――どうも、四白です。
お久しぶりの方も、初めましての方もよろしくお願い致します。
年齢は秘密ですが、犬塚信乃の飼い犬です。
現在、訳あって信乃の幼なじみの犬川荘介と身体を共有しています。
その辺りは前回にお話をしたのですが、簡単にご説明させていただきますね。
荘介は人である自分の姿と、犬である私の姿に両方になれます。
ほとんど荘介が表に出ているので、私は荘介の視点から感じ取っています。
今は荘介が主で動いていて、私は荘介と共有しているだけ。
その辺の仕組みは複雑ですが、私は何もしなくても2人の生活を見ています。
便利ですねっ。
今では信乃と荘介の親代わりとして、彼らを見守っています。
見ることしか出来ないんですけどね。
前回は2人の生活を覗いたので、今回は昔話でもしましょうか?
年寄りの話は長くなりますけど、どうぞお付き合い下さい。
――大塚村。
「……」
あ……あくび。
天気がいい日は眠くなります。
ゴロゴロとして、ご飯まで待ちますかね。
それとも……。
身体をすっかりと落ち着けて、うとうととしかけた時でした。
「信乃、大人しく寝て下さいっ」
「やだっっ」
大きな声で言い合う2人。
その声に、こちらは思わずため息がもれます。
……またですか。
ちらりと視線を向ければ、廊下では荘介と寝間着姿の信乃が何かもめていますね。
まあ……大体の予想はつきますが……。
「今は何ともないから平気だってっ。だから……遊びに……」
「昨日は熱があったばかりなんですよ!!!」
「今は下がったから大丈夫だっ」
「信乃っ」
「……荘介は心配しすぎなんだよっ」
「信乃は……自分の身体にもう少し気遣ってください」
「そんなの……荘介に言われたくないっ」
「信乃っ!!」
「…………」
「…………」
――ああ、この展開はまずいですね……。
2人は苛立って……黙りこんでます。
――このままでは。
本当なら仲裁に入りたいんですが、ここはあえて見守りましょう。
自分の気持ちをぶつけることは大事ですからね。
けれど、事態はあまり思わしくないようです。
顔をあげた信乃は、怒った顔のままで……どこか悲しみもある表情でした。
「……荘介は俺を部屋に閉じ込めてれば……満足なんだろ」
「そんなことは言ってないでしょう……俺は」
「もういいっ」
「信乃っ!!」
これで話は終わりとのばかりに、信乃は自分の部屋へと閉じこもりました。
荘介の声は届かずに……。
静かになったその場所に、荘介は立ち尽くしています。
「…………」
荘介も自分の気持ちが上手く伝わらず、喧嘩になってしまったので……悲しい顔をしていますね。
――やれやれ。
互いが互いを思う故、の喧嘩でしょうかね、これは。
信乃の身体が心配な荘介。
荘介と一緒に遊びたい信乃。
それだけなのに‥…。
まったく、見ててもどかしい子供たちですね。
――それから信乃は部屋へと閉じこもったまま。
荘介は、信乃の部屋の前の縁側に座り込んだまま。
まったく――。
ここは私が何とかするしかないですね。
そう思い……私は荘介の傍へと近づき……荘介の隣に座りました。
「……四白」
荘介の顔は悲しみに満ちあふれていて……。
信乃を怒らせた事を相当堪えているようです。
「ダメですね……。信乃を怒らせてしまいました」
仕方ないです。
荘介は信乃を心配してるだけなのですから…‥。
「もっと……信乃の気持ちを汲んであげればよかったのですが…・…どうしても信乃が心配で……」
――。
「どうしても……上手くいかないです。信乃にだけは……」
それも仕方ないです。
特に信乃は……わがままのところもあり……強い意思を持っています。
人と関わることは……自分の思うようにいかないものですよ、荘介。
過去の記憶を持たない荘介は、人とどう関わってきたかも覚えていない。
そんな荘介が関わった初めての人が……信乃。
喜びや悲しみ、怒りや楽しみ……その感情も信乃と出逢って、初めて実感出来ているのです。
だから……。
荘介が上手く立ち回れなくても、それは人との付き合いでは仕方がないこと。
むしろ、その経験を経て……学んでいくのですから……。
私は荘介の肩を軽く叩きました。
焦らず……ゆっくりとやっていきなさい。
そう想いをこめて……。
「四白……ありがとう」
荘介はぎこちない笑みを作って……こちらへと向けてくれました。
――さて、そろそろでしょうかね。
そう思っていると、近くの戸が開きました。
「信乃……」
「…………」
部屋から出てきたのは信乃で、ジッと私たち……いえ荘介を見ていました。
「……荘介、ごめん」
「……信乃」
多分私たちの会話……荘介の声だけなんですが……それが聴こえて……信乃が出てきたのでしょうね。
信乃の顔は怒りはどこかへと消えて、信乃もまた悲しい顔をしていました。
「俺……荘介と一緒に遊びたかっただけなんだ」
「信乃」
「ごめ……」
最早泣いていた信乃に、いつの間にか立っていた荘介が……信乃の頭を撫でています。
その温もりを受けて……信乃が荘介へと抱きついていました。
荘介もまた……信乃を抱き返してて……。
「体調が整ったら……また出かけましょう?」
「ん……」
涙を流しながらも、信乃はようやく笑顔になって……。
その笑顔を見て……荘介も本当の笑顔になっていました。
――ふう、世話が焼けますね。
これでは進展するのも……まだまだ先のような気がしますよ。
2人の恋は……。
――現在。
「信乃、また買い食いしましたねっ」
「ううっ」
どうやら……買い食いをして……お金を無駄使いをしている信乃を荘介が怒っていますね。
何年経っても、2人は喧嘩が絶えないようです。
昔から……変わりませんね。
けど、変わったこともあります。
「だって、腹減ったんだよっっ」
「全く……」
呆れる荘介ですが、信乃へと何かを渡しています。
「荘介?」
「クッキー作りましたから……これでも食べててください。すぐに夕飯にしますから……」
「やったー」
嬉しそうな信乃に、荘介も喜んでいるのが全身でこちらに伝わってきます。
荘介は前以上に信乃に対して過保護で……甘くなってますね。
それに信乃も荘介には甘えてます。
微笑ましい……微笑ましいのですが……。
何というか2人の空気が甘い気が……。
信乃が荘介へと抱きついてきて、その笑顔を荘介へと向けています。
「ありがとう……荘介」
「信乃……」
荘介が身を屈めて……信乃に……。
――あ……この感じは。
…………すみません、伝えづらいです。
………………しかもすぐに終わらないし……。
――ふう、やれやれ。
想いが通じ合ってよかったですが、ここにいる人……いえ犬の存在も忘れないでほしいものです。
まあ……仲がいいことはいいんですが……親心としては複雑ですね。
声は届いてはないんですけどね……。
――って、まだですか……。
――ああ、荘介が信乃を抱き上げてるし……、部屋に向かってるし……。
仕方ありませんね、これ以上はもう見てはいられないので……今日はここまでにしましょうか。
2人の仲に幸あれ。
~fin~
――ずるい。
「……は……やめろっての」
体格差があると、不利だ。
それを信乃は今、身を持って思い知った。
自分の逃げ道を塞がれると、唇が重なる。
顔を背けようとしても、相手のほうが一枚上手だ。
「……やっ……蒼……」
「嫌なら……拒めばいい。斬りつければいいだけだ」
そう言って、蒼は妖しく笑うだけだ。
ずるい……ずるいずるいずるい。
「お前……本当にずるい奴だ……」
蒼を拒みきれないのをわかっていて、その距離を詰めてくる。
「ずるいのは……どっちかな?……信乃」
「……っ!!」
更に深く口づけられて、信乃は逃げ道を無くした。
そう……ずるいのは自分も同じ。
はっきりと答えが出せない……。
荘介も蒼も……どちらも選べないのだから……。
信乃は思考も視界も閉じて、暗闇の中に落ちていった。
~fin~
Twitterでの八犬伝小ネタ。
甘えたい日編。
ベッドで横になっていると……。
荘介「信乃?どうしました」
信乃「ちょっと……こうしてて」
荘介「……はい」
荘介は優しく笑うだけ。
信乃は恥ずかしくて、目を閉じた。
恥ずかしくて……どうにかなりそうで……。
でも……。
(やっぱり……好きだ)
手を繋いで……その感触にホッとした。
すると、荘介もまた握り返していた。
暑い日の夜編。
荘介「さて、寝ましょうか?」四白になろうとする
信乃「今日はそのままでいい」
荘介「な……何でです?」内心で動揺
信乃「四白の毛……暑い」
荘介「…………」
(それは仕方がないのにーーー)by四白 荘介の中での叫び
信乃「へへっ」ギュッと荘介に抱きつく
荘介「暑いんじゃないんですか?」
信乃「これが一番安心して眠れる……」
荘介「…………」
Twitterでの小ネタです。
ミニマム編。
「荘介……ちっさい」
「……どうしましょうかね……これ」
信乃の膝の上には、何故か小さい子供の荘介。
いつもの大人っぽさはなく、子供の愛らしさ。
「荘介、四白になってっっっっ」
「…………」
プロポーズ編。
「荘介、一生俺にご飯を作ってくれ」
「何ですか?それ…」
「ん?プロポーズってこういうのだろ?」
「……」
「俺はもう荘介の飯がないと生きていけないからな」いい笑顔
「……(これは喜ぶべきなのか?)」
Twitterなどでの小ネタです。
『信乃を過保護にしてる』
『信乃をわがままにしてる』
そんな風に周りは言うけれど。
自分にはない……輝きを……大事にしたいから自然とそうなる。
……君は笑うから。
その笑顔が見たいから……甘やかしたくなる。
膝枕編。
「荘介!!」
「はい?」
「今日は俺が膝枕するからっ」
「……は?」
「ほら、横になって」
「……」
素直に横になる荘介。
「何ですか急に?」
「たまにはお前を見下ろしたくなって……」
「?」
「こうして眺めていたいんだ。荘を」
「……」
教会に引き取られて、信乃の髪の話です。原作のなので、アニメのみの方は意味がわからないかもしれません。
「―荘。自分じゃ上手く切れねぇんだよ 頼むわ」
――そう言って、信乃から渡されたハサミ。
まさか……この手で信乃の髪を自分で切るなんて……。
浴室で静かにハサミで髪を切る音が響く。
「…………」
「…………」
互いに何も言わず……聴こえるのはハサミの音だけ。
『弱さ』の証だった長い髪。
だけど……その髪はもう必要ない……。
その身に化け物を抱えて、『強さ』を身につけたと言う……信乃。
それが……自分とは違うものだと思い知らされる。
信乃と自分にある……確かな違いを――。
「終わりましたよ、信乃」
「おー軽いっ。サンキュー」
信乃へと告げると、嬉々している信乃。
「…………」
先程まであった長い髪は自分の手で切り落とし、今は無くなったうなじを見つめる。
信乃の細い首。
小柄な身体。
弱かった証は消えていく……それでも。
気がつけば……その首筋に唇を寄せていた。
「そ、荘?ど、うしたんだ?」
突然のことに信乃は驚き、その様子におかしくなる。
「ちょっとした……誓いのようなものです」
「???」
信乃は意味がわからないと首を傾げる。
わからなくていい。
これは『誓い』だ。
たとえ信乃が……どんな存在になろうとも……。
その身に代えても……信乃を守るという誓いなのだから――。
~fin~
私めは1日目で燃え尽きました(笑)
ですが、来て下さった方ありがとうございます。
今後は近況などはこちらで全てお知らせしていきます。
別に分けていたサイトは8月中に撤廃します。
BLの作品に関しては支部であげていますので、
→で見ていただければと思います。
BL関連のお話はここで言っているとは思いますが、
作品は支部のみで。
今の私は八犬伝の更新が主なのでした。
アニメ2期が始まってからは毎週日曜はテレビで正座です。
アニメ終わったら廃人になってそうですね(笑)。
原稿が終わってからは、ゲーム解禁になったので
友達からダンガンロンパ1・2を借りてプレイしましたっっ。
霧切さん可愛いよ、霧切さん!!!!!!
霧切さんが超好きです。
ゲームクリア後はアニメも見てます。
モノクマの横顔とか斬新すぎて。
ナエギリの組み合わせがやばいですね!!!!
動きつきは素晴らしいなぁと思います。
今後の活動ですが、ラヴコレは玄花で本を出す予定。
スパークはお手伝いかサークルかで八犬伝。
冬コミも八犬伝で申込予定です。
昔、蒼が表に出てきていて信乃と対面したら……という話です。
その世界が一瞬、鮮やかになった。
「……何だ、これ」
それは不意に起きた。
『荘介』の奥底で眠っていたはずなのに、唐突に目覚めた。
本来の荘介である……『俺』が。
作られた『荘介』は、今は引っ込んでいる。
「今は……俺が表に出てるのか……」
偶然か気まぐれか。
何にせよ、ようやく自由になった。
「――荘介、どうしたんだ?」
「っ」
その声を聴いて、固まってしまった。
目の前の犬塚信乃という……存在に。
『荘介』の目から見ていたから、信乃の存在は知っている。
『荘介』が信乃に心惹かれていることも。
今この場で、『俺』という存在を見せつけたらどうなるのだろう?
「荘介?大丈夫か?」
だが、心配そうに見つめている信乃に、その考えは消えた。
「いえ……大丈夫です……信乃」
気がつけば『荘介』を装い、何事も無く振舞っていた。
「そっか。でも荘介は……体調悪くても隠すからなーーー」
「大丈夫です……」
「……」
ジッと大きな目がこちらへと向けてきた。
「何か……荘介。いつもと違う?」
「!!!」
「やっぱり風邪か?」
その小さな手のひらが額へと触れる。
確かに、その温もりを感じた。
「うーん、熱はないみたいだな」
「…………」
その手のひらがそっと離れる。
どこかそれが名残惜しく感じた。
「何かあったら言えよ」
「信……乃」
「ん?何……荘介」
名を紡いでも、信乃の口から出るのはあの『荘介』だ。
でも……わずかでも自分の存在に気づいてくれたことが嬉しい。
「信乃……」
その名をもう一度口にした時…。
ぐらりと世界が揺れる。
自分の意識が……どんどん落ちていくのがわかった。
表に出れたのはほんの一瞬。
すぐにあの『荘介』に戻ってしまった。
それは……ほんのひと時の話。
ひと時だけど……夢のような時間だった。
~fin~
眼鏡な荘介を書きたくて書いた話ですっ。そんな荘信の話っ。
信乃はジッと目の前にいる荘介を見た。
荘介は手元にあるノートに書き込んでいる。
自分も同じようにノートを広げてるけど、どうしても荘介を見てしまう。
勉強の時は、眼鏡をかける荘介。
どこかいつもとは違う雰囲気に、信乃はつい見てしまうのだ。
その視線を荘介が気づかないはずがない。
「……信乃。出来たんですか?」
「まだ」
荘介が信乃のノートを見て、ため息をついた。
「……ここはさっき教えたはずですが?」
「だって、わからないんだから、仕方ねぇだろ」
荘介に言われて、信乃は顔を背ける。
自分でも後ろめたいのがわかっているからだ。
「心ここにあらずという感じですが?」
「だって……」
口をもごもごとさせながら、信乃はやっとのことで言葉にする。
「眼鏡をかけてる荘介……。いつもと違って落ち着かないんだ」
「え?」
「いつもよりもドキドキして……困る」
「…………」
別人みたいで……それでもかっこよくて。
いつも以上に、荘介から目が離せなくなる。
だからこそ……目の前の課題に集中できない。
そんな信乃に対し、荘介が眼鏡を外した。
「……信乃」
「え……んっ」
驚く信乃に荘介がその唇を重ねていた。
突然のことに、信乃は驚いて……。
唇が離れた時は、信乃の顔は真っ赤になっていた。
「な……何で……急に?」
「信乃があんなことを言うからですよ」
だから、我慢できなくなったと荘介は笑う。
「……それに何で眼鏡……外したんだよ」
「キスする時は……邪魔になりますからね」
「っ!!!」
「覚えておいて下さい」
「……っ」
眼鏡を外した時は……キスの合図。
信乃は身を持って、その合図を受け取っていた。
~fin~
荘信蒼の三人の話です。ざっと書いたので流してくださいませ。いつかもっとちゃんと書きたいかも?
年齢制限の話です。
――好き。
だからこそ、辛い。
それは月明かりの中で……行われる。
「ん……やっ」
「信乃……」
「信乃は可愛いな」
「も……こんなやめろって……」
「やめていいの?身体はこんなに反応してるのに……」
ピッと指で触れられると、その身体は痺れるようだった。
「ぁぁっ……っ」
口からは甘い声しか出なくて、熱を持った身体は汗ばんでいく。
荘介から後ろから抱きしめられるように抱かれて、蒼からは前から自分の一番敏感な場所に触れられていた。
三者三様……互いに肌を晒す。
――異様な、光景。
それなのに、繋がっている部分が……自分の理性を奪っていく。
触れられる部分が……おかしくしていく。
「こんな……のおかしい……」
信乃が訴えても、その意思は無にされる。
荘介にも、蒼にも。
「信乃……」
「信乃が選べないなら……俺達は俺達で勝手に動く」
「っ……」
「願いはただ一つ……信乃が欲しいだけなんです」
「……っ!!」
願いはただ一つだけ――。
【共に生きる……事】
自分は荘介も蒼も切り離せない。
そして、荘介も蒼も……それぞれの想いを信乃へとぶつけてくる。
自らの願いを叶えるために……。
「荘介……蒼…」
信乃は引き合うように、唇を重ねる。
荘介と……蒼に。
それが引き金。
「あっ!!!!」
「信乃……好きです」
「信乃……好きだよ」
「ぁっ……んっ……」
理性は溶けて……消えていく。
それは暗闇と共に……。
月明かりの中で……ただひたすら求めっていた。
~fin~
リクエストを頂いた蒼と佳穂の話ですーーー。りくありがとうございましたっっ。
「――ほらよ」
「何?」
佳穂が目の前にいる蒼に何かを渡された。
それは……先程まで自分が持っていた絵本。
蒼とぶつかった時に、本のページがバラバラになってしまったけど。
だが、手元に戻ってきたのはしっかりと整えられていた。
「これ……?」
「バラバラだったけどな。大体の順番に戻したから……、後は信乃に確認してもらえ」
「どうして……わかるの?」
元々の本はところどころ抜けがあって、信乃が読み聞かす時に毎回違う話をいれてくれる。
この本は、続きがわかりにくいはずなのに……。
「信乃だったら、大体こうすると思ってな……」
「…………」
蒼が……信乃の話をする時だけ……その言葉に温かみが生まれる。
温かくて、優しくて……聴いている佳穂にもそれが伝わるほど。
そして……温かい手のひらが佳穂の頭に触れる。
「……蒼」
「何だよ」
「…………ありがと」
「……どういたしまして」
見えないけど……蒼が笑ったのは佳穂にもわかった。
「じゃあな、佳穂。今度は転ぶなよ」
そう言って……風が吹く。
いつの間にか消えて……色んな人の声しか聴こえない。
気がつけば……佳穂の周りには誰もいない。
「…………」
佳穂に温もりだけを残して……。
~fin~
それはある夜の事。
教会に引き取られて…まだ間もなかった頃の話。
自分の部屋で寝る準備をしていた荘介が、いち早くそれに気づいた。
部屋の外の物音に。
それが誰かなんて、見なくてもわかる。
「――信乃?何してるんです?」
「そ……荘?」
扉を開けると、信乃が部屋の前で座り込んでいた。
その顔は驚きのまま、固まっている。
「何でわかったんだ?」
「わかりますよ、毎日来れば……」
そう、信乃はこの部屋に毎日のように来る。
その目的はただ1つだけ……。
「一緒に寝ようぜ」
「信乃……。そろそろ1人で寝れるでしょう……」
「……いいじゃん、別にっ」
止める間もなく、信乃は荘介の部屋のベッドへと飛び込んでいた。
その光景に、荘介はため息が漏れる。
この状態から信乃を部屋から出すのは不可能だ。
毎日許してしまう自分も自分なのだが……。
さすがに……困る。
今まで深くは聞かなかったが……そろそろ原因が知りたいところだ。
「信乃……どうして毎日部屋に来るんですか?」
「んーー」
「信乃?」
「荘介の温もりがあると……よく眠れるんだ」
「…………」
その表情は何かに怯えているようで……荘介は思わず黙りこむ。
(無理もないか……)
大塚村での事があってからまだ、日も浅い。
父親も村の人間も故郷も無くてしまった。
まだ……気持ちが追いついていない。
1人では不安になってしまうのだと――。
「……仕方ありませんね」
「いいの?」
「ええ。これからは……いつでも来ていいですから……」
結局は信乃の望む通りにしてしまう。
でも……根底では自分も何かに縋りたかったのかもしれない。
それは……信乃もだろうか…?
一緒のベッドで互いの温もりを感じながら……眠りにつく。
いや……眠っているのは信乃だけだ。
その安らかな寝顔に、荘介は戸惑う。
「全く……人の気も知らないで……」
信乃への気持ちを自覚しているこっちは……一緒に寝ることは辛いのに……。
けれど……それが信乃の望みなら……叶えてやりたいと思う。
「信乃……」
荘介は信乃の額へとそっと口づける。
今はまだ……これが精一杯。
荘介は信乃の寝顔を長い間見つめながら……静かに眠りについていた。
~fin~
6月の八犬伝プチで無配した学パロの荘信編です。
「ふぁーーっ」
信乃は授業が終わると、いつも屋上でゴロゴロとしている。
目的はもちろん……昼寝ではなく……。
信乃の視線の先にはいつも……荘介がいる。
現在、荘介はまだ教室で、授業の真っ最中。
この屋上は、荘介の姿を隠れて見える秘密の場所だ。
もちろん、荘介には内緒だ。
学年が違う信乃の方が……授業が終わるのが早い。
一人で先に帰ってもいいのだが、信乃はこうしていつも荘介を待つ。
荘介はいつも真面目に授業を受けていて、その姿を見るだけで顔が緩む。
何をするのでもなく、ただジッと見つめるだけ。
それが信乃の何よりの幸せの時間だった。
チャイムが鳴ると、どうやら向こうも授業が終わったらしい。
慌ただしく、生徒が動いているのが目に入る。
そんな中……、信乃は不機嫌になった。
「……何だあれ」
荘介の周りに数人の女の子がいて、荘介はいつもの笑顔で相手をしていた。
「…………」
見慣れた光景だけど、胸が痛くて…こんな光景……は見たくない。
信乃はその光景を背に向けて横になっていた。
それから……5分後。
「――信乃。お待たせしました」
「そ、荘介」
自分を覗きこむ荘介に、信乃は驚いた。
あれからそんなに時間が経っていないのに、もうここに来たのか?
教室からこの屋上まで、すぐに来た事になる。
信乃はここにいる事を荘介に告げてないのに……。
「どうして……ここにいるってわかるんだ?」
「どうしてって……それは」
チュッと一瞬だけ、唇が重なる。
「……っ」
唐突に行われたそれに、信乃は固まって何も言えなかった。
「秘密ですよ」
「え……何だよーー、それっっ」
不満顔な信乃に、荘介は笑っているだけだ……でも。
ギュッと、信乃は荘介の腕にしがみつく。
「信乃?」
「……もっと」
「…………はい」
信乃の気持ちは先程とは違って、嬉しい気持ちでいっぱいだ。
こうして、一番に自分のところに来てくれたから……。
信乃は知らない。
信乃から見える屋上は……荘介の教室からでもしっかりと見えていることも……。
教室から見える信乃はとても微笑ましく……荘介としてはとても愛らしく見えた。
それは……荘介だけの秘密だ。
荘介は目の前の信乃の望みを叶えるために、行動を移した。
~fin~
「信乃……食事を……」
お膳を持って、障子を開けた時に荘介は固まった。
寝間着を着ている信乃は、上半身の素肌を晒していた。
女の子の姿をしているだけに、その格好は心臓に悪い。
荘介はすぐに障子を閉めた。
「何て格好してるんですか……」
「悪い……あつくて」
「だからって……風邪引きますよ。着替えて下さい」
「うん」
荘介が新しい寝間着を信乃へと渡すと、信乃が着ていた物を脱ぎ始めた。
――信乃の白い肌。
柔らかい感触。
長い髪が肌へと張り付いていて……。
「っ!!」
「荘介?」
「……いえ、俺はちょっと出てきますから」
「?」
このままでは心臓に悪くて……荘介は逃げるようにその場から部屋を出た。
信乃の部屋から離れた場所で、荘介はようやく一息つく。
「心臓に……悪い」
間近で見る信乃の肌はどこか艶めいていて、扇情的だった。
幼さは残るものの、漂う色気があって……。
それが荘介の中でざわめくのがわかる。
その現象は頭では理解していたけど……。
信乃への気持ちが……とどまらなくなりそうで……。
今までにない感覚に荘介は戸惑うばかりだ。
気持ちだけでなく……身体も求めてしまいたくなる。
白い肌は汚れがない証。
それに引き換え……自分は。
「信乃……」
荘介は自分の中にある、形にならない想いを……どうすればいいのかわからなかった。
~fin~
――困ったことがある。
それは……恋人が2人もいるから……だ。
「信乃。また食べこぼしてますよ」
「うー」
そう言って信乃のの口元を拭いてくれるのは、荘介。
世話焼きで甘やかしてくれる。
「しーの」
「くっつくなっての」
「いいじゃん、別に」
こちらの言い分も聞かず、抱きついてくるのは、蒼。
2人は同じ顔で……信乃へと触れる。
彼ら2人で……1人だ。
いつからだったかは覚えていない。
昔から幼なじみとして一緒にいた荘介に……、新たな蒼という人格が生まれたのは……。
『夜』になると蒼が現れる。
その現れる条件は、太陽が見えなくなった『夜』という時間のみだ。
逆に……太陽が現れる『朝』『昼』は……荘介だ。
荘介として一緒にいた信乃は、蒼の存在に戸惑いしかない。
顔も声も一緒なのに、性格が違うとここまで違うものかと思う。
荘介とは穏やかな時間を過ごせるのに、蒼は……。
「信乃、どうしました?」
「ん、別に?」
「何か疲れてるようにも見えますけど……」
「平気だって……荘介っ」
荘介は自分の膝へと信乃の頭を乗せる。
「少し休んでください」
「…………」
「信乃?」
「……別に」
どこまでも甘い荘介。
だけど……どこか物足りなくて……。
もっと触れて欲しいのに、荘介はいつも踏みとどまる。
でも……今の関係も心地良くて……。
自分たちは同じ所で立ち止まったままだ。
太陽が沈めば、その甘い時間は終わる。
「いい加減、俺にも甘えてほしいけど?」
「やめろって……」
ソファーに座っていれば、その距離は近すぎる。
そして……自分の肩や顔へと触れてくる。
荘介と同じ匂い……なのに、どこか違う。
別人に触れられているような……そんな感覚に陥る。
「信乃…」
「やめろっ……」
蒼はその身体の重心を信乃へと向けると、その反動で信乃の身体が倒れこむ。
その流れのまま、信乃の身体はソファーへと沈み込んでいく。
服を捲られて、蒼の手が信乃の下腹部へと触れた。
その手の動きに、信乃は甘い声をあげるしかなかった。
蒼の手に翻弄されて、信乃はされるがままだ。
頭のどこかで……、蒼と荘介がかぶった。
ようやく……信乃は自分の意志で声が出せるようになっていたものの、身体はまだ上手く自由にならない。
「ね、今日こそ……抱いていい?いつも信乃が泣いて嫌がるから……」
「……やだって……それだけは……ダメだ」
「何で?……俺だって荘介なんだよ?」
「だって……」
望むのは……荘介だけだ。
「俺に触れていいのは……荘介だけなんだ」
「…………」
「……お前じゃない」
信乃の言葉に蒼はジッと自分を見下ろす。
その顔は何故か笑っていた。
「――いいこと教えてあげようか、信乃」
「?」
「俺が生まれたのは……信乃のせいなんだ」
「え……?」
「俺がこうして……信乃に触れるのも……抱きたいって思っているのも…………全て荘介の意思」
「荘介の……?」
「信乃への欲情から……俺は生まれた」
「…………っ」
驚く信乃に対して、蒼は静かに語りかける。
「信乃は純粋に荘介へと想いを向けてくれるけど、荘介はそうじゃない。いつだって、その身に信乃への熱い想いが秘められている」
「…………」
「本当はその肌に触れたくて、抱きたくて仕方がなかったんだよ。荘介は……。でも……信乃はそんな風に思っていないから……だから想いを閉じ込める」
「…………」
「閉じ込めるけど、湧き上がる想いは止まらなくて……それでも閉じ込めて……飢えて仕方なかった……だから……それを俺の人格を作ることで逃げ道を作った」
蒼の言葉は信乃の中に入っていく。
その言葉は……真実なのだとわかる。
「それが……俺の存在理由」
「お前の……?」
――蒼の存在、理由。
――荘介は思いつめて……苦しんでた?
だから……蒼が生まれた?
「でも……俺だって、俺の意思がある」
「…………蒼?」
「だから……『俺』も信乃が好きだよ」
「っ……」
近づいてくる蒼の顔に信乃は……。
「だったら……尚更っ」
「って……!!」
「俺を受け止めるのは、荘介だけだ!!」
信乃は思い切りその足を振り上げて、蒼のみぞおちにあてていた。
「俺は……やっぱり荘介が好きなんだよっ」
信乃はソファーから下りて、その場から抜け出して部屋を出て行く。
1人残された蒼は、ソファーでため息をついた。
「あーあ、振られちゃった」
始めからわかっていたことだけど……。
「強引にいけば……上手くいくと思ったんだけど……な」
弱みにつけこめば、信乃は拒まないと思った。
だが……結局信乃は荘介の想いを貫いていた。
「ま、それでこそ俺『たち』の信乃だ」
手に入らないからこそ……焦がれる。
そして……惹かれてやまない存在だった。
――翌日。
「荘介っ!!」
「信乃……っうわっ!!」
信乃は勢いのまま、荘介をベッドへと押し倒していた。
「いたた……何ですか?」
「荘介……」
「どうしたんです?」
何かを感じ取ったのか、荘介が心配そうにこちらへと視線を向けている。
(……やっぱり)
信乃は荘介の顔を見て、心がギュッと締め付けられるようだった。
「俺……荘介が好きだ」
「信乃?」
「だから……もう抱え込むな」
「し……の」
驚く荘介に信乃がその唇を塞ぐ。
そして……そのまま荘介へと身を任せた。
荘介と信乃は……晴れて、真の恋人同士になれた……。
――と、思っていたのに。
「何だって、お前がまた現れるんだよ!!」
「別に俺は諦める気はないし……」
「はぁ?だって……俺は」
「今は、荘介が好きでも、これからはわからないだろ?」
「………」
ここまで前向きだとある意味感心する。
がっくりとしていた信乃に、蒼が満面の笑みを見せた。
「長期戦で行くからさ。覚悟しててっ」
「冗談じゃない!!!!」
まだまだ……信乃の受難の日々は続きそうだ。
~fin~
――雨。
決して……小降りではない雨の中、動けずにいた。
「…………」
「……ダンナ。そろそろ……」
「…………」
無言のままでいる蒼に、紺はため息を吐いた。
こうなると、てこでも動かない。
それは紺も身にしみてよくわかっていた。
蒼の視線の先にはあの信乃という子供と、蒼と同じ顔をした荘介。
二人は雨宿りをしていて、その姿は仲睦まじい。
そんな光景を蒼は何度も見ている。
そして、その隣で紺も何度も見ていた。
「………………信乃、笑ってる」
「…………」
「……………」
蒼の表情は穏やかで、紺は何と言ったらいいのか……迷う。
「…………」
「いいんですか?ダンナ。このままで……」
「今はね……。あの笑顔に……俺にはまだ……することが出来ない」
「…………」
「信乃には隣にいて欲しいけど、笑顔はあのままでいてほしいんだ」
――今は……荘介が隣にいたとしても。
「だから……俺は自分のすべきことをして……信乃を迎えに行く」
今はまだ、荘介には及ばない。
力も足りなくて……信乃の心に自分はいない。
でも……信乃への想いは止められなくて……。
だから……今は。
その笑顔を見つめることを……許して欲しい。
何よりも……大切な笑顔だから……。
~fin~
――犬塚家で飼われて、早十年以上。
年齢はもう数えるのを忘れましたが、名前は『四白』と言います。
どちらかと言えば、年寄りに入りますが……まだまだ若犬には負けませんよ。
毛の艶もいいですし、ね。
動きもいいですし、主も手入れをしてくれています。
最近の心配はそろそろ夏が近いので、ノミが増えることでしょうか?
この時期を思うと、憂鬱になりますねぇ。
ああ、そんな私の悩みは置いておいて。
現在は訳あって、主の幼なじみの犬川荘介という人物と身体を半分共有しています。
その仕組みはちょっと秘密ですが、今は深く考えないでください。
身体を貸していますが、実質の主導権は荘介に渡してあります。
私はどちらかと言えば、傍観者……いえ傍観犬ですね。
私は犬なので、彼とは話せませんが彼の想いは敏感に感じ取ってます。
今日はそんな彼と……彼の大事な人とのやり取りでも見てみましょうか?
荘介は状況によって本来の人の姿であったり、私の姿であったりします。
その方が色々と都合が良いようですね。
荘介が人の姿でも傍観できるので、こちらとしては楽しいですが……。
そんな荘介は人の姿で……ある人物を探しているみたいです。
その相手は……もちろん。
「信乃、ここにいましたか?」
「あ、荘介」
荘介の目線の先には、小柄な少年。
私の現在の主でもある犬塚信乃がいます。
信乃は部屋のベッドで寝っ転がってますね。
本来は彼の父が私の主なんですが、彼はもうこの世にはいないので信乃が現在の主です。
彼の父と同様に……信乃と荘介の成長を見てきたので、最早2人は私の子供みたいなものですが……。
「何かあったの?」
「ええ。パンケーキが出来たので、呼びに来たんです」
「パンケーキ!!食べるっ」
「だったら……起きて手を洗ってください」
「うん、わかったっ」
信乃は瞳を輝かせて、ベッドから飛び降りています。
ああ、荘介の心がわずかにですが乱れてますね。
信乃の笑顔に、荘介も嬉しさを感じているのが伝わってきます。
荘介は昔っから信乃には甘かったですが、更に甘くなったようにも思えます。
沢山のパンケーキを前にして、信乃はキラキラと満面の笑みを向けています。
もうああなると、他の事には目が入らなくなってますね。
信乃は勢いよくパンケーキを食べ始めています。
そんな信乃を見て、荘介は……。
「ほら、信乃。そんなに慌てると……詰まらせますよ」
「平気だって……ぐっ」
「だから言ったでしょう。これ、飲んでください」
案の定、詰まらせてしまう信乃に荘介が飲み物を差し出します。
信乃はそれを受け取って、口の中の物を流しこんで落ち着いたようです。
やれやれ。
「はぁ……、やばかった」
「信乃、食べる時はよく噛んでください」
「はいはい」
「信乃っ」
「わかったよ。母親じゃないんだから……」
「………」
―――荘介、苛立ってます。
口に出さない辺りは彼は大人ですが、荘介は時々信乃に対して小言を言っていますね。
甘くもあり厳しくするのが、荘介の方針のようです。
「ほら……口元についてますよ」
「わ……、荘介」
「甘い……ですね」
「だからって、口で舐めなくてもいいだろっ!!」
「つい……ね」
「荘介っ」
「はいはい。冷めますから食べてくださいっ」
「う……うん」
…………。
最近2人はこんな感じです。
信乃が何かをする度に、荘介が信乃を甘やかしています。
どうやら、荘介は信乃が可愛くて仕方がないようです。
信乃も荘介に触れられて、真っ赤にしていますし……。
どうやら2人の仲はますます深まってます。
荘介が信乃に抱く感情は……前から知っていました。
彼を切なく見つめ、内に様々想いを秘めている事も。
信乃に対する恋情はもちろん。
憎しみ・悲しみも。
あとは彼を切望しすぎて……狂おしいほどの気持ちも抱えていたことも。
だから、信乃と上手くいってホッとしています。
親心としては複雑ですね。
何か大事な子供を取られちゃったような……。
娘を嫁に出したような気分です。
いえ、厳密には娘でもないし、信乃は子供じゃないし……、ましてや私は犬なんですが……ようは気持ちです。
……と、話が大分それましたね。
パンケーキを食べ終えたら、何やら2人は出かける事にしたみたいですね。
ああ……教会に行くんですか。
教会でお世話になることが決まって、2人……いえ特に荘介は慌ただしい日々を送っているようですね。
教会の手伝いをしたり、教会の建物の修繕をしたり、忙しく遣われています。
彼は何でも出来るんですが、何でも引き受けてしまうのが困りものですね。
だって……。
「今日も教会で修繕?」
「ええ。屋根の方と……少し中も片付けないと……」
「ふうん」
信乃はそんな荘介に少しご不満。
だって、荘介に相手をしてもらえないですからね。
荘介も甘やかしてますが、信乃も甘えてます。
時々相手してあげないとむくれますよ、荘介。
それをわかってるのか、わかっていないのか……私でもわからない時があります、困ったものですね。
「信乃?」
「……別に、そんな毎日行かなくてもいいじゃん」
「一応、里見さんに言われてますからね。ちゃんと仕事は果たさないと……」
「……」
「今日は信乃はどうします?」
「……一緒に行く」
「はい、わかりました」
むくれながらもついてくる信乃に、荘介はご満悦。
何だかんだ言っても、荘介と一緒にいたいようです。
微笑ましいですね。
2人が並ぶと身長差がわかります。
荘介は本当に成長しましたが……信乃は……。
いえ……この辺の話をすると湿っぽくなりますので、止めておきましょう。
教会に着くと、何やら来客でしょうか……。
こちらに気づきましたが……
「あ、犬川さん。こんにちは」
おや、最近良く教会に来る女性ですね。
お祈りでしょうか?
何やら……荘介に包みを渡しています。
「これ……差し入れなんです。良かったらどうぞ」
「ありがとうございます……子供たちも喜ぶと思いますよ」
「…………」
…………あ―――。
どうやらこの女性は、荘介に心を寄せているようですね。
荘介が笑顔で対応している横で、信乃が面白くなさそうにしていて……。
ああ……これはまずいですね。
結構信乃は心が狭いし、独占欲が強いんです。
荘介……、わかってます?
「…………」
女性が去った後も、信乃はまだむくれてますね。
掃除をする荘介に対して、椅子に座りながら信乃は微妙な顔をしていて……。
そんな信乃のわかりやすい変化に、気づかない荘介ではないです。
一旦掃除を中断して、荘介は信乃へと近づいていきます。
「信乃?」
「何?」
「妬いてるんですか?」
「そ……んなわけ……」
荘介に指摘されて、ウッと反応してしまう信乃。
その表情から、図星だとわかりますね。
そんな信乃を抱き寄せて、荘介が顔を近づけて……。
……。
…………。
………………すみません、説明しにくいです。
そして……見続けにくいというか……。
信乃は真っ赤にしていて、荘介を軽く睨んでいます。
荘介はそんな信乃の顔も可愛いと思っているのが、伝わってきます。
「荘介はずるい……」
「そうですか?」
「そうやって、すぐ機嫌取ろうとする……」
「そんなつもりはないんですけどね」
「荘介の……馬鹿」
「はいはい」
荘介がすごい喜んでいるようですね。
荘介の心の中は信乃でいっぱいになっているのが、こちらでは感じ取れます。
信乃も恥じらいながらも嬉しそうで……、すごい居づらいです。
「荘介、古那屋に行こうぜ」
「今日もですか?」
「だって、飯美味いもん」
「あんまり里見さんの負担をかけたくないんですけどね……」
そうは言っても、荘介は了承するところが甘い……。
結局は信乃の喜ぶ顔が見たいから、OKしてしまうようで……ふう。
古那屋へと行くと、信乃の表情がいきなり強張って……?ああ、成る程……。
「げ、現八」
「信乃、来たのか」
「ちょ……」
信乃に抱きつこうとしているのは、犬飼現八さんです。
憲兵隊隊長という肩書きを持っているのですが、彼は何故か信乃へと好意をよせているようで……。
「…………こんにちは、現八さん」
…………。
荘介、微妙にわかりにくいですが……苛立ってますね。
表面に出さないから……伝っていないけど……。
2人のやり取りを見て、心穏やかではないようです。
信乃よりも独占欲が強いのは……荘介かもしれないですね。
「近づくなって……。荘、助けて」
未だに繰り広げられる攻防から逃れるように、信乃は荘介の背中へとしがみついてます。
荘介は現八さんと信乃の間に挟まれていて……。
「何で、いつも荘介ばかり……俺にだって懐いてくれてもいいだろ!!」
「嫌だっ……。俺は荘介がいいんだっっ!!」
「…………」
あ、心が弾んでますね……荘介、わかりやすいです。
「兄貴、いい加減にしろ」
仲裁に入ったのは、現八さんとは乳兄弟で古那屋の息子さんの犬田小文吾さん。
毎度行われるこのやり取りを、いつも止めてくれます。
「信乃、荘介。すぐに飯用意するから待ってろ……。兄貴はこっちだ」
「何するんだ、小文吾」
「いいからっ、ババアが呼んでるんだよ」
「…………」
ずるずると現八さんを連れて行く姿は慣れていて、さすが小文吾さん。
「行きますか」
「そうだな」
この2人にとっては、毎回の事ですから……今更動じませんね。
さて、古那屋のご飯は美味しいからとても楽しみですっ。
屋敷へと戻ってくると、信乃がベッドへとすぐに横になってます。
「何か……疲れたな」
「そうですね……」
荘介からもわずかに疲れを感じます。
あの後、やっぱり現八さんが乱入して一騒動ありました。
小文吾さんも今頃……疲れているんじゃないでしょうか?
信乃と荘介は帝都に来てから……多くの人と関わり合うようになって……多くの感情を感じているようです。
喜びも悲しみも……2人には様々な想いを感じ取っている。
特に信乃の周りはトラブルが多いから、荘介の心配もつきなくて……見てるこちらもハラハラします。
でも……知ってます。
2人は2人で一緒にいる……この時間をとても大切にしている事を……。
荘介がベッドへと腰掛けると信乃がその背中に身体を預けていて……。
「荘……」
「どうしました?」
「ん……ちょっと疲れたけど……こうしていると……安心するんだ」
「そうですか?」
「ん……」
「お疲れ様です……信乃」
ポンと頭を撫でると、信乃が気持ちよさそうに……はにかんでいて……。
あ、この空気……。
「信乃……」
「荘介……」
影が重なる2人に……またも説明しづらいというか……。
親としては複雑です……いえ、犬なんですけど……。
「荘……苦しいって」
「そうですか?そろそろ慣れてもいいと思うんですけど……」
「だって……そんな余裕ない……。ドキドキしっぱなしなんだよ」
「それは俺もですけど……」
「嘘だっ、いつも余裕じゃん」
「余裕に見せてるだけです」
「……………」
「全く信じてないようですね」
「だって……荘介上手な気がする……」
「器用なんです」
「……」
「だったらもっと……慣れさせてあげましょうか」
「ん…………」
ボスっとベッドが揺れる音が聞こえて……。
…………ああ、もうこれ以上は見ていられないですね。
今日はこれくらいにしておきましょうか?
我が子供たちに……幸あれ……。
~fin~
「~~♪っ」
「…………」
荘介が隣にいる信乃を見ると、信乃がやたら上機嫌に見える。
(久しぶりに……お小遣いが出たから……とか?)
朝、里見から臨時で小遣いをもらう信乃の姿を見ている。
それもあって、信乃は街の中を歩くのを楽しみにしていたのだが……。
それにしても……。
「信乃、何だか嬉しそうですね?」
「えっ、そうか?」
「顔に出てますよ」
「そっかーー。つい……」
顔が緩んだと喜びを隠し切れない楽しそうな信乃に、荘介も嬉しくなる。
だが、その原因が小遣いなのは……少々複雑だ。
「そんなに里見さんから、お小遣いを貰って嬉しかったんですか?」
「ば、馬鹿!!俺は子供じゃないっ」
「だったらなぜ?」
「…………わかんねぇの?」
「…………はい」
「……………」
素直に告げた荘介に、今度は信乃の表情が一気に暗くなる。
その落ち込み具合に、荘介もまずいと感じた。
だが……、すでに遅かったらしい。
「し……の」
キッと自分へと睨みつける信乃の顔が、明らかに怒っていたからだ。
「荘介のばーか、にぶいっ」
「ちょ……信乃!!」
不機嫌な信乃は、そのまま走り出していく。
その小柄な身体は、すぐに人混みで見えなくなってしまった。
「………まずいですね」
自分だけの小さな神様の機嫌を、本気で損ねてしまったようだ。
荘介は……急いで信乃を探しに走りだしていた。
荘介の傍から離れて、信乃はトボトボと歩いていた。
さっきまでの楽しさは一気に吹き飛んだ。
「何だよ、荘介の馬鹿……」
荘介は何もわかってない。
自分の気持ちを……。
「確かに……里見から小遣い貰って嬉しかったけどさ」
大きな理由はそれだけじゃない。
それなのに、荘介はまるで子供扱いだ。
実際は一つしか変わらないのに……。
「……」
多くの人が行き交う街の中で……賑わう中で……どこか寂しい。
改めて、今は一人だと実感する。
2人で並ぶと心が弾んでいたのに、今は……ただ孤独でしかない。
「信乃」
「っ」
信乃が名前を呼ばれてふりかえると、その相手を見て……信乃は落胆した。
「……何だ、蒼か」
「何だとは酷いな」
信乃の態度にも、蒼は気にせずに笑顔で話しかけてくる。
「今はお前の顔見たくないんだけど……」
「何だよ、荘介にいじめられた?」
「っ!!」
「あ、図星」
蒼に指摘されて、動揺する自分がいた。
やっぱり同じ顔だから……?
「そ……そんなんじゃ……」
「あんな鈍感な朴念仁よりも、俺のほうが信乃を大事にするよ」
「…………俺は……それでも荘介がいいんだ」
蒼に囁かれても……思い描くのは……荘介だけ。
自分の心を占めているのは……荘介だけ。
「荘介は信乃を傷つけるのに?」
「……っ」
「余計な……お世話です」
「荘介っ!!」
息を切らした荘介が、信乃と蒼の間に割り込む。
「へぇ……。信乃を傷つけたくせに、よく追ってきたね」
「誰にも……信乃を渡す気はありませんっ」
「別にお前の同意は求めてないけどね」
蒼が持っている刀に手をかけた時、信乃は村雨を呼びだそうとした。
――だが。
「ここでは……流石に分が悪いか」
蒼はすぐに刀から手を離した。
ここは街の中。
多くの人が行き交う中だが、蒼にとってはそれはあまり気にならない。
それでも……留まったわけは……。
「信乃を巻き込むわけにはいかないからね」
「…………」
にっこりと信乃だけに送る笑顔は爽やかなのに、荘介へは目もくれない。
また、荘介も笑ってはいない。
そんな一触即発の中……蒼が告げた。
「またね、信乃。荘介に飽きたらいつでも言って」
「誰が飽きるか!!」
言いたいことだけ告げると、蒼は人混みの中にあっという間に消えていく。
「…………」
「…………」
残された2人は、先ほどのこともあって少々気まずい。
そんな中……口を開いたのは……。
「信乃……すみませんでした」
「荘介?」
「信乃を……怒らせてしまって……」
「や……。俺が勝手に怒っただけだし……」
よく考えてみたら、荘介は悪くない。
自分が勝手に浮かれて、怒っただけなのに……。
「俺が……楽しそうにしてた理由なんだけど……」
「はい」
こうして口にするのは……ちょっと……いや、かなり恥ずかしい。
だが、ここまで来て言わないわけにはいかなかった。
「ひ、久しぶりに……さ」
「はい」
「荘介と出かけられるのが……嬉しかっただけなんだ」
「…………」
最後には小声になってしまって……恥ずかしくなって……何だかいたたまれない。
「そうなん……ですか?」
「そうだよ、悪いかっっ」
もう自棄になって叫んでいたが、それでも恥ずかしい。
「確かに……俺は鈍いですね」
「……」
「嬉しいです、信乃」
「っ!!」
荘介はあまりにも嬉しそうに笑うから……信乃の恥ずかしさは吹き飛んでいた。
荘介がギュッと信乃の手を握る。
「荘介?」
「今度ははぐれないように……」
「ん……」
信乃は照れながらも……小さく頷いていた。
やっぱり荘介と一緒にいるのは、嬉しい。
荘介が嬉しそうだと、もっと嬉しい。
信乃は繋いだ手を握り返して、荘介と共に歩き出していた。
~fin~
「はぁ……」
思わず、荘介はため息が漏れる。
生徒会の会議は……一向に終わらないからだ。
生徒と共に教師陣も顔を揃えていた。
「もう少し……化学室の薬品を揃えて欲しいんだが……。最近すぐに凍ってしまって……」
「道節先生……。もう少し管理をお願いします」
「美術室の道具も欲しいところだな」
「大角先生は……授業をきっちりとしてください。自分の作品を作るのに夢中になりすぎです」
「俺は……もう少し……信乃と……」
「現八先生はもう少し保健室にいて下さい」
「生徒よりも教師のほうが問題ね」
「……そうですね」
会長である要にことごとく却下され、それを見ていた浜路と荘介も呆れていた。
荘介は会議が終わり、ようやく校門に着いた。
だが……信乃はいなかった。
「あれ?」
荘介の前を信乃の同級生の仁が通りかかる。
「ああ、仁君。信乃……見ませんでした?」
「あれ?さっき、信乃と一緒にいませんでした?」
「いえ……俺はずっと会議で……」
「信乃ならさっき、荘介さんと一緒に帰ったと思ったんですけど……」
「俺と……?」
もちろん自分ではない……だとしたら……考えられることはただ一つ。
「……信乃」
「………荘介さん、顔怖いです」
仁の言葉が耳に入らず、荘介は駆け足でその場を後にした。
……続?
「はぁ……」
信乃はため息をついて、理事長室から出てきた。
その表情は暗く、疲れている。
信乃の予想通り、理事長で信乃の後見人でも里見から散々説教を受けた。
思い出すのは、先ほどのやり取り。
『信乃……授業はサボるか寝てるかで、真面目に受けていないようだな』
『え……そんなことねぇよ』
『教師から苦情が来ている。あと家庭科室の材料をつまみ食いしてるとかな』
『…………えーと』
どれも見に覚えがあり、信乃は反論出来ない。
里見の鋭い視線が、信乃へと向けられていた。
『これ以上続くようなら、こちらでも考えないといかないが?』
『ま……まさか』
『ああ、小遣いカットだ』
『っ!!!』
里見の通告に、信乃の顔が引きつる。
『ああ、でも一つあることをすれば……考えてやらないこともない』
『あること?』
何だかあまりいい予感がしない……。
『ああ。それとも学園の経営者の相手をするとかな』
『経営って……フェネガンッ!?』
『あの年寄りの話にでも付き合うのなら、お前の望みも聞いてやろう』
『これから……はちゃんとするので……それだけは勘弁して』
『言ったな?』
小遣いカットも恐ろしいが……、それ以上にフェネガンの相手も恐ろしい。
里見の言葉に、信乃は頷くことしか出来なかった。
「荘介はまだ……か」
時間をちらりと見て、生徒会がまだ終わっていないことを確認する。
荘介はまだ時間がかかると感じて、信乃は校門で待つことにした。
……が。
「信乃、見つけた」
「!!」
「な、何でお前が!!?」
「もちろん、信乃に会いに……だよ」
目の前には……今は荘介とは離れて暮らす荘介とは双子の……蒼がいた。
…続?
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