカップを取り上げて、ベッドのサイドテーブルへと置く。
「荘介?」
「匂いだけで………満足しないでください」
ギュッと抱きしめられて、信乃は顔を綻ばせた。
「……やっぱり本物が一番っ」
信乃は荘介に抱きしめられて、身も心も温かくなった。
~fin~
何故か……朝起きたら……とてつもないことが起きていた。
「……これはっ!!」
「う?」
驚く荘介の顔がやたら高い。
そして……自分の手がすごく小さく感じて……。
身体も小さくて……。
「…………」
「…………」
ジッと荘介と見つめ合うこと数秒……。
「え……嘘だろーーーーっ」
信乃の叫びだけが響いていた。
信乃はどうやら……更に子供の姿になったらしい。
「うー」
理由は全く分からないが、大体5歳くらいの姿になってしまった信乃。
「一体何なんでしょうね……」
荘介が考えていると、信乃がジッとこちらを見ている。
「何です、信乃?」
「荘介、お願いっ」
「……」
「四白の姿になって」
「何でです……」
何やら嫌な予感しかしない。
「せっかくこの姿になったんだし、四白に乗ってみたい」
「……信乃……もう少し事態を深刻に……」
「ダメ……?」
「っ!!」
首を傾げてお願いする信乃の姿が……とても愛らしく……とても凶悪だ。
「……っ」
「荘介?」
自分を見つめる信乃に……荘介が取った行動は……。
「やったーーー。これやって見たかったんだっ」
「……(危険だ)」
四白の姿の荘介は……複雑な思いで信乃を乗せていた。
…続?
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